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最終話:これからの事。
10これからの事。
しおりを挟む「ふぅ。見知った者ばかりとは言え、疲れただろう?紗紀」
「……少し。でもどこかまだ夢ごこちで……」
「分かる」
二人の住まいとして用意された小さな平屋の縁側で、お風呂を浴び終わった二人が並んで夜風にあたる。
「彼、泣いていて驚いたよ」
不意にぽつりとミタマが呟いて、紗紀は祝言の時を思い出した。
ミタマと盃を交わした後、顔をあげると優一が一筋の涙を流したままただただ紗紀を見ていた事が気がかりだった。
彼であって、彼ではない。
そう理解はしているのに、それでもあの体のどこかに残っているのだ。
紗紀を想うその気持ちが。
「でも、おめでとうって言ってくれましたよ」
「……うん。聞いてた」
こんぴらさんと共に挨拶に来てくれた彼は、表情は無かったけれど確かにそう言葉をくれた。
「彼はこれからも春秋が見てくれるみたいだし、よかったね」
「はい。正直どうなるのか心配だったので。優一さんの魂では無いのに、何度も助けてくれたんです。とても不思議でした」
魂は別だと分かっていても、やっぱり少し面白くないミタマ。
何より紗紀のピンチに出遅れた挙げ句、助けに来たはずなのに薬を使われたからと言って紗紀を自ら攻撃をした事実が頭の片隅に今でも残っている。
「紅葉さんも、章さんと一緒に居られて幸せそうでしたし。どんな形が最善かは分かりませんが……、今こうなった現状の中で、自分達が正しいと思う道を突き進むしかありませんよね」
「そうだね」
いつだって前を向いている彼女に、眩しさと共に強く心惹かれる。
「なんだか、やっぱり実感がわかないな……」
こてん、とミタマは自分より小さな紗紀の肩に頭を乗せた。
紗紀は楽しげに笑いながら、自分の膝をとんとんと叩く。
ミタマは促されるまま紗紀の膝を枕にして寝転んだ。
「今までと大きな変化って無いですからね。でも、サグジさんの黒も羽織袴姿はかっこよかったです。見れて良かった」
紗紀はミタマの頭を撫でながらそう告げる。
たまに指先に触れる狐耳のふわふわ加減が妙に癖になっていた。
ミタマは紗紀の撫でるその手を掴むと、その手の甲へと口づけを落とす。
「俺も、みんなの前でキミが俺のお嫁さんだって証明出来て、見せびらかせてとても満足してるよ」
「……っ。サグジさんって……なんでそんな言葉平気で言えるんですか……」
ミタマの甘ったるい言葉に顔を赤くして反応に困る紗紀。
ミタマは紗紀の手を離し、起き上がると口づけを交わした。
「本音なんだから仕方がない」
ミタマはおかしそうに笑って、反論してこようとする紗紀の口を唇で塞ぐ。
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