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7 忘れられない過去
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茉乃ちゃんとのディナーは予想以上に盛り上がり、家に帰るのは予定より遅くなってしまった。
明日も忙しいし、さっさとお風呂済ませてゆっくりしようと準備をする。
湯船の準備をしている間、食洗機に入れておいた食器を片付け、明日の服を選んだりと夜のルーティーンをこなせば、ゆっくりとしたバスタイムのスタートだった。
お気に入りのバスソルト、キャンドルの灯り。余裕があれば防水ケースに入れたタブレットを持ち込んで映画やドラマを見たりするけど今日はそんな気分じゃない。
「――茉乃ちゃん幸せそうだったな」
湯船につかって、一日の疲れを取る大切な時間。だけど今日は真っ先に茉乃ちゃんの姿が思い浮かんだ。
久世社長と付き合うと報告された時は本当に驚いたけど、茉乃ちゃんは本当に幸せそうだった。
恋する茉乃ちゃんは見たことあるけど、今回の茉乃ちゃんが一番可愛いし、綺麗。相手の久世社長のことをよく知っているから、彼が茉乃ちゃんを傷つけないこともわかっている。
私に報告してきたってことは、これから関係をオープンにしていくのかな? そうなると茉乃ちゃんのことを可愛いと思ってる男性社員はショックだろうな。けど、指輪を付けるようになってからは茉乃ちゃんに恋人が出来たってすでに噂されてるのは知ってる。
「……そうか。茉乃ちゃんは、前に進んだんだ……」
ふいにそんな声が零れた。同時に頭の中に浮かび上がる景色がまた私を乱した。
先週、秋月さんに告白された。
月明りの下で、このマンションの車寄せで、まっすぐ私を見た彼が紡いだ愛の告白。忘れられるわけもなくて――気を抜くとすぐに秋月さんのことを考えている。
あの日の秋月さんの言葉に嘘がないことはわかっている。秋月さんは私が好きで恋愛感情を持っている。
声に出さずとも、思い出すだけで胸の奥がそわそわして仕方ない。
私は彼に対して恋愛感情を持っていない。確かにあんな素敵な人から告白されて胸はときめいたし、ずっと考えてしまう。私が彼に好意を持っているならすぐに喜んで「私も好きです」と答えていたかもしれない。だけど私は違う。
だから断らないといけなかった。今後も秋月さんとの関係は続くことを考えると、あの場ですっぱりと終わらせるべきだった。なのに――。
「どうして頷いちゃったんだろう……」
『俺をあなたの恋人候補にしてください』
少し強引にも思える“お願い”を私はなぜか受け入れてしまった。断るべきなのに……あまりにも秋月さんの瞳が優しくて、心臓の辺りがそわそわして……何故か頷いてしまった。
あんな風に自分の意に反する言動をしてしまうなんて滅多にない。頭ではわかっていたのに、彼にチャンスを与えることになった。
温かい湯船の中で、疲れた脚をマッサージしながらあの日の秋月さんの言葉を思い出す。身体が熱いのもきっと湯船のせいだと思う。
「……出会った時って……」
秋月さんの言葉には気になる点が幾つかあった。
彼はあの日、「出会った時から」と言っていた。私と秋月さんが出会ったのはもう3年以上前。初めてあったのは確か――LUNARIA主催のレセプションパーティーだったと思う。
あの時の私……秋月さんとどんな話したっけ?
覚えているのは、初めて見た秋月さんは画像や紙面越しに見るより素敵だったこと。それと……。
「体調悪そうだった時だよね……?」
あの日の秋月さんはLUNARIAの顔として笑顔を振りまいていた。だけどどこか顔色が悪くて、冷や汗をかいているようにも見えた。何かのタイミングで声をかけて水をあげて……。
もしかして、それで?
