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第二十話:最終決戦。

37最終決戦。

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「どうやら館の方は落ち着いたみたいだね。見えるかい、紗紀。煙があがってる」


ミタマは紗紀の肩を小さく叩いた。

少し離れた場所で大きく黒い煙が上がっているのが見える。

それはみるみる内に小さくなっていった。


「朱雀さん、ですね」


仕事を終えたのか、火の鳥がこちらに向かって飛んで来るのが見える。


「紗紀、あれ!」


下で走って来る影が見えた。

ミタマは紗紀の肩に再度触れる。

ミタマにうながされたその先、そこには七曲、雪音、九重の姿があった。


「みんな……!」


彼らが無事であった事に、紗紀は心底ホッとする。


「紗紀ちゃーん!お手伝いする事ある~?」


ぶんぶん両手を振って走る七曲。

まるで大型犬が尻尾を振っているようにも見える。

こちらを見上げる雪音に九重も、紗紀の無事な姿に安堵あんどした表情を浮かべた。


「危ない!」


床がきビしみ、ミタマは紗紀を抱き寄せて後方へと飛び退く。

燃えてもろくなった足場が一気に崩れた。

反対側では今鏡いまかがみが動物たちを逃がすのに大きな穴を開けている。

この舟も時間の問題だろう。


「紗紀、怪我は!?」

「大丈夫です……!このままじゃ、ここも危ないですね」

視線を春秋達へ戻せば、二人は攻防を繰り返していた。


「紗紀」


不意に名を呼ばれて、そちらへと視線を向ける。

舟の手すりに降り立ったその姿は、人間の姿をした朱雀だった。


「朱雀さん!……お疲れ様です!」


朱雀は丁寧にお辞儀をして見せる。


「青龍は無事に正気を戻しこちら側に。館の方は救出を終えた。次は、ここを燃やせば良いのか?」


しげしげと辺りを見渡してそう紗紀に問う。


「少し、待ってください。今、反対側で今鏡さんが捕獲された動物の解放と、捕まっている人たちの救助をしています。そちらを手伝ってもらえますか?」

「承知した」


恭しくお辞儀をすると、朱雀は紗紀の指示に従い、反対側へと翼を広げて向かった。


「紗紀!大丈夫かえ!?」


雪音の声でハッとして、舟から顔をのぞかせた。


「大丈夫です!……あれ?」


視界には映っていない。

けれども確かに禍々まがまがしい気配が猛スピードでこちらに向かって来るのを感じる。


「森の方から嫌な気配がするね」


ミタマも何かを感じ取ったようだ。

同じく九重の耳もピクリと反応を示した。


「アンタ……!鬼の娘……!」


雪音の張り詰めた声が聞こえる。

雪音が慌ててこちらを振り返った。


「紗紀!注射器は持っておらんか!?」


突然そう言われて、そう言えば春秋に手渡されていた事を思い出した。

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