~巻き込まれ少女は妖怪と暮らす~【天命のまにまに。】

東雲ゆゆいち

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最終話:これからの事。

08これからの事。

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「ミタマくんが動かなかったら、紗紀さんはおばあちゃんになっても気づかずに過ごしてそうですよね」


あっはは!と楽しげに春秋が笑って話題にまビざる。

既に旅館が飽きられないようにと次の企画を練っていた紗紀を知っているみんなは、確かに、とそれぞれに苦笑を浮かべた。


「他の奴らも勢揃いだな」


春秋の後ろには朱雀すざくに青龍、今鏡いまかがみの姿も見え、白狼が声をかける。


「まさか彼女の目標が妖と人が共に過ごせる場所を作りたい、だとは思いもしませんでした。決して良い思い出ばかりでは無いはずなのに……」


口を開いたのは青龍だった。

あやつられていたとは言え、自分はどれほど彼女に怖い思いをさせただろうと思う。

未だに引きずっているのに、当の本人は気にした素振そぶりもなく顔を合わせるたび笑顔で接してくれる。


「青龍は気にし過ぎだ。自ら傷つけに行ったならともかく、不可抗力なんだ。しかももう何度手土産持ってここに顔出しちゃ謝っているんだ?」


朱雀が腕組して呆れたように溜息を吐き出した。


「紗紀ちゃん、リュウくんの手土産いつもすっごく喜んでるよ~。珍しいものばっかりだし!」

「特にどういう系統を好んでいたか分かるでしょうか?」

「そこ、食い気味に詰め寄るな」


ずいっと興味深げに七曲に近づく青龍の首根っこを朱雀が掴む。


「それにしても、記憶というものはなかなか戻らないものなんだな」


九重が、縁側に座る者達へと視線を向けた。

そこには優一の姿をした、魂の三分の一が章の者である彼と、それにぴっとり寄り添っている金比羅神社こんぴらじんじゃの狛猫、こんぴらさん。

そして、記憶の消えた章と幸生が並んで座り、章の隣にはそっと寄り添う鬼と人間の子供、紅葉が居た。


「いや、一度思い出しかけましたよ。さすがに」


春秋が苦笑して首筋を掻く。

朱雀も青龍もなんとも言えない顔をして頷いた。


「そこを春秋が秒速で注射を刺し、瞬時に記憶を消しおった」


今鏡が遠くの空を眺めながらそう語った。

想像がつき過ぎて言葉にならない。


「それで、彼らは今どんな生活をしてるの~?不便な事とか無い?」


七曲が不思議そうに小首を傾げる。

記憶を無くすという事は分からない事がたくさんあると言うことだ。

日常生活にすら支障をきたしているのでは、と気がかりだった。


「うーん、そうだね。経験あるからか、お風呂とか、トイレとか、そういう日常的な事はサクッと覚えてくれましたよ。基本僕の仕事のお手伝いですね。以前の彼らが協力的ならもっと捗るんでしょうけど……」


困り顔をする春秋に、確かに、と頷く事しか出来ない。

話し合いでは解決しなかったのだ。

致し方ない。

結局は力の強いものにねじふビせられるのが世のことわりなのだろう。


「それでも、やっぱり一度学んでるからか、幸生くんは研究方面の伸びがいいし、兄さんも物覚えがとてもいいです。人の名前、顔、趣向も直ぐに覚えますし。優一くんは魂の量が少ないからかどこかぼんやり気味ですけど、意思表示はしっかりしてくれます」


まるで大きな子供を育てている父親のようだ。

それに、と言葉を続けて、春秋は朱雀と青龍の肩を叩き、今鏡へと視線を向けた。


「心強いメンバーも揃ってますし?」


にっこり笑顔を浮かべる。

この笑顔の圧力にはきっと誰も敵わないに違いない。


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