儚げ社長は一途な年下秘書に密やかに溺愛される

椿綾あこ

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24 膨らむ後悔

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 ドアの開く音がやけに大きく聞こえて、ふいに私はドアから目をそらそうとした。……だけど間に合わなかった。そして、あの日以来の綴くんの姿が瞳に飛び込んでくる。

「申し訳ございません。思ったよりも時間がかかりまして。九重社長、黒瀬さん、お世話になっております」

 柔らかい声といつもと変わりない整った容姿の綴くんは綺麗なグレーのスーツに身を包んでいた。私と茉乃ちゃんを見て軽く頭を下げると、私も挨拶を返した。

「無事終わったか?」
「はい、滞りなく。詳細は後程」
「わかった。ご苦労だった」

 久世社長とのやり取りを聞いて、本当に急用だったのだと理解する。よかった、避けられていたわけじゃなかった。ほっと息をついて、私はなんとか平然を装った。

「そろそろ私達も帰りましょうか」
「そうですね。まもなく、車も到着する予定ですし」

 ミーティングも終わったし、綴くんとも顔を合わせづらい。これ以上ここに留まる必要はない。なので、受け取った資料をバッグに入れると、茉乃ちゃんに声をかけた。

「秋月」
「かしこまりました。下まで送りますね」

 久世社長の一言に秋月さんが頷く。まるで以心伝心だといつもなら感心するところだけど今日は違う。今は1秒でも早くここから立ち去りたい。それでも、いつも通りを装うなら、拒むのは変だろう。

「久世社長、本日もありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、ご足労いただきありがとうございました」

 久世社長も改めて挨拶を交わし、綴くんに促されるまま会議室を出た。エレベーターを待つ間、気を遣ったのは綴くんだった。

「Yoruiのポップアップ、大成功みたいでよかったですね」
「あ、はい。よかったです。黒瀬さんとも言ってました」
「私、都内のポップアップはお客さんとして行こうかなって思ってます」
 
 茉乃ちゃんが声を弾ませると、綴くんが「いいですね」と頷く。エレベーターが来たので、乗ると茉乃ちゃんの視線が私へと移動した。

「椛乃社長も一緒に行きますか?」
「そうですね、タイミングが合えば行っても楽しいかもです。視察には行くつもりだけど、お客様視点だと新しい発見があるかもしれないし」
「ですよね? あとでスケジュール確認しましょう」

 茉乃ちゃんにはいつも助けられてるけど、今日はその何倍も助かってる。気まずい沈黙もなく、いつも通りを装えているのは茉乃ちゃんのお陰だと思う。

 ありがとう茉乃ちゃん。

 心の中で小さな感謝を伝える。だけど、私の視線はつい綴くんの背中に向いてしまう。きゅっと胸が苦しくなったのは、あの夜の綴くんの声を思い出したせいだ。

 
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