14 / 33
3
しおりを挟む
「止めるの遅くなってごめん」弓月は硬く握りしめられているナイフを持つ手を優しく触る。すると、だんだんと局所的だった視野が広がる竜ヶ崎が「ゆづ? ゆづ!」とこちらも優しく弓月を包んだ。
岡田に馬乗りだった竜ヶ崎の胸に埋められる形で抱き締められる。弓月から表情は見えなかったが、竜ヶ崎の腕から指先まで小刻みに震えていた。
「良かったね。人殺しにならなくて」
「ゆづ、ゆづ、ゆづ。ああ、ゆづ——!!」
弓月の後頭部を優しく撫でたらしく、粘着質な音を立てながら竜ヶ崎の掌に浅黒い血が付着する。
弓月も正気を保つことで精一杯で、実のところ、優しく触れられた患部は痛みで気が狂いそうである。
「シロ。大丈夫。切れてるだけ」
「でも、お前、しばらく倒れて——」
落としたはずのナイフを手に持ち、「ちょっと待ってろ」とすぐそばで横たわる岡田に視線を移す。
弓月はすかさず「だったら、ソイツをけちょんけちょんにする前に、病院に連れてって。結構痛い」と微笑む。
「それに、もう散々やったでしょ」
「これ以上は、俺とシロが幼馴染じゃいらんなくなる」と自分で言っておきながら、また違和感を感じる。
(あれ? 犯罪者になるシロとは幼馴染じゃいられないってことか? 幼馴染みでいるだけなら、シロがどんな人間になろうとそれは変わらないはず。ん? )
「——あ」閃きが声に出る。
竜ヶ崎も弓月の説得と怪我の状況を見て納得してくれたようで、弓月の頭部を動かさないようゆっくりと横抱きにする。
同時に頭部とは関係のない胸部に苦しさを覚えた。そして、ようやく理解した。
(好きになるから、か。俺のためにここまでされると、幼馴染みじゃいられなくなるのは、俺の方)
思い返せば、シグナルは要所要所で出ていた。菊池を手酷く振った後に未練があると勘違いした時、幼馴染みの「特権」で優越感を感じていた時、竜ヶ崎に膝枕をしてドギマギした時、たしかに一喜一憂していた。
実感し出すと、それは際限無い好きで溢れてしまう。違和感の正体は「好き」だからに他ならないのだ。
その事実を乱闘後に気付く弓月も弓月である。
「頭、痛むよな。俺がもっと早く駆けつけていりゃ……」
こちらは好きという感情が芽生えて、若干表情の作り方を忘れかけているのだが、竜ヶ崎はそれどころではないらしく、「俺がもっと弓月の裏番を吹聴して回って——」とぶつぶつ言っている。
「いやいや、そこは俺を褒めてよ。俺、結構善戦したのよ? 岡田って言う奴の攻撃は全部避けたし。不意打ちさえなけりゃ、俺だってそこそこやれるっ!」
「……口元、なんだ」
竜ヶ崎に言われるまで表情の作り方以上に忘れていたが、岡田との邂逅に挨拶代わりのパンチを貰っていた。
全くもって情けない形で口元の腫れを指摘されている。
口籠る弓月に「もう大丈夫だ。アイツらの利き手の関節を乱暴に外したから、戻すのが下手な奴に当たれば、今までのように腕は振れなくなるし」と血の気が引くようなことを言う竜ヶ崎。
竜ヶ崎はあの騒ぎの中、岡田と弓月の頭部を殴打した男の武器を持つ手をしっかりと見ていたらしい。
それには「どこまでもカリスマ的だな」と言わざるを得ない。
弓月の秘密の特訓で、岡田の刃物から身体を傷つけないで済んだことなど一瞬で霞んでしまった。
(ま、出会い頭に殴られてるし、格好はついてないけど)
竜ヶ崎に連れて来られた病院先で、弓月は再度意識を手放した。言わずもがな、アドレナリン切れだった。
岡田に馬乗りだった竜ヶ崎の胸に埋められる形で抱き締められる。弓月から表情は見えなかったが、竜ヶ崎の腕から指先まで小刻みに震えていた。
「良かったね。人殺しにならなくて」
「ゆづ、ゆづ、ゆづ。ああ、ゆづ——!!」
弓月の後頭部を優しく撫でたらしく、粘着質な音を立てながら竜ヶ崎の掌に浅黒い血が付着する。
弓月も正気を保つことで精一杯で、実のところ、優しく触れられた患部は痛みで気が狂いそうである。
「シロ。大丈夫。切れてるだけ」
「でも、お前、しばらく倒れて——」
落としたはずのナイフを手に持ち、「ちょっと待ってろ」とすぐそばで横たわる岡田に視線を移す。
弓月はすかさず「だったら、ソイツをけちょんけちょんにする前に、病院に連れてって。結構痛い」と微笑む。
「それに、もう散々やったでしょ」
