無限ではない力

嵯乃恭介

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第十三話 親子関係

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「サネヤさん・・・今までどこに?」

「ふむ、少し眠っていてな・・・それよりも従業員が増えたとは驚きだ。それほどまでに上の人間は、我々を化け物と扱いのか。嘆かわしい、昔は【神の者】として力を貸してやったというのに、まぁ私のような力は要らぬがな」

まるで自分の部屋のようにコーヒーカップや豆を用意し、勝手に動き回る人物は昔話として口にするがライルの知っている今の状況と違う、サネヤが座るころにはライルは背筋をピンと伸ばしたまま立っていた。

「そう気を張るな、昔も言っただろう?気楽な方が私も落ち着く」

「そ・・そうですか・・・」

ライルはソファーに座るが目の前にサネヤが座るだけで緊張して言葉が出ないと思われるくらい真剣な顔をしている。サネヤが一枚の写真を取り出し、ライルの前に投げると顔色が変わった。
サネヤはニヤリと笑う。

「知った顔のようだな」

知ってるも何も、今回の仕事のターゲットの男の写真だ。サネヤはコーヒーをライルの分も用意し、足を机の上に置きながら話を続ける。

「この男の事は大体調べたらしいな?だが決定打ではない、しっかりと調べてから力を使うようにと何度も言っただろう?」

「決定打ではないとは?」

サネヤはため息をつく。頭痛がするとばかりに頭を支えると一枚の紙に乱暴に書かれた文章を見せる。それを見たライルは驚きを隠せなかった。サネヤと紙を交互に見ながら写真の男を見つめる。内容は遺伝子の繋がりだった。もちろんサネヤ本人が居ないと出来ないわけだが、ターゲットの一部も入手困難のはずだ。そしてあろうことに・・・

「え??」

「そうだ、私のーーだ。それだけではない、それなりの力を持っていた。力は遺伝しないが、それが出来たのか力をもつ同士の交配だ。何があっても変な話ではないし・・・だが、私が眠っている間にーーが大きくなってから、気配がない」

「相変わらずですね・・・。サネヤさんのパートナーって、どんな人だったんですか?」

サネヤは質問され、首を傾げながらコーヒーを一口飲むと、ため息を吐いた。

「【神の子】と呼ばれていたよ。数年前のライルのように私を降参させ、力の使い方を教えてー」

「サネヤさん、それ何年前です?明らかにターゲットの年齢と合わない。それにあなたは寝ていたと言った」

「そうだ、私がこうであるようにーーも、そうなのだろう」

次はライルが頭が痛いとばかりに額に手を当てる。そこで問題なのが一つ浮かび上がる。それはカナの存在だ。記憶を戻すと言ったが、これは戻せない事になりそうだ。そして彼女の力の秘密を知った気がする。
何かを考えていると気づいたサネヤが、悪戯にライルのコーヒーに彼の苦手なミルクを足し、それに気づかずライルは一口飲み込むと盛大に噴出した。

「げほ!!げほ!!サ・・サネヤさん!!?」

「あーっはっは。相変わらず体に合わぬか」

悪戯に成功した子供のように無邪気に笑うサネヤは、見た目通りの年相応の反応を示すが、ライルが出会った頃は違った。それでもサネヤと分かったのは服装だった。ワンピースをズボンに入れた状態が変わらないのだ。最後にあった時も、その姿だったのもあるが、まさか寝起きで外に歩き出しているとは思わなかった。

「しかし、サネヤさん・・俺のアレルギー知ってるでしょ?最悪死にますよ?」

「ふん、私がそんなヘマするか。そうだ・・・多種な力を持つ者がいるはずだ」

その言葉だけでライルの表情は固まる。そしてサネヤも真剣なまなざしでライルの様子を伺っている。しかしライルの幼き頃を知っているサネヤに隠し事が出来るわけもなく、呆気なく見抜かれてしまった。

「そうか、居るのか、そうかそうか」

納得してコーヒーを飲み干し、ソファーに転がると、段々とライルの様子がおかしくなっていく、サネヤが寝ころんでいるだけなのだが、何かの圧迫感、緊張感がビリビリと伝わってくる。多種の力を持つ者、それは一人だけ心当たりがある。しかし、サネヤとの関係が判らない以上、探りを入れたところで殺されるかもしれないと感じ取る。
記憶を取り戻した彼女の反応も困るが、サネヤとの関係も気になる、天秤にかけるとしたら両方とも平行線になる。

「ライル・・・、もしや記憶を探って消したか?」

図星・・・この人相手では隠し事は出来ない。

「はい、とても危険だと感じ保護した時に・・・」

「ふむ、それならば記憶を思い出させろ、成長しているのだろう?対価はわからんが・・・知ってる限りを話せ」

サネヤに言われるがままに、彼女の特徴、力、対価を語り未だに未知の力を持ち、対価が何なのかを知らないと話すと、サネヤはソファーから起き上がり、背伸びをして部屋を出て行った。何も言わずに。
一気に緊張感が抜け、ライルはゆっくりと深呼吸する、あの人が聞き出したいことは喋った。それはカナにとっては辛いことかもしれないが、明日にでも記憶を戻していくしかないし、あの人が言うように記憶を返すべきだと判断した。


サネヤは屋根の上で空を見上げる。満月ではないが、三日月が綺麗に輝いていた。
ライルの話に出た少女の事は、もしかしたら・・・

「ふむ、興味深い・・・もしかしたら・・・ふふふ」

そう言って、サネヤは仮眠のように瞼を閉じた。

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