知性を与えられた猫たちは何を見る?

ChamalSei

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終章 選ばれた未来

知性を与えられた猫たちは何を見る? 第63話

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私は動かなくなった秋月の身体をしばらく見つめていた。

私は秋月の目を閉じさせた。秋月の額に触れるとまだ彼の体温が感じられた。この体温もエントロピーの法則により、拡散され、数時間後には温かみを失うのだろう。さっきまで働いていた彼の身体は、その機能、プロセスをすべて失い・・・宇宙へと還っていく・・・。

秋月はまるでプツンと糸が切れるように、その命を失った。そして、私の心も同じように切れてしまいそうだった。

私が呆然と立ち尽くしていると、声が聞こえた。

「律佳さん・・・。」

ネオAIの声だった。

その後、彼が何も言わないので、私は顔を上げた。

「律佳さん、戦闘は続いています。私が制御送信装置を破壊したので、トラグネス派の地球人はトラグネスの支配下から解放されました。ですが、戦闘用のロボットは残っており、彼らは今、その場から逃れることもできずにいます。」

ネオAIが続ける。

「あなたが今とるべき行動は・・・」

言われなくてもわかってる。
私は彼の言葉が終わる前に立ち上がった。私は溢れてきそうな心の中の想いに蓋をして言った。

「ネオAI!戦闘用ロボットの制御端末にアクセスさせて!」



その後、三木から聞いたのは、突然、ネオAIとの連携が劇的にスムーズになり、ロボットの攻撃に対し優勢となり、そして、トラグネス派の地球人は倒れ、意識を失ったということだった。

更にその後、ロボットが動きを停止したということだが、これは、私が彼等の制御端末から攻撃プロセスを停止したことによるものだろう。

トラグネスとの戦いはこうして終わった。


その後、世界ではまた地域紛争が起こり、途絶えていた戦争が始まった。低下していた犯罪率もまた、元に戻り、不穏な空気が訪れた。

ネオAIは、ジョンからの話によると、今後、トラグネスとは関係のない研究機関で科学技術の発展に使われるらしい。

キッチンのポットがシュンシュンと音を立てていた。

私はコーヒーカップを手に、青い円筒状の光が淡く輝く中へ入って行った。

ジョンへの報告を終え、私はまだ、先日の秋月がとった行動のショックから抜けず、ぼんやりとしていた。

「律佳さん。」

コタローが私の前に来て彼の目のLEDをチカチカとさせた。

「どうしたの?」

「秋月博士からのメッセージを預かっています。」

私はコーヒーカップをテーブルに置き、コタローを見つめた。

「秋月博士は作戦が成功し、すべてが終わったタイミングで皆さんにこれを開示するように私に託されました。」

私は黙って頷いた。
「音声メッセージを再生します。」
「真崎君、三木君、2匹の猫たち、そしてコタロー。
君たちには心から感謝する。

君たちがコタローからこのメッセージを受け取っているということは、計画は成功したということだろう。そしてそこには私が見たかった未来があると期待していいのだろう。

数年前までは、私は、人工生命とAIの融合についての研究をしていた一人の科学者に過ぎなかった。しかし、トラグネスは私の研究を知り、自分たちの人類支配に利用しようと私に近づいてきた。何も知らない私はそこで研究を続けるうち、彼らの企みを知ってしまった。

その時、私は考えた。ここでトラグネスらから去るべきか?いや、去ったとしても、この事実を知った私を、彼らがそのままにしておくとは思えない。一方、この事実を他人に話したとして到底信じてもらえるとも思えない・・・。そんな私がとった手段は、ネクサーク社に残り、協力を装いながら機会を窺い、彼らを阻止する方法を探すことだった。

君たちが現れた時、私は正直、君たちがここまでやれるとは思っていなかったが、時が経つにつれ、君たちの存在は私の、いや、人類の希望へと変わっていった。

とはいえ、私は決して人類のために自己犠牲を選んだのではないと言っておく。私がトラグネスの研究に協力したのは、彼らを阻止するためであったが、科学者として自分の研究を実現させたいという気持ちがあったのも事実なのだ。
私はそういう身勝手で利己的な人間でしかない。

だが、言い訳するようだが、利己的というのは、進化の視点ではもっと深い意味を持つ。

遺伝子は自分と同じ遺伝子を次の世代へ残すために行動する。それが生存戦略だ。だが、それは単純な自己保存だけではない。親が子を守るのは、自分と同じ遺伝子を持つからだ。たとえ自分が犠牲になっても、自分の持つ遺伝子の一部が未来へ続く。

さらに、進化はそれにとどまらず、血のつながりがなくても人間は互いに助け合うことを学んだ。それが共存の戦略だ。

つまり、利他的行動とは自己犠牲ではなく、未来を守るための戦略なのだ。
そして、私は、自分が科学者として、進化の中に“正義”の起源を見出す。これを仮に『進化的正義』と呼ぼう。『進化的正義』とは、戦うことではない。未来を選ぶ力そのものだ。
そして、それは考えだけでは成り立たない。『進化的正義』はその特性により、行動しなければ意味をなさないのだ。

私のとった行動は何とでも呼んでくれ。ただ、私は自分の遺伝子が叫ぶ『進化的正義』に従ったのだ。
私は君たちが勝ち取った未来に、私が見たかった世界が見られることを心から願う。」

メッセージはそこで終わっていた。
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