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30章
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矢口警部補は、事件の発生から二ヶ月後、あらかじめアポを取って、部下の若杉刑事を連れて、植木悟と面会をした。午前10時のことである
『木嶋が殺されたとニュースで聞いてびっくりしました。最近は全く会っていませんでしたからね。まさか殺されていたとは』
植木は、さも驚いたかのような表情を見せた。
『実は、木嶋さんの部屋には、凶器が残されていて、犯人だと思われる指紋が残されていたんです。』
矢口はこう言って、植木の反応を観察したが、ポーカーフェイスをしているのか、表情の変化はあまりなかった。
『それで、あなたの指紋をとらせていただきたいのですが』
『ええ、いいですよ』
植木はにこやかに応じた。指紋はちゃんと拭き取っておいたという自信があるので、警察による嘘だということはわかっているのであろう。矢口は、植木の指紋を採った後で続けて言う。
『ところで、藤浪勤さんをご存知ですか』
『ええ、木嶋の中学時代の先輩だということで、木嶋から紹介されたことがあります。彼が強盗殺人で捕まったと知った時はびっくりしましたね』
『その藤浪勤さんですが、彼は、強盗殺人を犯す前にも、人を殺めていたことが分かりましてね。』
『そうだったんですか。』
『偶然、藤浪さんと一緒にいた木嶋さんは、藤浪さんの犯行を目撃。弱みを握った木嶋さんは、藤浪さんを無理やり共犯にして、15年前に、星野一郎という男の屋敷に忍び込んだ。そして、惨劇は起きてしまった。』
『あの事件には、木嶋も絡んでいたんですね。驚きました』
『そして、木嶋さんをかばって、藤浪さん一人だけが、刑務所に収監された。木嶋さんに、もう一つの事件のことを喋られると、死刑は免れませんからね。そこで、丸山和彦という看守と出会います。彼は、藤浪さんに殺害された、星野一郎さんの息子です。 藤浪さんは、彼に真実を告げたのでした。丸山和彦は、犯行を目撃していて、手を下した男は、藤浪さんではなかったことは、子供の頃から知っていました。藤浪さんによって、父を殴打した男が、木嶋修一という名前の男だと知ります。ですが、居場所がわからない。だが、偶然、それがわかったのです。』
『では、木嶋を殺したのは、丸山和彦という男で、父親の復讐ということですか』
『我々はそう確信しています。ですが、決め手がないので困っているのです。』
『なぜ、彼の指紋と凶器に残されていた指紋を照合しないのですか』という質問は、植木の口からは出なかった。矢口は、目の前にいるこの男が犯人だという確証を改めて持った。
『ところで、なぜ我々が、藤浪さんが強盗殺人を犯す前にも、人を殺していたのがわかったのかについてですが、木嶋さんの部屋の押入れから、ずいぶん前に使用されたもう一つの凶器が発見されましてね。そこから、藤浪さんの指紋が出てきたんです。藤浪さんが使用した凶器が、なぜ木嶋さんの部屋にあったのか、そこから推理を重ねて、前に言った結論に至ったのです。』
『ところで』と、一旦間を開けて、矢口は続ける。『藤浪さんが最初の殺人を犯した際、木嶋さんだけでなく、あなたも一緒にいたのではありませんか』
『どうしてそう思うんですか』
『藤浪さんが、そう丸山和彦に言っていたそうなんです。』
『それは何かの間違いですよ。22年前に起こした事件ですから、記憶がボケているんじゃありませんか』
『どうして、22年前と分かったんですか。私は一言も22年前とは言っていませんが』
植木は、言葉に詰まったのか、黙ってしまった。矢口は続ける。
『そう、確かに、22年前に、その事件は起きました。深夜、酔っ払いのチンピラが、三人組の若い男に絡んできた。藤浪さんが、そのチンピラと口論になって、殺害してしまった。』
『ええ、そうです。確かに、私はその時、現場に居合わせていました。ですが、親友の藤浪を、警察に売るような真似はできなかった。』
『だが、木嶋さんの方は、弱みを握って、藤浪さんを脅迫していました。』
『そのことは知っていましたが、自分にはどうすることもできませんでした。木嶋に注意したら、あいつを怒らせて、藤浪のことを警察に喋るかもしれませんでしたから』
『本当は、あなたも弱みを握られていたんじゃありませんか』
矢口は、植木の眼を見据えて言った。
『なぜ、私が』視線をそらしながら、植木は言った。
