知性を与えられた猫たちは何を見る?

ChamalSei

文字の大きさ
45 / 68
終章 選ばれた未来

知性を与えられた猫たちは何を見る? 第45話

しおりを挟む
「君の考えは本当に君自身のものか?」

私の考え?もちろん私のものよ・・・でも待って、本当に?
これって・・・私が選んだことじゃなかったの?全部、AIの言いなりだったなんて・・私の考えが私のものじゃなかったなんて…じゃあ、私は誰なの?
「律佳ちゃん!!」

2匹とコタローの声で我に返る。
私は彼らを抱き寄せた。

「律佳ちゃん、大丈夫?」

私は、心配そうに聞いてくるその声に

「大丈夫・・。しばらく、少しだけこうやっていさせて」

とだけ言った。
翌日、ジョンとの会合で明らかになったのは、

「そのAIデバイスから見つかった金属片、そしてペンダント型のデバイスにも同じく金属片が見つかったが、それらを解析してみたところ、例のトラグネスの2種類の金属片だった。また、霧島がつけていたチョーカーの飾りからも例の金属片が見つかった。」

私は目の前が真っ暗になるのを感じた。

「じゃあ、じゃあ、私は・・洗脳されてるの?でも、今、私は、こうやって話している私は・・・」

「真崎!落ち着け!」

三木が私の背中をさするようにしながら、顔を覗き込んで言う。
そこにセイくんが神妙な顔で私に話し出した。

「律佳ちゃん、律佳ちゃんが何らかの影響を受けてるのは間違いないよ。僕たち、ちょっと前からおかしいなって思って、律佳ちゃんの行動を解析してたんだ。明らかに以前と言動が違った・・・」

「やっぱり・・・」

私は泣きそうになりながら、呟いた。

「僕ね、何だかおかしいなと思ってAIデバイスを調べようとして、それで、落っことしちゃったんだ・・・。ごめんね。」

茶丸のその行動の結果、こうやってわかったのだから、まさに怪我の功名なのだが、茶丸は自分の失敗をひたすら謝る。その無邪気さに私は少し落ち着きを取り戻した。
「そしてね、三木さん、三木さんも同じように影響を受けてるよ」

セイくんはあっさりと何の躊躇もなく言ってしまう。

「何だって!俺・・俺も?!」

「うん、三木さんだってAIデバイス使ってるでしょう?そして言動の変化は律佳ちゃんよりも顕著に表れてる」

三木が青ざめながら、私の顔を見る。三木の考えてること、三木の気持ちが痛いほどわかった。私達はお互い、相手の顔を見つめた。
私が、私自身の考えでなかったならいったい誰なんだろう?そして、ここにいる三木も・・・
その時、ジョンが口を開いた。

「これは洗脳とは違う情報操作によるマインドコントロールだ。」

「情報操作・・・マインドコントロール・・・」

私と三木は、ジョンの言葉を待った。

「この2つを同じように捉えてる人が多い。だが、それらは、人の考えを外部から操作するといった点では同じだが、別のものだ。洗脳は本人が操作されていることを自覚することが多いが、マインドコントロールはそうではなく、操作されていることに気付かない。考えを誘導されているので、それが自分の選択だと思っているんだ。なので、君たち二人が自分で気づかなかったのは無理もない。」

私は背筋が寒くなるのを覚えた。
こんなふうに、自分でも気づかないまま誘導されるなんて、いったいどうしたらいいの?私は混乱した。
「おそらくトラグネスは、自分たちの都合のいいように人類の考え方を誘導している。そして、彼等は人類を2種類のタイプに誘導しようとしているのではないかと思う。」

「2種類のタイプ?」

「そう。つまり、支配層と従属層だ。彼等の社会は奴隷制だ。おそらく、自分達の社会システムと同じようにして支配する事を考えたのだろう。」

私はその話にゾッとした。

「地球人の支配層で残りの従属層を支配し、より搾取しやすいシステムを作り上げることが目的だったのではないかと思う。律佳と三木さんへのコントロールの方向性が違ったのは、そのためだろう。
まぁ、これはまだ推測の域だが。そちらでも何かわかったことがあれば、知らせてくれ。」
ジョンとの通信の後、私達は、疲れた様子で話すこともなく黙り込んでいた。
何を話すわけでもないが、今、一人になることに強い不安を覚えた。
「俺、どんなふうだった?」

ポツリと三木が呟くように聞いてきた。

「うん、何かすごく冷徹で・・・ホームレスの命には価値がないとか、祖父の死は無駄だったみたいに・・・。」

「そういえば、そんなこと言ったな・・・そうだな・・・。」

「でも、考えてみると私もあの時、祖父の自己犠牲を肯定するような気持になったんだけど・・・以前は、もっと複雑な気持ちだったはずなの。あれが祖父の選んだことであっても、私はやっぱり生きていてほしかったって気持ちもあったはずなのに・・・」

「AIの返答を信じている間にいつの間にか自分の考えが誘導されていったんだ・・・」

「三木はAIデバイスはもう使わないの?」

「ううーん、悩ましいな。でも使うとしても全部任せたりはしないな」

「私は・・・しばらくはいいわ。あ、うちの会社で別のAIデバイス作ろうよ?」

「お。それがいいな」

私達はやっと笑った。
2匹もようやく安心できたように喉を鳴らし、コタローもLEDのライトをチカチカと光らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...