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第十一話:七曲。
20七曲。
しおりを挟む七曲は泣きながらごめん、ごめんねと何度も謝罪を繰り返していた。
「俺の事はいいから、七曲を頼んだよ」
「でも、どうしたら……」
紗紀が泣きそうになる。
ミタマは安心させるように紗紀の頬を撫でた。
「紗紀、血だよ。キミの血ならまだ意識を保ってる七曲を救える」
(私の、血……?そうか!)
紗紀は自分の血やミタマの血で今まで妖怪達を正気に戻し、使役して来た事を思い出した。
「変化!」
紗紀は御札を取り出すと七曲へと#変化__へんげ_#をした。
塗壁である彼の体なら、彼からの攻撃も耐え凌げると判断したからだ。
紗紀は不安も恐怖もかなぐり捨てて、痛む身体で全力疾走する。
分け目もふらずにただただ七曲の元へ。
けれど、そんな紗紀の気持ちなど七曲の体から生えた手足には関係ない。
無情にもたくさんの手が紗紀を攻撃しようと振るわれる。
「……やめて!もう、やめてよ!!……頼むから。お願い……。ボクの体でしょ!?言う事を聞いて……!!」
切実に絶叫するけれど、その手足は七曲の言葉など微塵も届いてはいない。
「逃げてッ……!!」
紗紀に向かうその手足を、ミタマと後からやって来た九重、そして紗紀に変化した化け狸達も加わって一緒に食い止めた。
「みんな……!?」
紗紀と七曲の言葉が重なる。
「紗紀、今だよ……!!」
ミタマの指示に、紗紀は大きく頷くと伸びた腕の合間を縫って七曲の目の前へと辿り着いた。
七曲は申し訳なさそうな顔をして顔を歪める。
紗紀はそんな七曲の頭を撫でた。
大丈夫だよと伝えたかった。
(もう心配は要らない。絶対に助けるから)
七曲から生えた黒い腕が、ブルブルと震える。
力の弱い化け狸達が薙ぎ払われた。
「紗紀……!!」
ミタマが叫ぶ。
化け狸達を薙ぎ払った黒い腕が紗紀へと向かっている。
紗紀は九重へと変化をすると、伸ばした爪で一昨日七曲と白狼に噛まれた首を傷つけた。
血が#滴__したた_#る。
ドクリと七曲がその香りに気が触れそうになった。
紗紀は手を伸ばし、七曲の頬を掴むとその首へと近付ける。
「血を、飲んでください。元の姿に戻りましょう。もう大丈夫ですから」
「……ごめん、なさい……」
紗紀の言葉に七曲の目尻から涙が溢れた。
七曲は本来生えている自分の腕で紗紀を抱きしめると、その首に口を付け紗紀の血を啜る。
七曲から生えた真っ黒な腕が、後一歩で紗紀を貫く、その瞬間に指の先から黒い灰となって空気へと散った。
ミタマや九重が掴んでいた腕も散り散りになっていく。
「なるほどな~。ふーん。こんなモンか」
その声の主へと紗紀と七曲以外は目を向けた。
そこに居たのは白狼だ。
ミタマは彼から視線をそらすとスタスタと紗紀達へ歩みを寄せる。
そしてガッツリと七曲の後頭部を掴んだ。
「そろそろ紗紀を解放してもらえないかい?」
「ヤダ。もう少し」
「ほう?」
どうやらミタマはご立腹のようだ。
自ら指示をしたとは言え、やはり面白くないものは面白くないらしい。
「光って、る?」
紗紀は驚いたように七曲を見上げた。
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