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第1話 ああバーガー全部廃棄かな
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店主「あーあ、こんなに売れのこっちまった。
今日も廃棄かあ……」
深夜、繁華街の路肩でぼやく、ハンバーガー移動販売の男。
年の頃は三十路前、一般的な男性よりは少々体格のいい、
コンビニ店員よりは強盗に襲われにくそうな面相だ。
すでに終電も近く、歩道を歩く人はいない。
顔見知りのホームレスに売れ残りのバーガーを10個ほど分けてやると、
店主は店じまいをして帰路についた。
☆ ☆ ☆
店主「自信作なのに。食えば旨さが分かるのに……」
恨めしそうにぼやく店主。
あまりの悔しさのためか、道を間違えたらしい。
いつしか周囲は霧がたちこめ、対向車すら見えない。
店主「あんれ……おかしいな。ここどこだ?」
霧を抜け、気付くとまるで知らない場所にいた。
実際に走った時間は小一時間程度である。
都心から行ける距離に、こんな場所はない。
――未舗装の道と、広大な原っぱ。遠景に山が連なる。
――深夜のはずが、なぜか早朝か夕方だった。空が赤い。
店主「あんまり売れなくて、とうとうおかしくなったか俺」
男は車を停めて、珈琲を淹れ始めた。落ち着くために。
キッチンカーの脇には、折りたたみのテーブルと椅子を出す。
販売場所が広いときのみ使用している什器だ。
女「おい……そこのお前、く、食い物はあるか」
店主「へ?」
女は西洋の鎧を纏い、剣を帯びている。
日本語を話しているようだが、
なにかの撮影中だろうか?
女「お前のその大きな箱の中から、食べ物の匂いがする。
隠すとためにならないぞ! さあ、出せ!」
女はすらりと剣を抜くと、折りたたみ椅子に座る
店主に突きつけた。
相当飢えているのか、鬼気迫るものがある。
店主「おいおい……強盗かよ。
わーったわーった。いま出してやるから座れ」
女は男を睨み付けながら剣を収めた。
しかし男の勧める椅子に腰掛ける気はなさそうだ。
☆ ☆ ☆
男はキッチンカーの中で手早く残り物のバーガーをレンチンし、
淹れ立てのコーヒーと一緒に、女に勧めた。
店主「余り物だが、それでよければ食え」
女「おお……かたじけない」
女の目が色めき立った。
次の瞬間、バーガーが半分、女の口の中に消えた。
ものの三、四口でバーガーひとつを平らげてしまう。
店主「いいから、座って食え」
女「あ、ああ」
女はようやく椅子に腰掛けた。
店主(まるでフードファイターだな)
女は五つのバーガーを平らげ、
口の周りにぐるりと舌を這わせてソースを舐め取ると、
乞うような目で男を見つめた。
女「……」
店主「足らないか」
女はこくこくと頷いた。
店主は皿を持ってキッチンカーの中へ入ると、
今度はありったけの残り物のバーガーを温めて戻って来た。
ゆうに十個はある。バーガーマウンテンだ。
女ががつがつと食らう横で、男は女に尋ねた。
店主「なあ、ここ、どこなんだ? 東京じゃなさそうだが」
女「ト……キョ? どこだそれは。
ここは、ロドス王国の北の国境付近。
ティロス地方だが……」
店主「……へ? どこそこ
日本じゃねえの?
はー……。俺、とうとうイカレちまったんか」
女「なんだと? ニポンと言ったか」
店主「知ってるのかよ、俺の国だよ。日本」
女「ああ、知っている。――異界のことだ」
店主「異界……だと???」
男は頭がくらくらしてきた。
今日も廃棄かあ……」
深夜、繁華街の路肩でぼやく、ハンバーガー移動販売の男。
年の頃は三十路前、一般的な男性よりは少々体格のいい、
コンビニ店員よりは強盗に襲われにくそうな面相だ。
すでに終電も近く、歩道を歩く人はいない。
顔見知りのホームレスに売れ残りのバーガーを10個ほど分けてやると、
店主は店じまいをして帰路についた。
☆ ☆ ☆
店主「自信作なのに。食えば旨さが分かるのに……」
恨めしそうにぼやく店主。
あまりの悔しさのためか、道を間違えたらしい。
いつしか周囲は霧がたちこめ、対向車すら見えない。
店主「あんれ……おかしいな。ここどこだ?」
霧を抜け、気付くとまるで知らない場所にいた。
実際に走った時間は小一時間程度である。
都心から行ける距離に、こんな場所はない。
――未舗装の道と、広大な原っぱ。遠景に山が連なる。
――深夜のはずが、なぜか早朝か夕方だった。空が赤い。
店主「あんまり売れなくて、とうとうおかしくなったか俺」
男は車を停めて、珈琲を淹れ始めた。落ち着くために。
キッチンカーの脇には、折りたたみのテーブルと椅子を出す。
販売場所が広いときのみ使用している什器だ。
女「おい……そこのお前、く、食い物はあるか」
店主「へ?」
女は西洋の鎧を纏い、剣を帯びている。
日本語を話しているようだが、
なにかの撮影中だろうか?
女「お前のその大きな箱の中から、食べ物の匂いがする。
隠すとためにならないぞ! さあ、出せ!」
女はすらりと剣を抜くと、折りたたみ椅子に座る
店主に突きつけた。
相当飢えているのか、鬼気迫るものがある。
店主「おいおい……強盗かよ。
わーったわーった。いま出してやるから座れ」
女は男を睨み付けながら剣を収めた。
しかし男の勧める椅子に腰掛ける気はなさそうだ。
☆ ☆ ☆
男はキッチンカーの中で手早く残り物のバーガーをレンチンし、
淹れ立てのコーヒーと一緒に、女に勧めた。
店主「余り物だが、それでよければ食え」
女「おお……かたじけない」
女の目が色めき立った。
次の瞬間、バーガーが半分、女の口の中に消えた。
ものの三、四口でバーガーひとつを平らげてしまう。
店主「いいから、座って食え」
女「あ、ああ」
女はようやく椅子に腰掛けた。
店主(まるでフードファイターだな)
女は五つのバーガーを平らげ、
口の周りにぐるりと舌を這わせてソースを舐め取ると、
乞うような目で男を見つめた。
女「……」
店主「足らないか」
女はこくこくと頷いた。
店主は皿を持ってキッチンカーの中へ入ると、
今度はありったけの残り物のバーガーを温めて戻って来た。
ゆうに十個はある。バーガーマウンテンだ。
女ががつがつと食らう横で、男は女に尋ねた。
店主「なあ、ここ、どこなんだ? 東京じゃなさそうだが」
女「ト……キョ? どこだそれは。
ここは、ロドス王国の北の国境付近。
ティロス地方だが……」
店主「……へ? どこそこ
日本じゃねえの?
はー……。俺、とうとうイカレちまったんか」
女「なんだと? ニポンと言ったか」
店主「知ってるのかよ、俺の国だよ。日本」
女「ああ、知っている。――異界のことだ」
店主「異界……だと???」
男は頭がくらくらしてきた。
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