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第十六話:交渉。

10交渉。

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居間にて春秋、白狼、鞍馬、楓に神鳩かみばと

そうしてミタマと紗紀が食卓を囲うように座った。


「白狼、手土産」


春秋が両手をはじいて声をあげる。

白狼は自分の手を見た。

その手には何も持たれていない。


「あ、私が持ってます!」


思い出したように紗紀は腕の中の風呂敷を机に出した。

春秋の作った空間のゆがみを通った後、空に投げ出された紗紀に白狼は手土産を渡して彼女を助けたのだ。


「何を持ってるんだろう、とは思っていたけど……手土産だったんだね」


ミタマが机に置かれた包をしげしげと見る。


「これって白狼のお手製?」

「ああ、そーそー。俺様の作ったまんじゅうだ!」

「あれ美味しかった!」

「だろ!?旨いだろ!?」


白狼と紗紀が仲良くなっているのが少しだけ気に入らないミタマ。

よくよく見れば、彼の容姿が以前見たそれと随分変わってしまったように思う。

それが何を示しているのか、直ぐに想像が出来た。


「さて、じゃあ俺様が茶を入れてやろう」

「白狼はお茶入れるの上手なんですよ」

「確かに頂いたお茶も美味しかったです。じゃあ私もお手伝いを……」


白狼と紗紀が席を立とうとした所で、ミタマが口を開いた。


「白狼。キミ、紗紀の血を吸ったのかい?」


しん、とその場が静まりかえる。


(忘れてた……!!)


使役した妖怪が、主の血を吸えば姿がガラリと変わるのだから一目瞭然だ。


「ああ。さっきの話しの通り、あのバカのせいでご主人サマが血みどろだったからな。恩恵に授かった。せっかくだしな。もったいないだろ?」

「なるほど。キミが危害を加えたわけじゃないならいい」


あっさりと身を引くミタマ。

それが紗紀と白狼の中では予想外だった。

二人の脳内では白狼が紗紀を連れ去った時に縛り上げた事が思い出されていた。

何も無かったとは言い切れないが、危険な時に白狼が助けに来てくれた事は本当だ。


「……それで、紗紀を連れ去ったのはどうしてだい?」

「連れ去りたかったわけではないんです。不可抗力で。でも、彼女と話してみたかった理由は……手を組めないかと思ったんです」

「手を、組む?」


春秋の言葉に、ミタマは何度か白狼がそんな事を言っていたなと思う。

白狼は席を立つとお茶を入れに行った。

席を立とうとする紗紀に、白狼が目配せをしてやめておけと伝えて来る。

紗紀はミタマの心情を思い、会釈えしゃくを返して大人しく席に座り直した。


「君達の不安要素は大天狗の封印の事ですよね?」

「ああ」


その封印を守る為に今こうして戦っているのだ。

彼は優しげににっこり笑うと言葉を続ける。


「封印を解いた大天狗は僕が責任を持って使役しえきします。だから人々には害を成さない。厄災は僕の監視下に置くからね。そうすれば天狗達との約束を守りつつ君達と手を組める。どうでしょうか?」

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