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第4章 魔族の住む世界

閑話:ある手記

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私はしがない魔法研究者である。

私は後世に伝えねばならぬことがある。

故に急ぎ、これを記す。

数ヵ月前、厄災が世界を襲った。

これを読む諸君からすれば、100年、あるいは1000年前のことかもしれないが。

厄災とはすなわち、黒い波である。

そして厄災を起こした人物は現在、魔王と名乗っている。

魔王は厄災で世界の人々の約8割を殺した。

動物も多く死んだ。

精霊やドラゴンなどは根絶やしになった。

美しかった空は赤く濁り、海は姿を消した。

このような恐るべき虐殺を行った後。

つまり今、魔王は生き残りを集めて国をつくりだしている。

奴が何をするつもりかはわからない。

しかし良からぬことを考えているのは確かだ。

その証拠に、奴は生き残りの人々を洗脳し、従順な駒として扱っている。

厄災以降しばらく1人で隠れていたからか、幸い私は何ともない。

だがそのせいで、魔王のさらなる凶行を止めることができなかったのは悔やまれる。

さらなる凶行、それはあらゆる書物の焼却だ。

奴は洗脳を施した民に、己のしたことを万に一つも暴かれたくないのだろう。

元より厄災のせいで図書館も何もかもめちゃくちゃではあったのだが、魔王はそれに追い打ちをかけた。

おそらく、残る書物は私が密かに隠していたほんの数十冊のみ。

私はこれらを何としてでも守り抜き、人々の目を覚まさせ、魔王を打倒しなくてはならない。

諸君に伝えるべき事実は以上である。

拙く、取り留めのない文章ですまない。

しかし繰り返すが、これからいかなる隠蔽が為されようとも、これらは揺るがぬ事実である。

これから私は、魔王に対抗する組織をつくろうと思う。

私同様、洗脳を免れた者がどこかにいるはず。

彼らを集めて協力を仰ぐのだ。

魔王のしたことを忘れないように。

そして何年かかろうと、魔王を打ち倒し、真の平和を手に入れるために。

私は魔王と戦うことを、ここに誓おう。
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