不死の王様は一人ぼっち

嵯乃恭介

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一章

加藤悟と言う男2

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あれから数年が経つが、私は未だに会社に勤めていた。
辞めると言った時に悟が最後まで見守ってほしいと熱弁していたのだ。
いつ彼女に別れを切り出されたら、愚痴を聞いてくれるのは、私しかいないのだと説得されてしまった。

「はじめー!!!」

いつもの時間に会社に入る前に悟が、いつものように肩を抱いてきた。
このやりとりが毎回続いている。

「はいはい、なんだなんだ?」

「真由美が結婚してくれるって!!」

真由美は本当に肝の座った女性だと思った。
普通なら考えられないが、彼女もまた特殊なのかもしれない。
まぁ惚気話くらいは聞いてやるか。

「おめでとーさん。結婚式はやるのか?」

「いや、真由美が地味婚が良いってさ。それに妊娠してるんだ」

子供が生まれるのか。
尚更、早く離れなければならないな。

「おっとー、逃がさねぇぞ?子供の成長を見守ってもらうぞー」

私の首を軽くネクタイで絞めながら、悟の目は笑っていない。
本気で思っているのだろうなぁと思いながら、私は頷くしかなかった。
だって、この会社は悟の親戚が経営している会社なのだ、退職届を出したと判れば、悟は破り捨てるように頼んでるかもしれない。
半分くらいブラックだが。

「それにお前もそろそろ身を固めたらどうだ?」

何枚か写真を見せられた。
女性の着物姿ばかりだが、なんの意味があるんだろう?

「見合いしないか!?」

「は?」

どうやら、着物の女性たちは悟の親戚の娘達らしい。
そして、私を親戚の一人にしたいらしい。
懐かれているような、監視されているような・・複雑な気持ちだが、こういう人間も良いな。

「ノータッチ」

「えー、バッサリじゃん。お前の浮いた話とか聞かねぇぞ?」

まぁ付き合ってもいいが、結婚まで考えられるのが面倒だ。
今後は、それも踏まえて女性とも交流するべきだな。

「で、真由美さん何か月だ?」

「三か月だって・・・ん?誤魔化したな?」

「さぁな」

ニヤニヤと笑いながら、会社に入っていった。
というか、Mとは交尾の時はどうなるんだと下種な考えを思ってしまったことは内緒だ。

「さぁて、今日も頑張りますかー」





夕方になるころに、フッと思った、知り合いが祝い事なら、何かしらしなければならないな。
とりあえず悟に声を掛ける。

「悟、今晩飲みに行くか?」

「え?マジで?お高いお店で奢り?」

まぁ祝い事だし、真由美にも土産が必要だろうと思ったので、タクシーで移動となった。
そうだな、たしか、妊婦に必要なものは、ストレスがかからないようにすることだったな。
となると、悟を酔わせるのはまずいか?

「確認するために真由美さんに連絡させろ」

「ういー」

悟が携帯をとり出し電話をかけると、いきなり惚気が駄々洩れだった。

「真由美ー愛してるよー!!・・・・あ、ごめんなさい。・・・え?違う違う、一が確認したいらしい」

そう言って、携帯を渡してきた。
電話に耳を当てると、しばらく聞かなかった真由美の声が聞こえてきた。

『えっと、さっきの聞いてましたか?』

「まぁね。愛されてるね。んで、確認だけど、まずは妊娠おめでとう、結婚もね」

『ありがとうございます。悟と穏便に話せたのも和田さんが居てくれたからです』

あれのどこが穏便なのかと小一時間位問い詰めたい。
まぁ本題に入ろう。

「悟には祝いってことで飲みに行くんですが、真由美さんはベビーグッズのほうが良いですかね?」

『そんな、気にしないでください』

電話越しでも判るほどの動揺だったが、私の気が済まないのだから仕方ない。

「勝手に買っちゃいますよー?なんなら男の子でも女の子でも行けるように成人式のものまで集めちゃいますよー?」

『・・・・それは怖いので本当にやめてください。それじゃぁ、一晩、悟を預かってくださいよ』

思いもよらぬ答えに、首を傾げる。
人間の夫婦は、妊娠すると愛情が深まるものではないのか?

「どうしてですか?まさか悟が何かしたんですか?」

『まぁ・・父親になるってことで、はしゃいでるのか・・・赤ちゃん言葉が・・・』

あぁ、親ばかパターンですね。

「なるほど、ストレスの対象ですね?わかりました。今晩は俺の家に泊めますよ」

『お願いします。迷惑かけます』

と言って、お互いに電話を切った。
そして悟に携帯を返した。

「お前、今晩は俺のところにお泊りな!!」

「えぇぇ!!?」
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