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第十五話:拉致。
26拉致。
しおりを挟む同じ笑顔で鞍馬へと視線を送った春秋。
それなのにどこか殺気を感じるのはどうしてなのだろうか。
「う……。その、さっきはごめんなさいね。怖い思いをさせてしまって」
最初に会った時とはまるで別人のようにしおらしい。
彼もきっと、春秋と力の差を感じて萎縮しているのだろう。
「怖かったですけど、無事なので。あまり気にしないでください」
「……。……ヤダもう!この子大丈夫なのぉ!?無事だったのは白狼ちゃんが来てくれて、春秋様が治療してくれたからデショぉおおおお!!アンタとアタシだけだったらアンタ死んでたのよ!?気にするわよぉおおおおおうおぉおおおおおおんんんん」
目の前で豪快に男泣きされて、紗紀はあわあわとテンパる。
「な、泣かないでください。そこで死ぬのも、生かされるのも、運命ですよ。白狼が助けに来て、春秋さんが治してくれた。それは事実ですけど、きっと生きなきゃいけない天命だっただけです」
紗紀はオネェ口調で喋るのに厳つい彼の背を撫でた。
「残虐無慈悲が売りなのぉぉおおおおお!!優しくしないでぇええええ!!」
「うわっ!?」
そのゴツい体に抱きしめられて、圧迫死しそうだ。
春秋と目が合った。
彼はあの貼り付けた笑みとは違って、情のある優しい顔で笑っていた。
その表情の意味を、紗紀はいまいち理解出来ない。
「あの……」
「アタシは鞍馬」
「くらま、さん。首に包帯なんてしてましたっけ?」
鞍馬に襲われそうになった時、彼が首に包帯を巻いていた記憶が無い。
もしかしたら春秋から何かしらの罰を与えられたのかもしれない。
何も言葉に出来ず黙り込む鞍馬に変わって、春秋が口を開いた。
「その傷は彼が君に負わせた傷だよ」
「え?」
春秋のまさかの発言に、紗紀は目を見開いた。
「僕の場合は治癒と言うより、負わせた傷を相手に返すってやり方だからね」
「それじゃあ……、この傷は……」
「アタシが食いちぎった傷」
包帯に手で触れてみる。
恐怖で心音が早まるのが自分でも良く分かった。
「見ない方がイイわよ。エグいから♡」
眉を下げて、鞍馬は苦笑して見せる。
「どうして、あんな事を?」
紗紀の問いかけに、鞍馬はどこか気まずそうに目を伏せた。
「気に入らないのよ!あのクソ天狗!!」
突然猫なで声をやめて、雄の雄叫びのような声を出した鞍馬に紗紀はビクリと肩を跳ねさせた。
「ヴァカみたいに高飛車で!下品で!アタシを見下して!一番春秋様に信用されてるのがいけすかなわ!!」
雄声でオネェ言葉のまま叫ぶ彼の怒りを、紗紀はただただ傍観している事しか出来なかった。
反論は何も出来ない。
全くもってその通りなのだから。
ちらりと春秋を盗み見る。
見慣れた風景なのか表情一つ変えずに笑顔だ。
むしろ元気だなーとすら思っていそうだ。
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