4 / 33
青春
兆し
しおりを挟む
この日の全ての授業が終わった。私は荷物をまとめてから、更衣室へと急ぐ。息を切らして部屋の中へと入りジャージへと着替えて、また外に出た。体育館へと向かう。体育館にたどり着くまで時間はかかったが到着すると、そこに部員は真希ちゃん一人しかいなかった。
「真希ちゃん、今日の練習は?」
「あ、今日は先生が体調悪くてお休みみたいだよ。他に見てくれる先生が誰もいなかったらしいね」
「わかった。ありがとう」
「いえいえ」
「ところで、真希ちゃんはどうしてここにいるの?」
「それは、みんな休みだって知らないだろうからここに来たみんなに休みだって伝えるためだよ」
「ありがとう! とても助かる」
「どうってことないよ。ただ、ここに居たいだけってのもあるし」
それから少しの間、真希ちゃんと他愛もないやりとりをする。私と真希ちゃんが揃って好きな流行りのアイドルや役者のこと、私が遅刻をした今日の出来事、彼女が次の土曜に少し遠くのテーマパークに出かけるということ。相槌を打ったり、打たれたり。一通り話したところで私はその場を離れることにした。
「じゃあ、今日は家に帰るね」
「わかった。気をつけてね」
「うん。じゃあね!」
「また明日」
私は彼女と別れて、体育館の全体を一瞥した。周りには私たち以外の部活が活動をしている。シュートの練習をする男子バスケ部の部員たち、掛け声を出しながらトスの練習をするバレー部、窓の外からはグラウンドでサッカー部や野球部が頑張っている。ここの体育館は広いはずなのだが、部活動のために多くの人や物が密集しているせいで、この時は狭く感じた。
「広いはずなのにな」
呟いて、私は体育館の外に出た。しばらく廊下を歩いていると、校内のいろいろな物が目についた。廊下の壁に貼られた何かの啓発ポスター。教室前の壁にあるいろいろな大学の偏差値表。教室の立て札。広場に置かれている少し大きいクリスマスツリー。
私はふと呟いてみる。
「もうすぐ、クリスマスか」
そのクリスマスツリーは頂点に大きな星飾り、全体に巻き付けられた電飾、メタリックカラーのボール、ツリーのサイズに対して少し大きいベルが取り付けられている。私はなんとなくツリーを眺めて、もうすぐ、冬休みに入って高校一年のこの年が終わるのだということを実感する。それが過ぎれば次の年が始まり、休みが明け、三年生たちはいよいよ受験本番で、二年生はいよいよ受験の準備を始める。来年、二年生になった私たちはみんな揃って修学旅行へと出かけて思い出を作り、受験に向けて動き始める。再来年、三年生になった私たちはそれぞれの進路に向けて受験をする。
それが私のこれからであり、みんなの当たり前だと思っていた。それが、私たちが手にしている唯一の未来であり、価値観でもあった。この未来であり、価値観は決して崩れることのない絶対的な物だと考えていたし、ましてや、それを覆すことは誰にもできないのだと思っていた。だが、私が抱いていたその考えはこの日、この時間、この場所から次第に崩れて行くことになる。
掲示物を眺めて歩いていると、私の正面に一人の女子が立っていることに気がついた。制服をきっちりと着ていて、スカートの丈はは膝下まである。髪はボサッとしていたが、なかなかに華奢で整った体型だったので思わず目を向けた。靴を見ると、私たちの学年が履く靴だったので、同級生だということを理解した。彼女はどこか不思議な雰囲気を全身に纏っていた。それで、私は彼女がクラスメイトの倉持咲であることに気がついた。彼女の雰囲気を感じて私は一瞬、どうして良いかがわからなくなった。動きを止める。すると、彼女の方から私に近づいてきた。顔をまじまじと見つめると化粧っ気は無かったが顔もなかなかに良かった。おそらく、身嗜みを整えれば、モデルの様な美しい人なのだろうとこの時の私は思った。空な目と私の目が合う。彼女は私の顔をじっくりと見つめてから何かに怯えるように、私の何かを見抜いたかのように小さく言葉を放った。
「……友達になってくれる?」
私はこの言葉を聞いて、どういうことか、頭の中にある言葉たちが一斉に消え去った。私はその一言がすぐには受け止められず、どう返したら良いのか分からなかった。廊下を歩いている途中で見えた時計が示していた時刻は午後の四時半。冬の夕暮れが私たちの顔に差し込む。まるで、何か見てはいけないものを見てしまったかのような気持ちになった。しばらく答えらずにいると彼女はまた小さな声で、
「どうしたの? 聞こえなかった?」
と言った。私はやっとのことで、頭の中で消え去った言葉たちを見つけ出す。
「い、いや、そんなことない、けど……」
私は自分で何を言っているのかがうまく掴めなかった。彼女は空な目で今度は私の全身を見つめた。
「あなた、バスケ部?」
「そう、だけど」
「バスケ部に石崎友美っているでしょ。私、彼女と昔からの付き合いなんだ」
「へえ…… 、そうなんだ」
彼女がなぜ、友美の名前を出したのかがこの時の私にはわからなかった。この時の私はとても混乱していた。それは、もしかすると直感的に彼女の身に何かがあることに気づいたけらなのかもしれない。それは、今となっては確かめようもないのだが。
彼女は、小さな声で話を続けた。
「ねえ、ところであなたの名前は?」
「え、ええと、佐野由香里」
「そう。私は倉持咲。よろしく」
「よろしくって、言われても、私、あなたと同じクラスのはずだけど」
「あ、そっか。同じクラスの佐野さんだとは気づかなったよ。ごめんごめん」
私は咄嗟に友美が言っていた、倉持咲には気をつけた方がいいという言葉を思い出した。でも、なぜ友美はそう言ったのかの理由はわからなかったが、私の心に警戒の念が生まれた。だが、彼女はそれを見破るかのように口を開いた。
「ねえ、あなた今、私のことを警戒しているでしょ」
「そんなことないよ……」
「嘘。顔にもろその表情が出ている」
私の頭の中はどんどんぐちゃぐちゃになってきた。ぐちゃとして、一体何のためにこんな会話をしているのだろうかと思えてきた。彼女はそんな私の事などお構いなしに言葉を続ける。
「どうせ、友美に私のことは気をつけた方がいいとでも言われたのでしょ。わかるよ。そんなことくらい」
「どうして、そんなこと言うの?」
「だって、彼女は私を妬んでいるから」
私はそれを平然と言いのけた彼女が恐ろしいと思った。
「なんか、私のことが理解できない見たいね」
彼女のこの言葉を聞いて、私は思わず、
「ええ、怖いよ。あなたの考えていることが」
と返した。これは紛れもなく本音だった。
「そう。分かった。それならば、ごめんね」
彼女はあっさりと謝った。私はますます気持ちが混乱した。
「あのさ、友達になってくれるってどういうこと?」
彼女は少しだけ考えるような仕草をしてからこう答えた。
「私には友達がいない。だから友達が欲しくなったの。それだけ」
「それだけって……」
「そういえば、友美が毎年クリスマスにパーティーをしているのだけど、今年はあなたも来る?」
友美がクリスマスパーティーを毎年開いていたというのは初めて聞いた。なぜ、彼女がパーティーを知っていたのかは、‘昔からの付き合い‘だからなのだろうか。私はまたしても何も言い切れなくなってしまう。
「行くって言っても、まだ誘われていないから何とも言えないよ」
「そうなのね」
この時、彼女が私の言葉を聞いてさらに弱々しい声になったような気がした。どうしてそうなったのか、私はこの時、計りかねたのだけど、後になって思えば、これは彼女なりの救難信号だったのかもしれない。
少しの間、私たちに静寂が訪れた。お互いにどうすることもできずにただ、時計の針だけが進んでいく。次第に彼女が近くの壁に掛けられている時計に目を向けた。それにつられて私も時計の方を見た。時刻は出会してからおおよそ十五分以上が過ぎていることを示していた。もうすぐで夕方の五時となる。
「じゃあ、今日は帰るね。私の友達になって欲しいこと、忘れないでね」
「う、うん」