「いや、それだけで……好きになったりするのかな……?」
あの日の私はどんな格好してたっけ? そんな疑問を浮かべるけど、思い出せない。覚えているのはそれが秋月さんとの出会いってことぐらい。話したのも挨拶や、ちょっとした世間話とか、そんな感じだったと思う。
そんな簡単に恋に落ちる展開なんてないはず。
明日も忙しいし、さっさとお風呂済ませてゆっくりしようと準備をする。
湯船の準備をしている間、食洗機に入れておいた食器を片付け、明日の服を選んだりと夜のルーティーンをこなせば、ゆっくりとしたバスタイムのスタートだった。
お気に入りのバスソルト、キャンドルの灯り。余裕があれば防水ケースに入れたタブレットを持ち込んで映画やドラマを見たりするけど今日はそんな気分じゃない。
「――茉乃ちゃん幸せそうだったな」
湯船につかって、一日の疲れを取る大切な時間。だけど今日は真っ先に茉乃ちゃんの姿が思い浮かんだ。
久世社長と付き合うと報告された時は本当に驚いたけど、茉乃ちゃんは本当に幸せそうだった。
恋する茉乃ちゃんは見たことあるけど、今回の茉乃ちゃんが一番可愛いし、綺麗。相手の久世社長のことをよく知っているから、彼が茉乃ちゃんを傷つけないこともわかっている。
私に報告してきたってことは、これから関係をオープンにしていくのかな? そうなると茉乃ちゃんのことを可愛いと思ってる男性社員はショックだろうな。けど、指輪を付けるようになってからは茉乃ちゃんに恋人が出来たってすでに噂されてるのは知ってる。
「……そうか。茉乃ちゃんは、前に進んだんだ……」
ふいにそんな声が零れた。同時に頭の中に浮かび上がる景色がまた私を乱した。
先週、秋月さんに告白された。
月明りの下で、このマンションの車寄せで、まっすぐ私を見た彼が紡いだ愛の告白。忘れられるわけもなくて――気を抜くとすぐに秋月さんのことを考えている。
あの日の秋月さんの言葉に嘘がないことはわかっている。秋月さんは私が好きで恋愛感情を持っている。
声に出さずとも、思い出すだけで胸の奥がそわそわして仕方ない。
私は彼に対して恋愛感情を持っていない。確かにあんな素敵な人から告白されて胸はときめいたし、ずっと考えてしまう。私が彼に好意を持っているならすぐに喜んで「私も好きです」と答えていたかもしれない。だけど私は違う。
だから断らないといけなかった。今後も秋月さんとの関係は続くことを考えると、あの場ですっぱりと終わらせるべきだった。なのに――。
「どうして頷いちゃったんだろう……」
『俺をあなたの恋人候補にしてください』
少し強引にも思える“お願い”を私はなぜか受け入れてしまった。断るべきなのに……あまりにも秋月さんの瞳が優しくて、心臓の辺りがそわそわして……何故か頷いてしまった。
あんな風に自分の意に反する言動をしてしまうなんて滅多にない。頭ではわかっていたのに、彼にチャンスを与えることになった。
温かい湯船の中で、疲れた脚をマッサージしながらあの日の秋月さんの言葉を思い出す。身体が熱いのもきっと湯船のせいだと思う。
「……出会った時って……」
秋月さんの言葉には気になる点が幾つかあった。
彼はあの日、「出会った時から」と言っていた。私と秋月さんが出会ったのはもう3年以上前。初めてあったのは確か――LUNARIA主催のレセプションパーティーだったと思う。
あの時の私……秋月さんとどんな話したっけ?
覚えているのは、初めて見た秋月さんは画像や紙面越しに見るより素敵だったこと。それと……。
「体調悪そうだった時だよね……?」
あの日の秋月さんはLUNARIAの顔として笑顔を振りまいていた。だけどどこか顔色が悪くて、冷や汗をかいているようにも見えた。何かのタイミングで声をかけて水をあげて……。
もしかして、それで?
「いや、それだけで……好きになったりするのかな……?」
あの日の私はどんな格好してたっけ? そんな疑問を浮かべるけど、思い出せない。覚えているのはそれが秋月さんとの出会いってことぐらい。話したのも挨拶や、ちょっとした世間話とか、そんな感じだったと思う。
そんな簡単に恋に落ちる展開なんてないはず。
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