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21 止まない雨
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しおりを挟む「どれだったかな……3年ぐらい前だから……」
目の前に座った男性が手にしたタブレットを操作する。
百貨店の応接室で用意されたコーヒー片手に私と茉乃ちゃんはその様子を見守っていた。
ビジネス商談ではなく、ちょっとした雑談は思ったより楽しい。ポップアップストアの様子も気になるけど、こうやって話すのは新しい発見がある。話し上手な人が揃っているのか、話題が途切れることはない。私も茉乃ちゃんもリラックスできている。
安心したのも、束の間――なぜか話題は綴くんになっていた。
私の正面に座る男性バイヤーはかつて綴くんがモデルを務めていたブランドを担当して、何かのタイミングでその話になってしまった。
「あった。これです」
男性がタブレットで探していたのは、そのブランドの服に身を包んだ綴くんだった。数年前にモデルをしていた時のカタログで、それを見た茉乃ちゃんが「あ、見たことあるかも」と声を零した。
「彼が着てたこのジャケット、すごい売れたんですよ」
「へえ……さすが秋月さん」
茉乃ちゃんが感心したように頷くのを横目に私も写真に目を奪われた。画面をスクロールすると別のコーデの綴くんが出てきた。こちらもまた文句のつけ処がないぐらい素敵な写真だった。
「辞めるって聞いた時は私もびっくりしました。けど今秘書やってる姿を見て、『秘書してるのもかっこいいのはずるい』って思ってます」
「私達女性の視線も引き寄せちゃいますもんね」
ちょっとした冗談に女性バイヤーが笑うけど、私だけは上手く笑えている気がしない。だって冗談だけど
事実だから。
「九重社長もびっくりされたんじゃないんですか? モデル辞めて、LUNARIAの秘書になったのって」
「そうですね……びっくりはしましたけど、今ではもうすっかり秘書の秋月さんの方がしっくり来てます」
「わかります。私もです」
茉乃ちゃんが上手く話に入ってくれることに今日はすごく感謝してる。いつも通りを装っているけど、私が意識しているせいか、気がつけば綴くんの話ばかり聞く。
そうなれば自然と彼に対する戸惑いの感情が口から出てきそうになるので、私はそれを抑えるので精一杯。彼がここに居ないことに感謝していたのに、画面越しに昔の彼を見ることになるなんて。
「あ、この時に着ていたコーデもとても人気でした!」
また次の写真が出てくる。今度は女性モデルと並んだ写真だ。まるでデート風景のようで、綴くんの手が女性モデルの腰に回り、女性は彼にもたれかかっている。言うまでもなくいい写真に周りも「お似合い」なんて口にする。
その2ショットは今の私には辛い。彼の気持ちを疑っているから、女性とお似合いなところなんて見たくなかった。だけどまた私は笑顔を作って周りの意見に合わせることにした。
話が盛り上がる中、私は自分の中の不安が大きくなっていくのを感じた。
元恋人が引き金になって、綴くんに対する全てがマイナス思考に陥って、呼吸が少し苦しくなり、胸のあたりがもやもやする。
そんな中、バッグに入れていたスマホが震える音が耳を掠めた。
画面を見ると、常務からの電話だった。
「すみません。すぐ戻りますね」
軽く頭を下げて、スマホを手に応接室を出る。これ以上綴くんの話を聞きたくなかった私にとって、これは助け船かもしれない。
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