「これ以上は、俺とシロが幼馴染じゃいらんなくなる」と自分で言っておきながら、また違和感を感じる。
(あれ? 犯罪者になるシロとは幼馴染じゃいられないってことか? 幼馴染みでいるだけなら、シロがどんな人間になろうとそれは変わらないはず。ん? )
「——あ」閃きが声に出る。
竜ヶ崎も弓月の説得と怪我の状況を見て納得してくれたようで、弓月の頭部を動かさないようゆっくりと横抱きにする。
同時に頭部とは関係のない胸部に苦しさを覚えた。そして、ようやく理解した。
(好きになるから、か。俺のためにここまでされると、幼馴染みじゃいられなくなるのは、俺の方)
思い返せば、シグナルは要所要所で出ていた。菊池を手酷く振った後に未練があると勘違いした時、幼馴染みの「特権」で優越感を感じていた時、竜ヶ崎に膝枕をしてドギマギした時、たしかに一喜一憂していた。
実感し出すと、それは際限無い好きで溢れてしまう。違和感の正体は「好き」だからに他ならないのだ。
その事実を乱闘後に気付く弓月も弓月である。
「頭、痛むよな。俺がもっと早く駆けつけていりゃ……」
こちらは好きという感情が芽生えて、若干表情の作り方を忘れかけているのだが、竜ヶ崎はそれどころではないらしく、「俺がもっと弓月の裏番を吹聴して回って——」とぶつぶつ言っている。
「いやいや、そこは俺を褒めてよ。俺、結構善戦したのよ? 岡田って言う奴の攻撃は全部避けたし。不意打ちさえなけりゃ、俺だってそこそこやれるっ!」
「……口元、なんだ」
竜ヶ崎に言われるまで表情の作り方以上に忘れていたが、岡田との邂逅に挨拶代わりのパンチを貰っていた。
全くもって情けない形で口元の腫れを指摘されている。
口籠る弓月に「もう大丈夫だ。アイツらの利き手の関節を乱暴に外したから、戻すのが下手な奴に当たれば、今までのように腕は振れなくなるし」と血の気が引くようなことを言う竜ヶ崎。
竜ヶ崎はあの騒ぎの中、岡田と弓月の頭部を殴打した男の武器を持つ手をしっかりと見ていたらしい。
それには「どこまでもカリスマ的だな」と言わざるを得ない。
弓月の秘密の特訓で、岡田の刃物から身体を傷つけないで済んだことなど一瞬で霞んでしまった。
(ま、出会い頭に殴られてるし、格好はついてないけど)
竜ヶ崎に連れて来られた病院先で、弓月は再度意識を手放した。言わずもがな、アドレナリン切れだった。
0
あなたにおすすめの小説
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん
315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。
が、案の定…
対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。
そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…
三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。
そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…
表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。
【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話〜君の想いが届くまで〜
一優璃 /Ninomae Yuuri
BL
異世界での記憶を胸に、元の世界へ戻った真白。
けれど、彼を待っていたのは
あの日とはまるで違う姿の幼馴染・朔(さく)だった。
「よかった。真白……ずっと待ってた」
――なんで僕をいじめていた奴が、こんなに泣いているんだ?
失われた時間。
言葉にできなかった想い。
不器用にすれ違ってきたふたりの心が、再び重なり始める。
「真白が生きてるなら、それだけでいい」
異世界で強くなった真白と、不器用に愛を抱えた朔の物語。
※第二章…異世界での成長編
※第三章…真白と朔、再会と恋の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる