あいつが俺の番なわけない

嵯乃恭介

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第十五話 番が居ない場合

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あちこち回って満足した番である四人を見ながら武は、半分羨ましかった。武は数値が高いだけで施設に入ったわけではない。「番が居ない」のだ。それは陣も知っている事だが、Ωであり番が居ない・・・いや実際は居たのだが、もぉ居ないのだ。夕焼けが真っ赤に染まり、今日を振り返ると怒ってる誠也や、隆、それを見て楽しむ洋介と圭太だったが、自分の番がいたら関係はどうなってたのだろうか?と思いながら頸の後ろを隠したところに触れる。
 武は一度噛まれているが、かと言ってフェロモンの数値が下がるわけではないの施設に入ったわけだ。


加納も武の様子がおかしいと見ていたが、身辺調査では何もなかったはずだが、武のところだけ不明になっていた。陣に聞いてみるのもありだが本人が言うまで待つのもありかもしれない。
 
 「今日はみんな楽しんだようだねー」

 「楽しんでねー!!」「たのしんでないわー!!」

二人の声が重なったが結構楽しんでいるように見えたのは気のせいだろうか?圭太も洋介も分かっていたようで嬉しそうに笑っている。けれど武は笑いながら頷いていた。まるで親のようにも思える。

 「お前は加納さんと手をつないだろしてたろー!!」

 「痛い痛い。あははバレてたかー」

 「何気にチャッカリ良いとこ取りやな!食らえ!」

 「へぶ!」

誠也の軽いパンチが武の腹に当たるが、痛くないので笑いながら受け止めている誠也とは施設に入った頃からの馴染みなので、お互いに判り切っているのだ。それでも番に関しては羨ましいとも思う。
 
 「皆さん、薬は飲みましたか?帰ったら点滴の準備も出来てます」

 「そういや三人とも、どこに住んでるんだ?」

 「僕たちは、施設が用意した家だよ。シェアハウスってやつかな?洋介君は?」

 「俺は無理矢理に、こっちに引っ越ししてきたんや。安いアパートで暮らしとる」

この辺に安いアパートなんて、あっただろうか?一軒だけあったのを思い出す。

 「それって、二階建てで六畳の?」

 「なんや知ってるやないか」

 「・・・・そっか」

思いだしたのは、事故物件の一つで暮らしてる住民がいきなり発狂したり、奇声を上げて奇妙な行動をとるような事になっている。洋介はならないだろうと祈るしかない。



家路につくと、加納は陣の元に向かった。もちろん家に帰って隆の点滴をつけてからなので、少しだけ遅くなってしまったが、圭太も同じく寝ていたのか、半裸の陣が出てきたがドキッともしない。家に入って陣の体には歯型やひっかき傷があることに気づいた。
 コーヒーと紅茶を入れてソファーに座り真剣な顔をしている辺り質問の中身を知っているようだ。だがあえて聞こうと思った加納は紅茶を一口飲み、カップを机に戻すと

 「えっと、西塔武君の話になるのですが・・・」

 「番は誰か?って話ですか・・・?正直に言うなら、彼の番は居ない・・・いや居なくなった」

ドキリと心臓が跳ね上がった気がする。ほんの数日の間だが見てきた武の笑顔は偽物だったと思うと寂しさを感じてしまう。だが、何故いなくなったのかとも思ってしまう。

 「亡くなった。今日出かけた四人の番を見てただろうが、辛かったと思う。武は望んで頸を噛んでもらった、相手も武を受け入れていたんだ。だが、逆に武を守るために死んだ。フェロモンが強すぎた武を守るために、数人のαに殴られ蹴られ・・・武の目の前で最後まで抵抗したが、目の前で武が犯されるのを見ながら死んでいった」

 「そんな・・・」

 「カウンセリングも含めてフェロモンと都合のいい話だが、施設で預かってたんだ。」

実情を聞くと武が無理矢理笑っている意味が判ってしまうと、番の意味を聞いていた意味が判った。自分と同じなのだと思ったからだ。勢いよく出て行く彼女を陣は追いかけることはなかった。

 「番をなくした・・・か・・・」
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