「じゃあね」
彼女は踵を返して、歩いて行った。私は彼女の「じゃあね」の言葉に返事をすることができなかった。突然訪れた嵐は突然に、静かに去っていった。私はしばらくそこで一人立ち尽くした。この嵐が去った時、私にはそうすることしかできなかった。この瞬間から心の中の何かが崩れ始める音が少しずつ、少しずつ響き始めた。ようやく動けるようになった頃にはもう日が暮れて、窓の外から見える街灯の光が道を照らし始めていた。私は家に帰らなくてはいけないことをこのタイミングで思い出す。駐輪場に向かって歩き始める。
暗い暗い廊下を進むと、再び広場に出た。そこには電飾が綺麗に点灯したクリスマスツリーがあった。この時の私にはなんて場違いな物なのだろうかと思えた。そう思えたが、綺麗に光っているものだから、心が少しだけ元気になれた気がした。駐輪場に出た私は自転車に乗った。
街灯に照らされた薄暗い道を一人で進んでいく。他のみんなはまだ部活を続けている。一人の帰り道で考えた。倉持咲は何をしたいのだろうか? どうして、友美は彼女を遠ざけているのか? 考えてはみようと思ったが、この日はどうしても結論は出そうになかった。途中で考えるのを止めて無心になって家路を走った。普段見る景色が暗く澱んで見えたような気がした。
自転車を止めて、鍵をかける。階段を上がって家の玄関に着くと丁度お母さんも階段を上がってきた。
「あら、おかえり。早かったね」
「ただいま。今日は部活が無かったから」
「あらそう。じゃあ、さっきお菓子を買ってきたから食べない?」
「食べる、食べる」
私は玄関の鍵を開けた。お母さんを先に通してから中に入った。家の中はとても暗かった。お母さんがすぐに明かりをつけたから、一瞬で暗闇は消えたが、この日の私にはどうしても、印象に残った。それから、私はこの日々に少しだけ亀裂が走ったことに気がついた。この亀裂は塞げるのだろうかと考えていると、母は私の中の少しの亀裂に気づいていたのか、わからないが、こう言った。
「何かあったでしょ?」
「え?」
「何かあったんでしょ? 学校で」
「真希ちゃん、今日の練習は?」
「あ、今日は先生が体調悪くてお休みみたいだよ。他に見てくれる先生が誰もいなかったらしいね」
「わかった。ありがとう」
「いえいえ」
「ところで、真希ちゃんはどうしてここにいるの?」
「それは、みんな休みだって知らないだろうからここに来たみんなに休みだって伝えるためだよ」
「ありがとう! とても助かる」
「どうってことないよ。ただ、ここに居たいだけってのもあるし」
それから少しの間、真希ちゃんと他愛もないやりとりをする。私と真希ちゃんが揃って好きな流行りのアイドルや役者のこと、私が遅刻をした今日の出来事、彼女が次の土曜に少し遠くのテーマパークに出かけるということ。相槌を打ったり、打たれたり。一通り話したところで私はその場を離れることにした。
「じゃあ、今日は家に帰るね」
「わかった。気をつけてね」
「うん。じゃあね!」
「また明日」
私は彼女と別れて、体育館の全体を一瞥した。周りには私たち以外の部活が活動をしている。シュートの練習をする男子バスケ部の部員たち、掛け声を出しながらトスの練習をするバレー部、窓の外からはグラウンドでサッカー部や野球部が頑張っている。ここの体育館は広いはずなのだが、部活動のために多くの人や物が密集しているせいで、この時は狭く感じた。
「広いはずなのにな」
呟いて、私は体育館の外に出た。しばらく廊下を歩いていると、校内のいろいろな物が目についた。廊下の壁に貼られた何かの啓発ポスター。教室前の壁にあるいろいろな大学の偏差値表。教室の立て札。広場に置かれている少し大きいクリスマスツリー。
私はふと呟いてみる。
「もうすぐ、クリスマスか」
