もう一つの凶器

深海雄一郎

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28章

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矢口警部補は、柴山の証言で、xの存在が真実味を帯びてきたことを感じた。そのxだと思われる植木悟の存在が浮上したからである。矢口警部補は、植木悟について調べることにした。
植木悟、年齢は木嶋修一と同じ45歳。高校卒業後に上京。木嶋と同じ、運送会社で働き始める。運送会社に聞き込みをして、当時のことを覚えていた人の証言で、木嶋と非常に仲が良かったらしい。
『確か、20年くらい前に、木嶋と同じぐらいの時に、植木も会社を辞めたんじゃなかったかな。』 
その後、木嶋は、別の会社でトラック運転手として勤務。植木悟は、とある事業を始めて、会社を設立。規模は小さいながらも、経営状態はよく、社長の地位を維持していた。
矢口は考えた。木嶋は、22年前に、植木から口止め料をもらった。だが、当時の植木は、まだ金がなく、そんなにむしりとる事は出来なかった。そして、二人は自然と別れることになった。ところが、20年経ってから、偶然、木嶋は、植木が出世して金持ちになっていたことを知ったのではないか。そして、再び、ゆすられることになって、植木は、木嶋を殺したのではないか。
『ですが、22年経った今頃、木嶋が、犯人は植木だったと告白しても、警察は何も出来なかったと思いますがね。事件当時だったら、現場に残されていた痕跡から、植木を指し示すなにか証拠が発見できたかもしれませんが。それに、凶器には、藤浪勤の指紋があって、植木の指紋はありませんから、証拠にはなりませんし。植木自身、その事は分かっていたと思いますが。』
『凶器以外に、木嶋は、植木が犯人だと示す証拠を持っていたんじゃないかな。そして、植木は木嶋を殺した後で、それを回収した。凶器の方を回収しなかったのは、藤浪勤の指紋しかついていなかったから、自分にたどり着く事はないと、たかをくくったんじゃないかな。』
『その証拠とは』
『一筆、植木に書かせていたんじゃないかな。犯人は自分だということを紙に書かせて、それを引き出しにしまっていた。もしも、植木に大金が転がり込んできそうな時に、脅して奪うために』 
『20年以上大事にしまっていたんですか』
『書かせた木嶋も忘れていたんじゃないかな。だが、植木が金持ちになったことを知ると、記憶を思い出して、たまたま偶然、紙が引き出しに残っていたのを発見した。』
『なるほど。そしてゆすってきた木嶋を殺してしまった。問題は証拠ですね。ところで、木嶋里美が藤浪勤のことを知っていたのはなぜだったんでしょうか』
思い出したように、若杉は矢口に聞いた。
『おそらく、15年前の事件の夜に、父と一緒に外出する藤浪勤の姿を目撃したんじゃないかな。ニュースで、事件が流れて、あの男が犯人の藤浪勤だったということがわかって、あの事件には、父も絡んでいたのではないかと里美は考えた。だが、子供の自分にはどうすることもできなかった。下手に喋っても、警察に信じてもらえず、激怒した父親から、何をされるかわからないからね。何も出来なかった負い目から、藤浪勤のことは知らないと嘘をついた。』
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