不死の王様は一人ぼっち

嵯乃恭介

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三章

加賀見と言う男の話5

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「参ったなぁ、私の知る限りは事故ではないと判っているんだが、この辺に違う妖魔が居るかもしれないね」

「なん!?」

「だってそうだろう?私たちは、たまたまこちらに来て、たまたま君に出会ったんだ。それに私が来たのは五年くらい前で、その時にお兄さんの名前を憶えていて、他のところでも違う名前で過ごしてきたし、こっちに戻ってきたのは去年だよ?思いついた名前もあれば、憶えてる名前を使うよ?毎回変えるのは面倒だしね。今まで会っていた人間には悪いが、偽名というやつだよ」

貰ったと聞いて加賀見は怒りの表情になったが、静かに深呼吸して座りなおした。
子供が輸血パックがなくなったと言ってきたので、予備の分を与えておいた。

「すまない、配慮が足りなかったね。では、私のことは、そうだな・・・瀬田とでも呼んでくれ」

前の名前だが、構わないだろう。
実際に知ってる者は居ない。

「妖魔なんて、名前で呼ぶか!」

「じゃぁどうとでも呼びたまえ」

子供のがじゃれてるので、相手をしながら加賀見を観察する。
戸惑った表情に、複雑な想いがあるのだうか・・・?

「ひとつ仮説を言って良いかね?」

「・・・なんだ?」

嫌々そうに応答する加賀見の反応は正しいだろう。
これだけは伝えなければならないと判断した。
陰陽師は妖魔にとって・・・

「陰陽師の力は妖魔にとって御馳走だ。君も狙われてるんじゃないか?」

「・・え?」

「君のお兄さんも血筋がそうなら、君もそうなる。気を付けたほうが良い」

人間なら多少の血肉を食らって終わらせるが、隅から隅まで食された姿の近藤亮と言う男の姿を思い出した。
骨が見えるくらいに食い散らかされた、遺体を見て思ったことがあったけれども、思い出したのがそれだ。

「ふむ、匂いが付いてきてるな」

「匂い?」

「君を追いかけてきたのか、私たちを追いかけてきたのか、妖魔にとって共食いだってありえるからね」

子供が私のもとから離れ、窓に目を向けた。
加賀見も同じように視線を向けた。
そこには、月明かりに照らされた『何か』が居た。
私は立ち上がり、その方向にゆっくり歩みだして、窓を開ける。
そこにはキャンプ場のオーナーが驚いて尻もちをついていた。

「オーナー、見張りですか?」

「いやねぇん。亮ちゃんったら、判ってるんでしょ?」

クネクネとした動きが気味が悪いが、何度か見たことがある。
この山は私が住んでいた山とは違うものが憑いていたようだ。

「亮ちゃんも仲間でしょ?一緒に加賀見ちゃん半分にして食べない?」

窓の外と中で話しているが、加賀見には聞こえてないようで、何故オーナーがここに?という顔を驚いた顔をしている。
暢気なものだな。
先ほど、注意したばかりと言うのに。

「ところで、私が何かわかりますか?」

「え?吸血鬼でしょ?」

私はニッコリ笑い、オーナーの頭を鷲掴みした。
オーナーは苦しそうに悶えるが、力加減は必要ない。
だが、それを見てしまった加賀見が、止めに入り込んできた。

「人間を殺してないんじゃないのか!!?」

ミシミシと軋む音が聞こえるくらいにオーナーの頭に力を入れる。
流石にきついのか悲鳴をあげはじめた。

「やめやがれ!下級妖魔ぁぁ!!」

聞いたことのない声に、加賀見はようやく気付いたようだ。
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