3 / 32
1章
1-3
しおりを挟む
朝食を食べ終えると、昨日着た制服に腕を通す。二人の間に余計な会話はない。
「柳瀬、そろそろ出ようか」
「何いってんだ、時間空けて別々で行くに決まってんだろ」
「どうして! いいじゃん、一緒に行こうよ」
「ちっ、分かってねぇな。俺は何もしてねぇが、評判悪いんだ。そんな奴と生徒会長がつるんでいたら、お前の品格疑われるし、メンバーにも迷惑かけるだろうが」
「いや、むしろ誰とでも仲良くできるっていう長所を見せつけられるチャンスじゃない?」
朝の優雅な時間の余韻に浸っていたかった一条は、食い下がるも「どうしても一緒に行くってんなら、学校行かねぇよ。サボる」柳瀬はつんとそっぽを向く。なので、仕方なく、リビングを出て、玄関から鍵を取り柳瀬に渡した。
「もう、全く頑固なんだから。鍵渡すから、僕が先に家を出るよ。だから、僕ん家の鍵、閉めてから来てね」
「んぁ?! 何で家主から鍵を預かって家主より後に出なきゃならねぇんだ!」
「柳瀬が、サボる、なんていうから」
「一条と俺が別行動なら・・・・・・」鍵を受け取り、制服姿でどかんとソファに座り込んだ。それを見て、一安心し、一条は早めに自宅のアパートを後にした。
家を出てから高校までのこの道のりは、二年目になる。先週に新入生が入ってきたこともあり、学校に近くなれば、自然と人はわらわらと増えてくる。ライブ会場に行くかのように一箇所に集まる人たちに、柳瀬と登校しているところを見られたいとさえ思う。
「おはようございます!」
「おはようございます、会長」
校門前で律儀に挨拶運動をする副会長の立野と、生徒会メンバーが一条に一礼する。まるで久しい朝からの出勤でも、いつでも準備万端な秘書課のように、早めに来ても、一条より早くから校門前に立って運動をしている。そういう習慣ではないのに、だ。わらわらと集まる玄関先では、新入生たちが生徒会の徹底した生徒会活動に感嘆の声を漏らすやつもいた。
生徒の視線を戻して生徒会役員の顔を見ると、一条の想像通りだった。
「会長、今日は早いですね! 何かありましたっけ」
「立野君、毎日ご苦労さま。今日はたまたま早くに目が覚めちゃって。でも、僕だって参加したほうがいいよね、副会長の立野君がやっているのにトップがあとから登校なんて、都合良すぎるよ」
立野は一条の従順な下僕のように、一条に手を煩わせたがらない。「挨拶運動は、習慣づけて行うことで、風紀を乱す輩が減ると思うんです! 風紀検査なんていちいち教師、生徒共々面倒なことをせずに済むかもしれないんです」とても正論である。
しかし、立野の隣に立っている役員の表情は頬も痩せこけて見えるくらいに、早朝からの風紀指導込みの挨拶運動には骨が折れているようだった。
聞くところによると、立野は毎日校門前に立っているが、その隣で一緒に活動するのは毎日違う役員が交代でやっている。なんでも、早朝六時からと聞いて、それが交代制であっても立ちっぱなしの三時間は足が棒になるというもの。
それを、立野は一人休まずに続けている。
その精神力に恐れと危機感を持って、役員は会長である一条に立野のコントロールを委ねるほかない状況だ。
「立野君、僕も一緒に運動に参加したほうがいいよね、期間外といえど、立野君が生徒のためを思ってやってることは間違いじゃないし」
「いえ、会長は他にも仕事はたくさんあるし、会長のみの極秘の仕事だって抱えているらしいじゃないですか。だったら、僕らもできる範囲でサポートに徹するまでですよ!」
凛とした眼差しと羨望の眼が入り混じった立野の目には、金鉱石でも入っているのか、とても純度の高い光沢が一条の目をじわじわとダメージを食らってしまう。
軍人勅諭を掲げているのかと疑わしくなる。
隣では付き合いきれないとばかりに、ただの物置と化した役員が、鼻提灯をだして立ったまま眠ってしまっていた。
「なんでそこまで頑張ってるの? いや、頑張ることは素晴らしいことだと思うんだけど、頑張りすぎは僕が心配するから、程々にしてほしいな」
「心配・・・・・・ですか」
「そう、立野君の隣を見て」
