死神 運命を繋ぐ

深海雄一郎

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生きるのが嫌になった。生を受けて35年間、私の人生の中で、何度、この言葉が頭の中によぎったことであろうか。なのに私は死ねない。病気ひとつ抱えておらず、いたって健康体であった。いっそ高いビルから飛び降りようか。そう思っていざ実行しようとするも、人一倍臆病な性格の私に、決行する勇気はなかった。それなら死のうなどと考えなければいいのでは、と思うかもしれないが、私は、どうしても死にたいのだ。ある日、そんな私の前にあの死神が現れた。「お前はどうしても、死にたいのか」
私は、力強く頷いた。
「だが、お前の寿命は、まだまだずっと長いぞ。そうだな、余命の少ない者と入れ替わるのはどうだ。」
「どういうことだ」
「世の中には、お前と逆で長生きしたくても、余命の少ない者もいる。その者と体を入れ替えるのだ。お互いに利害が一致しているのだから、文句を言う者はおるまい。」

私は、生まれた時から病弱だった。思い病気をいくつも抱えていた。現在、余命宣告を受けている。あと三ヶ月だそうだ。17歳の誕生日を迎える今日まで、病室の窓から風景を、眺めなかった日はなかった。世間でいうと、私は高校生らしい。もちろん学校には全く通っておらず、実感は全くない。生きたい。とにかく生きたいのだ。死にたくない。死が怖い。具体的な宣告を受けてから、初めて生きていることが生暖かく実感された。それ以前は、苦しい治療の痛みに耐えながら、ぼんやりと生きていた。

豊田明彦、35歳。里中千恵子、17歳。決して交わることのなかったであろう二人が、一人の死神によって繋がっていくことになり、二人の運命は大きく変わろうとしていた。
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