心、買います

ゴンザレス

文字の大きさ
上 下
30 / 32
1章

1-30

しおりを挟む
 全校朝礼時に教頭が発した言葉は、まさに圧政を強いた生徒会カーストの幕開けを匂わせるものだった。昨日の成績開示の貼り紙を見ても、明らかに違和感――いや、悪意すら感じる掲示の仕方であったと柳瀬は、話を受け流しながら思い返す。
 なぜ上位と下位だけを載せたのか。下位も乗せるならば間の生徒の席次も載せなければおかしい。公平さのかけらもない。

 体育館の端で生徒会役員も目を点にして教頭の話を聞いているのがよく分かる。後列にいながらも視力のいい柳瀬にとって、距離のある一条らの表情を読み取るのは容易いことだった。
 「っひ! マジかよアイツ――」ばっちり柳瀬と目が合った。立野も同様に視力には自信があるらしい。

 どうやら、ファーストコンタクトからいけすかないと思っていた漠然とした予感は、的中のようだ。
 一条を待つのを止めて帰宅していれば、副会長がエントランスで革靴に履き替え帰宅しようとするところを見た昨日。

「副会長さんじゃん、そういや、お前賢いんだな。トップじゃん」

 他意のない、といえば少し語弊があるが、大方は新入生から生徒会に入ることだけのことはある、という意味合いの方が強かった。
 だが、「最下位に言われても」さらりと言ってのける図太い神経に、柳瀬は生徒会の役員の全員がこうなのか、と一条の身を案じる。

「・・・・・・んーまぁ、名前でも書き忘れたのかもしれないな」
「名前書き忘れて無くても大差ないでしょ」
「・・・・・・何でそんなつっかかることをポンポンと言う?」
「それは――っ、その頭、校則違反だ」
「これ、地毛」
「ウソつけ。お前みたいな奴が生徒会の手を煩わせる。そんな奴に、丁寧な対応なんてとってられるか」
「ほー、言うな、お前」

 明確な敵意を感じ取って、柳瀬は一足先に退散することにしたのだった。

 副会長は不良が憎いらしい。
 カースト制度は健在だと彼は言いながらも、生徒会の仕事は会長である一条よりも精力的な行動を鑑みて、矛盾は生じているものの、人の動機なんてものは予測では計れないことのほうが多いことを知っている。
 
 教頭な教師ファースト的発言をして降壇した後、生徒会は周りの教師陣に説明を求めるような行動が窺えた。しかし、これといって納得できるものではないらしい。

 ――一条がいつになく、焦っている。

 それは朝礼が終わっても引き続いている。

(黒幕かどうかは分かんねぇけど、隣の貧弱野郎が怪しいんだけど、一条は気付かねぇだろうな)

 すると、また副会長と視線が交差する。

 教室へ戻れば、担任の教師から配布される「LTD学習法に基づいた補習」の案内。柳瀬はもれなく強制補習が決定している。
 読み終えた用済みの紙切れは飛行機にして、窓の外へ飛ばした。

 それから、昨日のサボタージュで受け取りそこねた答案用紙が封にまとめて渡される。
 「ん? 柳瀬、そういえば、席次の貼り紙のやつ、最下位になってなかったか?」点数を知っている担任の教師が顎を擦る。
 
「俺も名前書き忘れたかと思って受け入れてたんだけど、やっぱちげぇか」
「ああ、今回珍しく全教科受けてたから、感心してたとこなんだよ。だから、名前を書き忘れてたら俺が気付く」
「・・・・・・怪しいのはアイツか」

 柳瀬は「俺、今からサボる。せんせー1時間目の教科のせんせーに言っといて」と堂々と鞄をもって教室を出た。
しおりを挟む

処理中です...