『あなたが、22年前の事件の真犯人だからです。あなたは、チンピラによって気絶させられていた、藤浪さんのポケットから、彼の護身用のナイフを取り出して、チンピラを刺殺した。そして、木嶋さんと示し合わせて、藤浪さんにナイフの柄を握らせて、藤浪さんに、自分が犯人であると思い込ませた。木嶋さんが協力したのは、弱みを握れる人間が、一人よりも二人の方がいいからだと思ったからでしょう』
『証拠はあるんですか、全部刑事さんの勝手な憶測でしょう』
『確かに、証拠はありません。ですが、私は確信しています。それと、木嶋修一殺害事件に関しても、あなたの犯行だと思っています。あなたが金持ちになったことを知った、木嶋さんは、再び、あなたをゆすろうとした。だから殺した。事件を起こしたばかりの、貧乏だった頃は、それほどむしりとられなかったのかもしれない。だが、今度は違う。相当な額をあなたが生きている限り、一生むしりとられる可能性が高いですからね』
『しかし、刑事さんは、その事件の犯人は、丸山和彦だと仰ったじゃありませんか』
『あれは、あなたの反応を確認するためのフェイクです。私は、あなたに、犯人の指紋が凶器に残されていたと言いましたね』
『ええ』植木は頷く。
『そして、犯人は丸山和彦だと確信しているが、決め手がないと言った。その時、なぜあなたは、凶器に残されていた指紋と丸山和彦の指紋を照合しないんですかと、聞き返さなかったんですか』
植木は、再び黙ってしまった。
『あなたは、凶器に、犯人の指紋が残されていないことを知っていたからだ。なぜなら、犯人があなたで、あなたが自分の指紋を拭き取ったからです。』
植木は、再び、口を開けた。
『刑事さん。そんなことだけで、私を犯人にできるんですか』
『無理ですね。ところで、あなたは、木嶋さんが住んでいたアパートに行ったことはありますか』
『いえ、一回もないです』
『そうですか。実は、犯人らしき男を見たという目撃者がいましてね。そのアパートの管理人なんですがね。』
矢口は嘘をついた。
『仮に、それが私だったとしても、その事件の犯人だとは限らないでしょう』
『別に、目撃された男があなただとは、一言も言っていないんですがね。何か、心当たりがあるんですか。もしそうならば、教えてくれませんか。どうして、事件の当日に被害者のアパートに行ったのか。答えられない場合、心証はさらに、悪くなりますが』
植木は、耐えられなくなったのか、怒鳴るように言った。
『もう帰ってください。不愉快だ』
『最後に、事件のあった二ヶ月前の金曜日の、午前七時から午前8時ですが、どちらにいましたか』
『二ヶ月前のことなんて、いちいち覚えていませんよ。きっと自宅にいたんでしょう』
『それを証明できる人はいますか』
『五年前に、家内に先立たれてからは、独り身ですからね。証人はいません』
『木嶋が殺されたとニュースで聞いてびっくりしました。最近は全く会っていませんでしたからね。まさか殺されていたとは』
植木は、さも驚いたかのような表情を見せた。
『実は、木嶋さんの部屋には、凶器が残されていて、犯人だと思われる指紋が残されていたんです。』
矢口はこう言って、植木の反応を観察したが、ポーカーフェイスをしているのか、表情の変化はあまりなかった。
『それで、あなたの指紋をとらせていただきたいのですが』
『ええ、いいですよ』
植木はにこやかに応じた。指紋はちゃんと拭き取っておいたという自信があるので、警察による嘘だということはわかっているのであろう。矢口は、植木の指紋を採った後で続けて言う。
『ところで、藤浪勤さんをご存知ですか』
『ええ、木嶋の中学時代の先輩だということで、木嶋から紹介されたことがあります。彼が強盗殺人で捕まったと知った時はびっくりしましたね』
『その藤浪勤さんですが、彼は、強盗殺人を犯す前にも、人を殺めていたことが分かりましてね。』
『そうだったんですか。』
『偶然、藤浪さんと一緒にいた木嶋さんは、藤浪さんの犯行を目撃。弱みを握った木嶋さんは、藤浪さんを無理やり共犯にして、15年前に、星野一郎という男の屋敷に忍び込んだ。そして、惨劇は起きてしまった。』
『あの事件には、木嶋も絡んでいたんですね。驚きました』
『そして、木嶋さんをかばって、藤浪さん一人だけが、刑務所に収監された。木嶋さんに、もう一つの事件のことを喋られると、死刑は免れませんからね。そこで、丸山和彦という看守と出会います。彼は、藤浪さんに殺害された、星野一郎さんの息子です。 藤浪さんは、彼に真実を告げたのでした。丸山和彦は、犯行を目撃していて、手を下した男は、藤浪さんではなかったことは、子供の頃から知っていました。藤浪さんによって、父を殴打した男が、木嶋修一という名前の男だと知ります。ですが、居場所がわからない。だが、偶然、それがわかったのです。』
『では、木嶋を殺したのは、丸山和彦という男で、父親の復讐ということですか』
