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第十七話:激動。

14激動。

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「……何を笑っている?」

「我らはまだお主に使役しえきされてはおらん!!攻撃も出来るぞ!!」

「仲間でも無ければ手下でも無いからな!!」


鴉天狗達が春秋に向けて攻撃を繰り出す。


「駆け抜けなさい、疾風しっぷう!!」

「かっ飛ばせ!舞風!!」


春秋の前に白狼、後ろに鞍馬がかばい立ち、攻撃を相殺そうさいさせた。


「お前ら!誰の味方だ!?」

「アァ?俺様に指図すんじゃねェよ」


白狼がすごむ。

鴉天狗達はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「待て。此奴こやつはワシの獲物だ。手出しは許さん」

「しかし!!」

「口答えする気か?」


ジロリ、口を開いた鴉天狗を大天狗がにらえれば、ビクリと体を震わせて後退した。


「お主らはそこの怪物でも滅せよ。におぉてにおぉてかなわん」

「……っハッ!!行くぞ!!」


大天狗はおのれの鼻をそでおおうと顔をしかめて、怪物の方へ向かうよう金剛杖こんごうづえを振り指示をする。

鴉天狗達はどこか納得のいかない面持ちで、渋々怪物の元へときびすを返していった。


「君達も、怪物の方、任せたよ」

「おうよ!」

「お任せください」


二羽も怪物の方へと向かう。

春秋はゆっくり今鏡を見た。


「……ありがとう。今鏡」

「気安く呼ぶでないわ。……フン。貴様などねじ伏せてくれよう」

「そう上手くいけばいいけど?」

「調子に、乗るなぁああああ!!!」


大天狗が金剛杖こんごうづえを振りかざす。

突風が吹き荒れて春秋に向かう。

けれど間一髪のところで春秋はそれをかわした。


 ◇◆◇


その頃、紗紀は灯の元へとたどり着いていた。


「灯さん!!しっかりしてください!!灯さん!!」


まるで彼女の生気を吸ってこの怪物が生きているかのようにも思う。

紗紀は灯の体から生えている腕を九尾狐の姿に変化して切り裂いては落としていった。

ぶちぶちと耳障りな音と感触。

涙が出そうだ。

ぐっとこらえると次々にその黒い腕を除去していく。

けれどそれに気付いたのか黒い腕達が紗紀へと伸びてきた。


「……っ!!」


紗紀は腕を切り離すのに必死で腕からの攻撃に気付かずに地面へと叩きつけられる。

しかし待っていた痛みは来ない。

その代わりに暖かな物にどしんと落下する感覚がした。

目を開ければそこには楓の姿があって、彼はその真っ白に生えた羽で飛んでいた。


「……楓、くん」

「……悪い。出遅れた」


彼の腕は震えている。

顔色は真っ青で、血の気が引いているのが見て取れた。

けれど上手い言葉は何一つ見つからない。

楓はただただ呆然ぼうぜんと灯を見ていた。


「楓ー。楓ー。突っ立っているとられるよー」


どこか呑気のんきな声が耳に届く。

楓のパートナーである神鳩かみばとだ。

その瞬間、一気に空高く舞った。

思わず呼吸を止める。

視線を向ければ先ほど自分たちが居た場所に黒い腕がぐんと伸びていた。


「……あれが、灯……」

「楓くん……」

「何が、正解だったんだろうな……」


楓の言いたい事は痛いほど伝わって来た。

大事だから、大切だから、この戦場から離脱した事に安堵あんどしていたのだ。

それなのにまさかこんな形でこの場に戻って来るなんて夢にも思わなかった。


「楓くん、しっかりして」

「……しっかりしてるさ。灯は、俺が止める」

「待って!!」


安全な場所へ紗紀を下ろそうとした楓に、紗紀は声をあげる。

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