そのクリスマスツリーは頂点に大きな星飾り、全体に巻き付けられた電飾、メタリックカラーのボール、ツリーのサイズに対して少し大きいベルが取り付けられている。私はなんとなくツリーを眺めて、もうすぐ、冬休みに入って高校一年のこの年が終わるのだということを実感する。それが過ぎれば次の年が始まり、休みが明け、三年生たちはいよいよ受験本番で、二年生はいよいよ受験の準備を始める。来年、二年生になった私たちはみんな揃って修学旅行へと出かけて思い出を作り、受験に向けて動き始める。再来年、三年生になった私たちはそれぞれの進路に向けて受験をする。
それが私のこれからであり、みんなの当たり前だと思っていた。それが、私たちが手にしている唯一の未来であり、価値観でもあった。この未来であり、価値観は決して崩れることのない絶対的な物だと考えていたし、ましてや、それを覆すことは誰にもできないのだと思っていた。だが、私が抱いていたその考えはこの日、この時間、この場所から次第に崩れて行くことになる。
掲示物を眺めて歩いていると、私の正面に一人の女子が立っていることに気がついた。制服をきっちりと着ていて、スカートの丈はは膝下まである。髪はボサッとしていたが、なかなかに華奢で整った体型だったので思わず目を向けた。靴を見ると、私たちの学年が履く靴だったので、同級生だということを理解した。彼女はどこか不思議な雰囲気を全身に纏っていた。それで、私は彼女がクラスメイトの倉持咲であることに気がついた。彼女の雰囲気を感じて私は一瞬、どうして良いかがわからなくなった。動きを止める。すると、彼女の方から私に近づいてきた。顔をまじまじと見つめると化粧っ気は無かったが顔もなかなかに良かった。おそらく、身嗜みを整えれば、モデルの様な美しい人なのだろうとこの時の私は思った。空な目と私の目が合う。彼女は私の顔をじっくりと見つめてから何かに怯えるように、私の何かを見抜いたかのように小さく言葉を放った。
「……友達になってくれる?」
私はこの言葉を聞いて、どういうことか、頭の中にある言葉たちが一斉に消え去った。私はその一言がすぐには受け止められず、どう返したら良いのか分からなかった。廊下を歩いている途中で見えた時計が示していた時刻は午後の四時半。冬の夕暮れが私たちの顔に差し込む。まるで、何か見てはいけないものを見てしまったかのような気持ちになった。しばらく答えらずにいると彼女はまた小さな声で、
「どうしたの? 聞こえなかった?」
と言った。私はやっとのことで、頭の中で消え去った言葉たちを見つけ出す。
「い、いや、そんなことない、けど……」
私は自分で何を言っているのかがうまく掴めなかった。彼女は空な目で今度は私の全身を見つめた。
「あなた、バスケ部?」
「そう、だけど」
「バスケ部に石崎友美っているでしょ。私、彼女と昔からの付き合いなんだ」
「へえ…… 、そうなんだ」
彼女がなぜ、友美の名前を出したのかがこの時の私にはわからなかった。この時の私はとても混乱していた。それは、もしかすると直感的に彼女の身に何かがあることに気づいたけらなのかもしれない。それは、今となっては確かめようもないのだが。
彼女は、小さな声で話を続けた。
「ねえ、ところであなたの名前は?」
「え、ええと、佐野由香里」
「そう。私は倉持咲。よろしく」
「よろしくって、言われても、私、あなたと同じクラスのはずだけど」
「あ、そっか。同じクラスの佐野さんだとは気づかなったよ。ごめんごめん」
私は咄嗟に友美が言っていた、倉持咲には気をつけた方がいいという言葉を思い出した。でも、なぜ友美はそう言ったのかの理由はわからなかったが、私の心に警戒の念が生まれた。だが、彼女はそれを見破るかのように口を開いた。
「ねえ、あなた今、私のことを警戒しているでしょ」
「そんなことないよ……」
「嘘。顔にもろその表情が出ている」
私の頭の中はどんどんぐちゃぐちゃになってきた。ぐちゃとして、一体何のためにこんな会話をしているのだろうかと思えてきた。彼女はそんな私の事などお構いなしに言葉を続ける。
「どうせ、友美に私のことは気をつけた方がいいとでも言われたのでしょ。わかるよ。そんなことくらい」
「どうして、そんなこと言うの?」
