なくなって気付く愛

戒月冷音

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第10話

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それから、3年の月日がたった。

あの日から俺は、サンドラを探し回った。
領地中を探し、彼女の実家にも確認したが帰っていなかった。
それからこの国中に、人を派遣し探した。
そのかいあってか、いくらか情報は入ってきていた。
領地のとなりで、女一人で馬車に乗っていたのを見た人が居たり、馬車の中でとても親切にしてくれた女性が、辺境に行くと言っていたり…
そんな情報が入ってきていた。
そして…

「旦那様。見つかりました」
アントレが、執務室に駆け込んできた。
「何処だ」
「辺境に。マルコス男爵の領地で、男爵のお屋敷にいらっしゃったそうです」
「いらっしゃった?もう、そこには居ないのか?」
「いえ…それが…」
「どうした?」
「男爵のお話ですと、お屋敷にお迎えしてすぐお倒れになられ、昨年…
 お亡くなりになったそうです」
俺は、言葉をなくした。

亡くなった?死んだ…ということか?何故?あの時のシーツ…何かの病にかかっていた…のか。

取り留めない言葉が、頭の中を駆け回る。
俺は、彼女に何をしてあげた?
何も…何もしていない。
王都の屋敷に閉じ込め、こき使っただけの夫だ。
いや、夫と言って言い訳がない。
夫という名をもらっただけの、ただの男だ。


その思いを持ったまま、とりあえず彼女が居たであろう土地に向かう。
マルコス領は、辺境のとなり。
獣が出てくる確率も少ないが、そんなに栄えてもいない…
普通の土地だった。

「倒れてから、マルコス男爵にお世話になっていたのか?」
「はい」
「では、連絡を取ってくれ」
「…」
「どうした?」
「それが、マルコス男爵夫妻は、話したくないと言われております」
「だが、亡くなったのなら、世話になった礼と、その時の様子を…」
「ここにいることを知った者も、そう考え伝えたそうです。
 ところが、サンディは望んでいなかったと」
「望んでいない?」
「ご主人に会うことも、その頃のことも思い出したくないと。
 自分にになにかあっても、あの屋敷には戻らない。と言っていたようです。
 それを、マルコス夫人が頑なに守っている為、男爵はそれを支えておられると」
マルコス領に来てから、そんな事を聞くとは思わなかった。

サンドラはサンディと名乗り、マルコス夫人と仲良くなっていた。
でも、俺が迎えに来れば、彼女は帰ってくれると…勝手に思っていたのだ。
それが…亡くなった後も、関わりを無くそうとされた
「仕方ないか…俺が今までしていたことを、サンドラにされた。それだけだな」
そう呟くとアントレに指示を出し、マルコス邸の前を通過して帰ることにした。

街の中を通り抜け、もうすぐで邸の前…というところで、ある家族とすれ違った。
「お母様。ゆっくりでいいのよ」
「ありがとう」
「父上。母上を支えて上げてください」
「分かった。すぐに行くよ」
馬車の中から様子を見ると、母親は左側が動かないらしく右手に杖を持ち歩いている。
父親は、手に持っていた荷物を息子に渡すと、そっと母親を支えていたかと思うと、さっと前に座っておんぶしていた。

そんな姿を見て、俺もあんなふうにしていたら、今もサンドラは生きていたのだろうか…
と思った瞬間、涙がこぼれ落ちた。
「ご、御主人様…」
慌てるアントレに大丈夫だと言いながら、今頃自分の気持ちに気付く。


俺は、16のころ、あの小さな少女がちょこまかと動く姿が好きだった。
見かけても声はかけられなかったが、影に隠れてみていたほどだ。
なのに、27歳の時16歳の子供と結婚すると分かった時、恥ずかしいと思ってしまった。
11も離れた少女を抱けというのかと、父に怒鳴ったことも合った。

嫁いだ時は、まだ16。俺が居なければ、好きな事が出来る年だと思って王都の屋敷を任せた。
しかし自分の行いのせいで、彼女は小間使いとなってしまった。
俺はそれに気付かず、領地の屋敷で好のおのおと生きていた。

彼女に…好きだと言えば良かった。
愛していると…そうすれば彼女は…

今となっては、同仕様もないことだが。後悔ばかり浮かんでくる。
彼女を大切にすれば良かった。
こんな年の離れた男のもとに、よく嫁いでくれたと、伝えれば良かった。
彼女を……幸せにしたかった。

マルコス男爵邸の前を通過しながら、俺は礼を取り頭を下げる。
「ありがとうございました」
と言いながら、心で詫びた。

そしてそのまま家路につく。帰ったら王都の屋敷を売払い領地に住む。
二度と王都には来ず、田舎に引っ込むことにした。
悲しみに暮れながら、揺れる馬車の中で彼女のことを思い出していた。


馬車が通り過ぎた道の歩道で、馬車についた家紋を見る半身不随の女性が、旦那の背中で涙を流し、何度も謝っていたのを知っているのは、彼女の旦那だけだった。
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みんなの感想(1件)

ななし
2025.05.10 ななし

酷すぎ可哀想だった本当に何の為に生まれて死ぬのかって思うよね
ダンナに1番罰が必要なのに後悔で終わりって…
召し使い達も普通は名ばかりとはいえ
奥さまに暴力やら酷い事したなら
処刑が妥当では?甘すぎる😤

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