～巻き込まれ少女は妖怪と暮らす～【天命のまにまに。】

第十九話：話し合い。

22話し合い。

現れたのは目に光の無い、真っ青な上着が印象的な男だった。

紗紀には見覚えがあった。


「あなたは……青龍」

「……ここから逃がす事は、出来ません」


その瞳は濁ったように赤く、額には青筋が浮かんでいる。

どこか顔色も悪く、苦しそうな面持ちに見えた。


（あの青龍が、喋った……！）


章が呼び出した十二天将のひとりだ。

青龍が戦闘体勢に入る。

繰り出す攻撃をただの人間でしか無い紗紀は避けきれ無かった。

腹部に当たり、近くの木に打ち付けられる。


「ガハッ！！」


打ち付けた背中がズキズキと痛む。

目の前まで間合いを詰めた青龍の手が紗紀へと、振り下ろされようとした。

とっさに目を閉じる紗紀。

ギュッと力を入れて目を瞑るけれど、来るであろう痛みは無い。

反射的に頭を庇かばうようにクロスしていた腕を、少しだけ降ろして、目を開けた。

視界に映ったのは自分の右腕をギリギリと掴みあげる青龍の姿だった。


「な、んで……」

「再起、不能に、して、くださいッ。早く！！」


言われた言葉の意味を理解するよりも早く、我を見失った青龍が紗紀の足首と繋がっている鎖を手に取り引っ張り上げた。


「うわっ！？ってひぃえッ！？スカート！スカートだから！！」


逆さ吊りとなって、慌ててウエディングドレスのスカートを抑える。

胸元から御札が数枚落ちた。


（ミタマさん……！助けて！！）


紗紀はミタマを思い浮かべて、手に持っていた人形の形代に息を吹きかけた。

それは宙に浮かぶと、ぐぐぐっと人の形へと変わり、次第にミタマの姿へと変貌をとげる。


「紗紀！？」

「ミタマさん！」


情報量が多すぎて頭がついていかない。

問いたい事はたくさんある。

なぜウエディングドレスなのか、なぜ吊つるされてるのか、なぜ足首に枷かせがされているのか。

紗紀を吊るすように持ち上げているヤツは誰なんだ！とか。

ミタマは脳内で疑問符を浮かべつつも逆さまの紗紀を抱き寄せて、青龍へと蹴りを繰り出した。

青龍はすんでのところで、華麗に避ける。

依然紗紀と繋がっている鎖を握り締めたままだ。

間合いを詰めたところで、青龍の胸板へ狐火を焚たき付けた。


「狐火！！」


予測通りだったのか、青龍は鎖から手を離すと、後ろへと飛び退のいた。

ミタマは鎖から手が離れたのを確認して、紗紀をゆっくり地面へ降ろした。

瞬時に隙すきをついて青龍が攻撃を放つ。


「狐火！！」


ミタマも少し遅れは取ったが、狐火で対抗した。

けれど、火力が劣るようで、青龍の放った水の渦がグイグイと押してくる。


「変化！狐火！！」


紗紀は九尾狐へと変化をすると、ミタマの加勢をした。

炎が水を蒸発させ始める。

けれど、普段は火を放つだけの狐火を、放出させ続けるのは初めての事で、火力が下がっていく。


「紗紀、一旦引こう。キミは左に避けるんだ」

「……っ、分かりました！」


頷き合うと、一斉に左右に分かれるように避けた。

青龍の攻撃はそのまま二人の間を貫つらぬく。