「柳瀬、そろそろ出ようか」
「何いってんだ、時間空けて別々で行くに決まってんだろ」
「どうして! いいじゃん、一緒に行こうよ」
「ちっ、分かってねぇな。俺は何もしてねぇが、評判悪いんだ。そんな奴と生徒会長がつるんでいたら、お前の品格疑われるし、メンバーにも迷惑かけるだろうが」
「いや、むしろ誰とでも仲良くできるっていう長所を見せつけられるチャンスじゃない?」
朝の優雅な時間の余韻に浸っていたかった一条は、食い下がるも「どうしても一緒に行くってんなら、学校行かねぇよ。サボる」柳瀬はつんとそっぽを向く。なので、仕方なく、リビングを出て、玄関から鍵を取り柳瀬に渡した。
「もう、全く頑固なんだから。鍵渡すから、僕が先に家を出るよ。だから、僕ん家の鍵、閉めてから来てね」
「んぁ?! 何で家主から鍵を預かって家主より後に出なきゃならねぇんだ!」
「柳瀬が、サボる、なんていうから」
「一条と俺が別行動なら・・・・・・」鍵を受け取り、制服姿でどかんとソファに座り込んだ。それを見て、一安心し、一条は早めに自宅のアパートを後にした。
家を出てから高校までのこの道のりは、二年目になる。先週に新入生が入ってきたこともあり、学校に近くなれば、自然と人はわらわらと増えてくる。ライブ会場に行くかのように一箇所に集まる人たちに、柳瀬と登校しているところを見られたいとさえ思う。
「おはようございます!」
「おはようございます、会長」
校門前で律儀に挨拶運動をする副会長の立野と、生徒会メンバーが一条に一礼する。まるで久しい朝からの出勤でも、いつでも準備万端な秘書課のように、早めに来ても、一条より早くから校門前に立って運動をしている。そういう習慣ではないのに、だ。わらわらと集まる玄関先では、新入生たちが生徒会の徹底した生徒会活動に感嘆の声を漏らすやつもいた。
生徒の視線を戻して生徒会役員の顔を見ると、一条の想像通りだった。
「会長、今日は早いですね! 何かありましたっけ」
「立野君、毎日ご苦労さま。今日はたまたま早くに目が覚めちゃって。でも、僕だって参加したほうがいいよね、副会長の立野君がやっているのにトップがあとから登校なんて、都合良すぎるよ」
立野は一条の従順な下僕のように、一条に手を煩わせたがらない。「挨拶運動は、習慣づけて行うことで、風紀を乱す輩が減ると思うんです! 風紀検査なんていちいち教師、生徒共々面倒なことをせずに済むかもしれないんです」とても正論である。
しかし、立野の隣に立っている役員の表情は頬も痩せこけて見えるくらいに、早朝からの風紀指導込みの挨拶運動には骨が折れているようだった。
聞くところによると、立野は毎日校門前に立っているが、その隣で一緒に活動するのは毎日違う役員が交代でやっている。なんでも、早朝六時からと聞いて、それが交代制であっても立ちっぱなしの三時間は足が棒になるというもの。
それを、立野は一人休まずに続けている。
その精神力に恐れと危機感を持って、役員は会長である一条に立野のコントロールを委ねるほかない状況だ。
「立野君、僕も一緒に運動に参加したほうがいいよね、期間外といえど、立野君が生徒のためを思ってやってることは間違いじゃないし」
「いえ、会長は他にも仕事はたくさんあるし、会長のみの極秘の仕事だって抱えているらしいじゃないですか。だったら、僕らもできる範囲でサポートに徹するまでですよ!」
凛とした眼差しと羨望の眼が入り混じった立野の目には、金鉱石でも入っているのか、とても純度の高い光沢が一条の目をじわじわとダメージを食らってしまう。
軍人勅諭を掲げているのかと疑わしくなる。
隣では付き合いきれないとばかりに、ただの物置と化した役員が、鼻提灯をだして立ったまま眠ってしまっていた。
「なんでそこまで頑張ってるの? いや、頑張ることは素晴らしいことだと思うんだけど、頑張りすぎは僕が心配するから、程々にしてほしいな」
「心配・・・・・・ですか」
「そう、立野君の隣を見て」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる