不死の王様は一人ぼっち

嵯乃恭介

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五章

記憶の断片2

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始祖である俺様は、子供の姿ではなく大人のまま生まれ落ちた血吸いの鬼。
誰もが恐れるであろう鬼として生まれた。
夜しか動けない事から、夜に食事として村の人間を食らってきた。
初めて生き血を全て奪った男を一瞥する。

まだ若い青年だったが、俺様の食事として生涯を閉じた。
はずだった。

「ん・・・?」

青年は起き上がったのだ。
俺様はおどろいちまったぜ?
だが、それ以上に青年が俺様を見て、驚いていたのだから。

「鬼!!」

チラリと見えた口の中に鋭い歯があることに気づく。
俺様は青年を捕まえると、口をこじ開けた、そこには鋭い牙があった。
男は血吸いの鬼として生まれ変わったのだ。

はて?と思った俺様は、青年に説明した。
青年は呆然としていたが、口の中にある鋭い牙を確認して絶望した。
どうやら、俺様は人間を変えることが出来るらしい。
青年がどこまで血吸いの鬼として近づいているか検証したい。

知りたかったのかもしれない。
今まで静かな夜を灯す、新しい遊びの一環として丁度いい。
俺様は青年に命じた。

「正直に答えろ。家族はいるのか?」

青年は黙り込んでいたが、言いたくない顔をしていたが、口がパクパクと動き出し、語りだした。

「両親と弟が」

どうやら俺様が命じたことを嫌でも従わないといけないという抗えぬものがあるらしい。
俺様の存在は誰もわからないようだ。
かといって、俺様もその時点では判らなかった。
腹が減ったが、浮かんだのは人間を食らう事しか思いつかなかった。
自分と同じ姿の人間の血が欲しかった。

だから食らいつき、血を吸った。
結果が目の前のいる青年だ。
どうやら俺様は血吸いの鬼の始まりのようだ。
たしか、それをなんと言っただろうか?

目の前の青年は、憎しみの目でこちらを見ている。
何も気にすることはない、たかが人間だった者だ。
俺様の命令を聞く血吸いの鬼になっただけの話だ。
そこで思ったことがある。

どこまでの命令を聞くのか・・・

俺様は青年に向かって命令を下す。

「家族を食らってこい」

青年の顔色が変わったのが判った。
だが、青年の顔色とは違って体が勝手に外に出ていこうとする。
青年は悲鳴のような声で泣きじゃくるが、体が勝手に自分の家へと走り出していた。
面白そうだと思って俺様も追いかける。

夜の村は暗く、人間なら明かりがないと迷いだろうが、俺様にとっては関係なく良く見える。
青年を追いかけていき、家らしきところに着いたが、青年は泣きじゃくりながら家に入ると、その後・・・
男女の悲鳴が聞こえ、血が飛び散る音と青年の怨念がましい声が夜中に響き渡った。

ふむ、愛しいものさえ殺せるということか。
あとは実験として、日光に当ててみよう。
元人間だ、もしかしたら日光も適応しているかもしれない。

「面白くなってきやがったな」

新しい玩具をと検証を憶えた。
ただの実験、自分がなんなのかを調べるのには丁度いい。
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