「だって、彼女は私を妬んでいるから」
私はそれを平然と言いのけた彼女が恐ろしいと思った。
「なんか、私のことが理解できない見たいね」
彼女のこの言葉を聞いて、私は思わず、
「ええ、怖いよ。あなたの考えていることが」
と返した。これは紛れもなく本音だった。
「そう。分かった。それならば、ごめんね」
彼女はあっさりと謝った。私はますます気持ちが混乱した。
「あのさ、友達になってくれるってどういうこと?」
彼女は少しだけ考えるような仕草をしてからこう答えた。
「私には友達がいない。だから友達が欲しくなったの。それだけ」
「それだけって……」
「そういえば、友美が毎年クリスマスにパーティーをしているのだけど、今年はあなたも来る?」
友美がクリスマスパーティーを毎年開いていたというのは初めて聞いた。なぜ、彼女がパーティーを知っていたのかは、‘昔からの付き合い‘だからなのだろうか。私はまたしても何も言い切れなくなってしまう。
「行くって言っても、まだ誘われていないから何とも言えないよ」
「そうなのね」
この時、彼女が私の言葉を聞いてさらに弱々しい声になったような気がした。どうしてそうなったのか、私はこの時、計りかねたのだけど、後になって思えば、これは彼女なりの救難信号だったのかもしれない。
少しの間、私たちに静寂が訪れた。お互いにどうすることもできずにただ、時計の針だけが進んでいく。次第に彼女が近くの壁に掛けられている時計に目を向けた。それにつられて私も時計の方を見た。時刻は出会してからおおよそ十五分以上が過ぎていることを示していた。もうすぐで夕方の五時となる。
「じゃあ、今日は帰るね。私の友達になって欲しいこと、忘れないでね」
「う、うん」
「じゃあね」
彼女は踵を返して、歩いて行った。私は彼女の「じゃあね」の言葉に返事をすることができなかった。突然訪れた嵐は突然に、静かに去っていった。私はしばらくそこで一人立ち尽くした。この嵐が去った時、私にはそうすることしかできなかった。この瞬間から心の中の何かが崩れ始める音が少しずつ、少しずつ響き始めた。ようやく動けるようになった頃にはもう日が暮れて、窓の外から見える街灯の光が道を照らし始めていた。私は家に帰らなくてはいけないことをこのタイミングで思い出す。駐輪場に向かって歩き始める。
暗い暗い廊下を進むと、再び広場に出た。そこには電飾が綺麗に点灯したクリスマスツリーがあった。この時の私にはなんて場違いな物なのだろうかと思えた。そう思えたが、綺麗に光っているものだから、心が少しだけ元気になれた気がした。駐輪場に出た私は自転車に乗った。
街灯に照らされた薄暗い道を一人で進んでいく。他のみんなはまだ部活を続けている。一人の帰り道で考えた。倉持咲は何をしたいのだろうか? どうして、友美は彼女を遠ざけているのか? 考えてはみようと思ったが、この日はどうしても結論は出そうになかった。途中で考えるのを止めて無心になって家路を走った。普段見る景色が暗く澱んで見えたような気がした。
自転車を止めて、鍵をかける。階段を上がって家の玄関に着くと丁度お母さんも階段を上がってきた。
「あら、おかえり。早かったね」
「ただいま。今日は部活が無かったから」
「あらそう。じゃあ、さっきお菓子を買ってきたから食べない?」
「食べる、食べる」
私は玄関の鍵を開けた。お母さんを先に通してから中に入った。家の中はとても暗かった。お母さんがすぐに明かりをつけたから、一瞬で暗闇は消えたが、この日の私にはどうしても、印象に残った。それから、私はこの日々に少しだけ亀裂が走ったことに気がついた。この亀裂は塞げるのだろうかと考えていると、母は私の中の少しの亀裂に気づいていたのか、わからないが、こう言った。
「何かあったでしょ?」
「え?」
「何かあったんでしょ? 学校で」
0
あなたにおすすめの小説
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる