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第十一話:七曲。
11七曲。
しおりを挟む風呂から上がり、洗面所の鏡を見れば自分と目が合う。
その首筋は赤くなってる所があり、息が詰まりそうになった。
まるで別人のような七曲に噛まれた事、白狼に押し倒されて首筋を舐められた事が鮮明に思い出される。
ドクドクと嫌に鼓動が速まって、指先が震えた。
(忘れたい。早く忘れないと……)
紗紀は首を振って着替えを済ませると、風呂場を出た。
(何かでとりあえず隠そう)
居間へと向かう途中、バッタリとマミと遭遇した。
「あ!紗紀お姉ちゃん!おはよう、今日は早いね!……あれ?首、どうしたの?」
瞬時に首の痕を隠そうと手を当てれば、マミが首を傾げて尋ねてきた。
ドキリと肩が跳ね上がる。
「えっ!と……ちょっと怪我?をして……救急箱の場所って分かる?」
「紗紀お姉ちゃんケガしたの!?」
両頬に手を当てて震え上がるマミ。
紗紀は慌てて人差し指を口に当て、しーっと合図を送る。
マミは両手で自分の口を押さえた。
「大した事じゃないの。知ってたら場所教えて欲しいなぁって……」
「知ってる!こっちこっち!!」
ぴょんと一回その場で跳ねて、マミはトテトテと急ぎ足で歩いた。
廊下を走るといつも怒られるからだ。
紗紀は自分の部屋にも救急箱が備え付けてある事は知っていた。
けれど、マミの意識を他へ移したくて出てきた言葉がそれだった。
ちょっとした罪悪感を胸に、前を歩くマミの後を追う。
「ここだよ!」
「ありがとう。あ!今日は私がご飯を作るね」
「え!いいの!?紗紀お姉ちゃんのご飯食べたい!!」
両手を広げて喜ぶマミに、笑みが零れる。
そっと彼女の頭を撫でれば気持ちよさそうに目を閉じてむしろ頭を擦り寄せて来た。
(この子達との時間を守るんだ)
紗紀は胸により一層強く誓いを立てる。
マミと別れて居間へと行けば、そこには雪音と九重の姿があった。
テーブル席に座って深刻そうな表情をしている九重と、立ったまま顔をしかめている雪音。
(何があったんだろう?)
「ああ、紗紀か。おはよう。ゆっくり眠れたかえ?」
「おはようございます!……何かあったんですか?」
「……いや。特に何も無いよ」
雪音が口元だけ笑って見せる。
何も無いようには微塵も見えないが、紗紀には言えない事なのだろう。
そう察して、困らせたくない一心で彼女も笑顔を返した。
「今日は私が料理をします」
「妾は手伝う事があるかえ?」
「いえ。いつも美味しいお料理をご馳走になっているので」
雪音やマミ達には本当に感謝していた。
ミタマと二人だったならミタマにばかりきっと負担がいっていたに違いない。
みんなが居るから協力し合えている。
それがどれほど有り難く心強い事か。
だからこそ自分が出来る時には力になりたいとそう思う。
雪音は紗紀の言葉にさらに機嫌を良くした。
「それはそうと、その首……どうしたのじゃ?」
雪音の問いに紗紀は絆創膏の貼ってある首筋に手をやると困り顔で言った。
「ちょっと……かすり傷を」
「首をかえ!?……こんな見える位置に何てこったい。女子なんじゃから気をつけんと。……ったくミタマの坊やは紗紀に張り付いておきながら何をやってんだ!」
今度は激怒する雪音を宥める。
そんな紗紀の手を不意に九重が握った。
ビクリと肩が跳ね上がりバッと手を振り払う。
あ、と我にかえって九重を見た。
カタカタと自分の手が震えているのが分かる。
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