32 / 33
——side竜ヶ崎獅郎 終末——
しおりを挟む
頭を下げたまま微動だにしない竜ヶ崎。唇女たちからゆづきを巻き込むつもりがなかった旨を聞いていなければ、きっと菊池を責めずにはいられなかった。
「やめてよ。髪まで真っ黒にして」
「本当にすまん」
沈黙が長く続いたが、それを破ったのは菊池だった。盛大なため息を溢して「バカバカしくなってきた! 不本意だけど弓月君を巻き込んでしまったことは謝罪するわ」という。
「岡田が菊池とヨリを戻したいから弓月まで連れてきたことは知ってたか?」
「何それ。私は弓月君一筋だから、それ聞いても弓月君にごめんとしか言いようがないわ」
「……それもすまん。もう俺のなんだわ」
「いちいち癪に障る謝り方するわね。わざとなの?」
「ゆづを諦めてないって聞いたから。つい」
それを聞いた菊池が目を丸くして、それから呆れ顔で「最初からそれを表に出してりゃ私も勘違いせずに済んだのよ」といった。
菊池は弓月を重ねて髪を触っていたことに気付いていたらしい。後の祭り的な話になってくるのだが、たしかに、桜木といい菊池といい、弓月の面影を当てはめていた。それも無自覚だ。
頭を上げた竜ヶ崎は、幅の狭い手摺りの上に立つ。
「どうせ、菊池も俺のことなんか見てもなかったくせに、よく言うぜ」
「そうね。これっぽっちも振られた憎しみなんてないもの。お互い様なことくらい、私だって分かってるんだけど」
隣で手摺りに頬杖をつく菊池は、遠くに視線を移して言う。「弓月君だけは、本気だったのよ」。
そして、再び静寂が訪れる。心地よい、けれど冷たい風が、もう時期来る冬を教えてくれる。
「うわぁ?! シロなんでそんなとこ立ってんの?! 早く降りて!!」
階段のところで待機していたらしい桜木と弓月がまた屋上へやってきた。慌てふためく弓月に、竜ヶ崎は即座に手摺りから降りる。
「三浦先輩大丈夫ですよ。三浦先輩が竜ヶ崎さんと連絡が取れずに気を揉んでる間、竜ヶ崎さんが両手に華を侍らせて歓楽街に行ってたことをきっと懺悔してたんですよ」
「ね、竜ヶ崎さん。菊池さんの前で告白して懺悔してたんですよね」と念を押す桜木。
「え、アンタ。そんなことしてたの。マジで弓月君返して」
明確に軽蔑の眼差しを向ける菊池と、わなわなと怒りを溜め込む弓月に、竜ヶ崎は一瞬で本当に幅の狭い吊り橋の上に立たされた。
「シロ? 俺、今回のことで怒る資格はないって思ってたけど、これに関しては怒っていい気がするんだけど」
「……桜木、テメェ」
てへ、と少しばかり舌を出して見せる桜木に茶目っ気など微塵も感じない。もはや確信犯のニヒルな笑みに見える。
この状況で何を言っても言い訳がましく聞こえるだろう。そう思った竜ヶ崎は、弓月を抱き上げて屋上を後にする。「逃げるが勝ちだ。あと、桜木は覚えとけよ」。
「いずれまた、リベンジさせてもらうから!」と言う声が聞こえたが、竜ヶ崎はちくわ耳でそのままスルーした。
(執着すんのも疲れんだって……)
弓月を連れ去った後、何とか誤解を解くことができたが、暫くは白い目で見られた。「女の子に逃げるってマジでダサいから!」。
これには黙って耐えるしかなかった。
「やめてよ。髪まで真っ黒にして」
「本当にすまん」
沈黙が長く続いたが、それを破ったのは菊池だった。盛大なため息を溢して「バカバカしくなってきた! 不本意だけど弓月君を巻き込んでしまったことは謝罪するわ」という。
「岡田が菊池とヨリを戻したいから弓月まで連れてきたことは知ってたか?」
「何それ。私は弓月君一筋だから、それ聞いても弓月君にごめんとしか言いようがないわ」
「……それもすまん。もう俺のなんだわ」
「いちいち癪に障る謝り方するわね。わざとなの?」
「ゆづを諦めてないって聞いたから。つい」
それを聞いた菊池が目を丸くして、それから呆れ顔で「最初からそれを表に出してりゃ私も勘違いせずに済んだのよ」といった。
菊池は弓月を重ねて髪を触っていたことに気付いていたらしい。後の祭り的な話になってくるのだが、たしかに、桜木といい菊池といい、弓月の面影を当てはめていた。それも無自覚だ。
頭を上げた竜ヶ崎は、幅の狭い手摺りの上に立つ。
「どうせ、菊池も俺のことなんか見てもなかったくせに、よく言うぜ」
「そうね。これっぽっちも振られた憎しみなんてないもの。お互い様なことくらい、私だって分かってるんだけど」
隣で手摺りに頬杖をつく菊池は、遠くに視線を移して言う。「弓月君だけは、本気だったのよ」。
そして、再び静寂が訪れる。心地よい、けれど冷たい風が、もう時期来る冬を教えてくれる。
「うわぁ?! シロなんでそんなとこ立ってんの?! 早く降りて!!」
階段のところで待機していたらしい桜木と弓月がまた屋上へやってきた。慌てふためく弓月に、竜ヶ崎は即座に手摺りから降りる。
「三浦先輩大丈夫ですよ。三浦先輩が竜ヶ崎さんと連絡が取れずに気を揉んでる間、竜ヶ崎さんが両手に華を侍らせて歓楽街に行ってたことをきっと懺悔してたんですよ」
「ね、竜ヶ崎さん。菊池さんの前で告白して懺悔してたんですよね」と念を押す桜木。
「え、アンタ。そんなことしてたの。マジで弓月君返して」
明確に軽蔑の眼差しを向ける菊池と、わなわなと怒りを溜め込む弓月に、竜ヶ崎は一瞬で本当に幅の狭い吊り橋の上に立たされた。
「シロ? 俺、今回のことで怒る資格はないって思ってたけど、これに関しては怒っていい気がするんだけど」
「……桜木、テメェ」
てへ、と少しばかり舌を出して見せる桜木に茶目っ気など微塵も感じない。もはや確信犯のニヒルな笑みに見える。
この状況で何を言っても言い訳がましく聞こえるだろう。そう思った竜ヶ崎は、弓月を抱き上げて屋上を後にする。「逃げるが勝ちだ。あと、桜木は覚えとけよ」。
「いずれまた、リベンジさせてもらうから!」と言う声が聞こえたが、竜ヶ崎はちくわ耳でそのままスルーした。
(執着すんのも疲れんだって……)
弓月を連れ去った後、何とか誤解を解くことができたが、暫くは白い目で見られた。「女の子に逃げるってマジでダサいから!」。
これには黙って耐えるしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん
315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。
が、案の定…
対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。
そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…
三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。
そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…
表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。
【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話〜君の想いが届くまで〜
一優璃 /Ninomae Yuuri
BL
異世界での記憶を胸に、元の世界へ戻った真白。
けれど、彼を待っていたのは
あの日とはまるで違う姿の幼馴染・朔(さく)だった。
「よかった。真白……ずっと待ってた」
――なんで僕をいじめていた奴が、こんなに泣いているんだ?
失われた時間。
言葉にできなかった想い。
不器用にすれ違ってきたふたりの心が、再び重なり始める。
「真白が生きてるなら、それだけでいい」
異世界で強くなった真白と、不器用に愛を抱えた朔の物語。
※第二章…異世界での成長編
※第三章…真白と朔、再会と恋の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる