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第十三話:灯と楓。

07灯と楓。

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「灯さん、灯さん!」


叫びながら障子を開け歩く。

ゴトンと一際大きい物音がして、そちらへ向かえば荷物を整理している灯の姿が見て取れた。


「灯さん……」

「……やってらんないわ」

「おい、灯!何してんだよ」


後を追って走って来ていた楓もそんな灯の様子を見て目をまたたく。

灯は荷物を持ってうつむいたまま、畳を睨んで叫び散らした。


「こんなの!割りに合うわけ無いでしょ!?一体いつまでよ!?期限すらないのに戦い続けるの!?無謀むぼうよ!札だって全然足りないわ!!こんな……。命までかけて……戦う意味って何よ」


ぽたり。

落ちてくるしずくたたみが吸い取る。

胸がざわざわと騒いだ。

気持ちが痛い程によく分かる。

紗紀も、楓も同じ気持ちで灯を見つめた。


「灯さん……」

管狐くだぎつねの予言じゃ、このままだと絶望だって!!」


灯は畳をその拳で殴りつけるとなおも続ける。


「あたしは!ここに来る事を決めたから職も失ったのよ!!こんな、ふざけた事の為に……!馬鹿、みたい。自分が、こんなにも浅はかな人間だったなんて……。本当馬鹿みたい。馬鹿みたい!!」


何度も何度も拳を叩きつける灯の手を、楓が掴んでやめさせた。

キッと鋭く灯は楓をにらみあげる。


「帰りたきゃ帰ればいい。お前も分かってる通り、お前には職も無い。一からの出直しだ。それでも、俺はお前がここに残るよりいいと思う」

「……ッ!!」

「っ、灯さん!!」


荷物を持って走り出す灯。

途中紗紀と目が合い、狼狽うろたえつつも視線をらして走り出した。

引き止めたくても引き止めようが無い。

命がかかってるのは確かなのだ。

居たくないと言う者を説得なんて出来るはずもない。


「……これで、良かった」

「……楓くん?」


ポツリ、薄暗い室内に響く声。

その言葉に紗紀は楓を見た。

膝を抱えてうずくまる彼が続ける。


「俺は、アイツに死んでほしくないから。……自ら手を引いてくれて良かった」


その言葉で、冷たい言葉を吐いた楓が、どれほど灯を大事に思っているのかがうかがえた。


「……お前は?残んの?この戦いに」


すっと向けられた視線に紗紀は強く頷いた。


「残るよ。私は。この戦いの最後を見届ける」

「……お前も大概。バカだなぁ」


そう力なく呟く楓に、紗紀は懐から数枚の御札を取り出して手渡した。


「これ、楓くんが使って」

「は?」

「御札、もうほとんど残ってないんでしょう?」

「それは、そうだけど……」


受け取れずにいる楓の手を掴んで、御札を握らせる。


「生きて。灯さんの為にも。絶対」


力強くその手を握れば、楓は紗紀を見上げて驚いたように目を見開いた。


「何、言って……。お前はどうする気だよ!?」

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