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第十一話:七曲。
07七曲。
しおりを挟む「……っ」
そう優しい声音で呼ぶ。
行くべきか悩みつつも、ゆっくりと歩みを寄せてミタマの目の前に腰を下ろした。
ミタマはそんな紗紀の様子に少しだけホッとする。
「手を、握ってはくれないかい?」
そう言って自分の手を紗紀の目の前に差し出してみせた。
紗紀はその手を見た後に、もう一度ミタマを見る。
暗がりでハッキリとした表情は良く分からなかった。
恐る恐るその手の平に自分の手を重ねる。
置かれたその手をミタマは軽く握った。
何度かぎゅうぎゅうと軽く力を入れた後に、そっと指先を絡める。
怖がらないように、怖がらせないようにと細心の注意を払ってくれているのが伝わって来た。
紗紀がその名を呼ぼうとするよりも先に、ミタマは握り締めた紗紀の手の甲を自分の頬へと寄せた。
「……紗紀、大丈夫かい?」
「……はい」
「すまなかった。助けに行くのが遅くなって……。まさかあんな事になっていようとは思わず……怖かったね」
「……」
ミタマが悪い訳では無いのに、目尻がじわじわと熱くなる。
(本当はとても怖かった)
七曲の時も、白狼の時も、怖くて怖くて仕方なかった。
妖怪と言えど男なのだ。
それだけの力があり、通常の自分では歯もたたない。
使役したのだから大丈夫だなんてどうして思ってしまったのだろう。
自分の愚かさに涙が止まらない。
「本当、紗紀は良く泣くね。枯れてしまわないか心配だよ」
「……もっと、しっかりして。もっと、強くならなきゃです」
「充分紗紀はしっかりしているし強いよ。頑張っている。それに今回の件は良い教訓にもなったと思うし。無事だったから言える事と言えばそれまでだけど……」
「……うん。気を付けます。これからはもっともっと……」
何度も頷く紗紀をミタマはぎゅうっと抱き寄せた。
もう震えは治まっていてその温もり、香りに安心する。
「……やはりあの天狗、一発ぶん殴ってもいいかい?」
「えっ!?」
「……はぁ……。こんな見える所に痕まで付けて……」
ギクリと肩が跳ねる。
確かに白狼も首筋を舐めはしたけれど、噛まれても吸われてもいない。
けれどここで白狼のフォローに回れば、ではこの痕は誰が付けたモノなのか問いただされるのは目に見えていた。
「……紗紀、今ならまだこの戦いから辞退する事は可能だと思う」
「……え……」
「キミが犠牲になる必要性は無いんだよ」
ドクリと心臓が嫌な音を立てる。
紗紀はミタマから離れるとその表情を覗き見た。
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