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第二十話:最終決戦。

09最終決戦。

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「元は死んでいるんだ。柳瀬優一とて、勝手に使われるのは不本意だろう。誰かに危害を加える前にここで灰にする」

「凍てつけ!乱れ吹雪!」


言い合いを始める九重と七曲の隙きを突いて、雪音は炎を消した。


「貴様!」

「紗紀の許可なく身勝手な行動は許しゃしないよ!」


九重が雪音の胸倉を掴めば、雪音はもっともな事を言う。

九重は思わず口を閉じた。

きっと紗紀ならば、優一を救おうとするだろうと、そう想像が出来たからだ。


「もう!ちょっと敵から目を逸らさないでよ!狸火!」


優一を、攻撃して来たユウリに押し付け、紅葉はカプセルの方へ向かった。


「うわっ!!」


倒れ込む優一の下敷きになってユウリは床へと倒れ込んだ。

七曲が慌てて優一を引き起こす。


「大丈夫~!?」

「バッカ!あの鬼女を追いなよ!も~!!」


ユウリがバカバカと七曲を叩いた。


「ああっ!そうだね!ごめん~」


七曲が視線を紅葉に向けた瞬間、ガシャンと何かを割る音がした。

ビービーとアラート音がけたたましく鳴り響く。

室内に赤色のランプが激しく点滅し始めた。


「これはなんじゃ!?」

「フフッ……。不法侵入者はここで始末いたします」


雪音の問いかけに紅葉は笑みを深める。

彼女が割ったカプセルから、ズルリと黒いものがうごめいた。

異臭がさっきより濃く感じる。

「ひっ!怪物……!」


ユウリが声をあげて身震いをした。

ぞわりと毛が逆立つのが分かる。


「フン。そんなもの、この館ごと燃やし尽くしてくれる……!劫火ごうかに焼き払われろ、狐火」


チェスナットの無垢材フローリングに触れ、床から燃やしていく。

一匹で先陣を切り先へと突き進む九重。


「この館が木造なのをイイことに……。本気で館丸ごと燃やす気だよ、ココちゃん」


七曲が真っ青な顔して、雪音へと視線を投げかける。


「いざとなったらわらわが吹雪で落ち着かせるよ。アンタらは妾の側を離れるんじゃないよ」

「さすが姐さんカーッコイイ!それにしても。本当にヤナちゃんそっくりだね。キミは誰?」


七曲の質問に、優一は何も答えずただじっと七曲を見上げる。


「アンタら。何見つめ合っておるんじゃ……!後にせい!」


緊張感が無いにもほどがある。と雪音は小さく溜息を溢した。

いくら紗紀から力を与えて貰ったからと言って、油断は大敵だ。

炎と暗闇で向こうの様子は見えないが、ガシャン、ガシャンとガラスを割り歩く音が聞こえる所を見ると、あの怪物の量は増えているに違いない。

相変わらず続く警告アラームに、赤いランプの点滅が視界と聴覚の邪魔をする。

この部屋にいるだけで気分が滅入りそうだ。


「グォオオオオオ!!」


聞き覚えのある雄叫びが、次々と響き渡る。


「こりゃ、九重だけに任せるわけにはいくまい。七、ユウリと優一を連れ、館を出な!火の回りも早い。崩れる可能性がある」

「そんな!姐さん置いてなんか行けないよ!」


雪音の指示に、七曲は首を横に振った。

そんな二匹のやり取りを見て、ユウリは立ち上がると優一の手を取る。


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