『我々はそう確信しています。ですが、決め手がないので困っているのです。』
『なぜ、彼の指紋と凶器に残されていた指紋を照合しないのですか』という質問は、植木の口からは出なかった。矢口は、目の前にいるこの男が犯人だという確証を改めて持った。
『ところで、なぜ我々が、藤浪さんが強盗殺人を犯す前にも、人を殺していたのがわかったのかについてですが、木嶋さんの部屋の押入れから、ずいぶん前に使用されたもう一つの凶器が発見されましてね。そこから、藤浪さんの指紋が出てきたんです。藤浪さんが使用した凶器が、なぜ木嶋さんの部屋にあったのか、そこから推理を重ねて、前に言った結論に至ったのです。』
『ところで』と、一旦間を開けて、矢口は続ける。『藤浪さんが最初の殺人を犯した際、木嶋さんだけでなく、あなたも一緒にいたのではありませんか』
『どうしてそう思うんですか』
『藤浪さんが、そう丸山和彦に言っていたそうなんです。』
『それは何かの間違いですよ。22年前に起こした事件ですから、記憶がボケているんじゃありませんか』
『どうして、22年前と分かったんですか。私は一言も22年前とは言っていませんが』
植木は、言葉に詰まったのか、黙ってしまった。矢口は続ける。
『そう、確かに、22年前に、その事件は起きました。深夜、酔っ払いのチンピラが、三人組の若い男に絡んできた。藤浪さんが、そのチンピラと口論になって、殺害してしまった。』
『ええ、そうです。確かに、私はその時、現場に居合わせていました。ですが、親友の藤浪を、警察に売るような真似はできなかった。』
『だが、木嶋さんの方は、弱みを握って、藤浪さんを脅迫していました。』
『そのことは知っていましたが、自分にはどうすることもできませんでした。木嶋に注意したら、あいつを怒らせて、藤浪のことを警察に喋るかもしれませんでしたから』
『本当は、あなたも弱みを握られていたんじゃありませんか』
矢口は、植木の眼を見据えて言った。
『なぜ、私が』視線をそらしながら、植木は言った。
『あなたが、22年前の事件の真犯人だからです。あなたは、チンピラによって気絶させられていた、藤浪さんのポケットから、彼の護身用のナイフを取り出して、チンピラを刺殺した。そして、木嶋さんと示し合わせて、藤浪さんにナイフの柄を握らせて、藤浪さんに、自分が犯人であると思い込ませた。木嶋さんが協力したのは、弱みを握れる人間が、一人よりも二人の方がいいからだと思ったからでしょう』
『証拠はあるんですか、全部刑事さんの勝手な憶測でしょう』
『確かに、証拠はありません。ですが、私は確信しています。それと、木嶋修一殺害事件に関しても、あなたの犯行だと思っています。あなたが金持ちになったことを知った、木嶋さんは、再び、あなたをゆすろうとした。だから殺した。事件を起こしたばかりの、貧乏だった頃は、それほどむしりとられなかったのかもしれない。だが、今度は違う。相当な額をあなたが生きている限り、一生むしりとられる可能性が高いですからね』
『しかし、刑事さんは、その事件の犯人は、丸山和彦だと仰ったじゃありませんか』
『あれは、あなたの反応を確認するためのフェイクです。私は、あなたに、犯人の指紋が凶器に残されていたと言いましたね』
『ええ』植木は頷く。
『そして、犯人は丸山和彦だと確信しているが、決め手がないと言った。その時、なぜあなたは、凶器に残されていた指紋と丸山和彦の指紋を照合しないんですかと、聞き返さなかったんですか』
植木は、再び黙ってしまった。
『あなたは、凶器に、犯人の指紋が残されていないことを知っていたからだ。なぜなら、犯人があなたで、あなたが自分の指紋を拭き取ったからです。』
植木は、再び、口を開けた。
『刑事さん。そんなことだけで、私を犯人にできるんですか』
『無理ですね。ところで、あなたは、木嶋さんが住んでいたアパートに行ったことはありますか』
『いえ、一回もないです』
『そうですか。実は、犯人らしき男を見たという目撃者がいましてね。そのアパートの管理人なんですがね。』
矢口は嘘をついた。
『仮に、それが私だったとしても、その事件の犯人だとは限らないでしょう』
『別に、目撃された男があなただとは、一言も言っていないんですがね。何か、心当たりがあるんですか。もしそうならば、教えてくれませんか。どうして、事件の当日に被害者のアパートに行ったのか。答えられない場合、心証はさらに、悪くなりますが』
植木は、耐えられなくなったのか、怒鳴るように言った。
『もう帰ってください。不愉快だ』
『最後に、事件のあった二ヶ月前の金曜日の、午前七時から午前8時ですが、どちらにいましたか』
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