儚げ社長は一途な年下秘書に密やかに溺愛される

椿綾あこ

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6 わがまま秘書からの報告

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 あの声と言葉が頭から離れない。


「――社長」
「……」

 声が聞こえる。
 
「――社長」

 月明かりの下、秋月さんが紡いだ告白。誰もが憧れる彼の声が耳から離れてくれない。

「――乃社長」

 俺をあなたの恋人候補にしてください。
 そんな言葉を言われたのは初めてで――だから、いつまでも忘れられない。まるですぐそこに秋月さんがいるような感覚に陥って……この数日、仕事がまったく手につかない。

「椛乃社長!」
「え……?」

 秋月さんの声をかき消すような声にハッとしてビクリと肩が跳ねる。一気に世界が色づいて――心配そうに私の様子を伺う茉乃ちゃんの顔が瞳に飛び込んだ。

 全然気づかなかった。……一体いつから呼ばれていたんだろう?

「ごめん、茉乃ちゃん……! ちょっと集中してて……!」
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。ごめんね、何かあった?」
「いや……まもなく17時30分なので……」
「え? 嘘……!?」

 茉乃ちゃんの言葉に後ろを振り返る。デスクの後ろにある大きな窓の外を見て驚いた。あんなに高かった太陽の位置がすっかり低くなっている。

 いつの間にか――時計の針は帰宅時間を迎えていた。
 そして目の前のパソコン画面、それから手元の稟議書へと目線を落とす。

 どうしよう……全然進まなかった。

 午後一番の会議の後はゆっくりデスクワークをする時間があったのに、予定の半分も終わっていない。急ぎの書類がないことが唯一の救いかもしれない。

 だけど、折角茉乃ちゃんがスケジュールを調整してデスクワークの時間を作ってもらっているのに仕事が進んでないなんて言えない。そしてそれを悟られるわけにはいかず、申し訳なさそうに少し眉を下げた茉乃ちゃんに向かって私は笑顔を作った。
 
「すごく集中していたところ、すみません……」
「ううん、私の方こそ、気づかないでごめんね。茉乃ちゃんは仕事終わった?」
「はい、終わりました」

 さすが茉乃ちゃん。私とは大違い。

 もしもこの後に何も予定がないなら、少し残って終わらなかった仕事を進めるのが妥当だろう。明日は取引先に行ったり、会議があったりと忙しい。

 けど――今日はダメだ。大切な予定が入っているから。

「帰る準備するね。夜ご飯イタリアンでよかった?」
「はい! 予約までありがとうございます。私もバッグ取ってきます!」

 パソコンをシャットダウンし、手を付けてない書類は鍵付きの書庫に片付ける。5分も経たない内に帰る準備が出来てしまった。

 今日の予定は――茉乃ちゃんとのディナーだ。
 
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