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ナイフ
旅立ち
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「ねえ、何があったの?」
私は咲の姿を見て、思わず聞いた。彼女はただただ泣き続けていて、答えられそうな状況になかった。それでも、咲は必死で何かを伝えようとしていた。
「私ね、とも、みを……」
「友美をどうしたの?」
彼女は泣きながら元来た道を引き返しはじめた。私は彼女の後をついて行った。
歩き続けること数分。人気の無いところで咲は立ち止まって、膝から崩れ落ちた。
「あああ!」
彼女は悲鳴に近い泣き声を出した。
「ねえ、何があったの?」
私の問いかけに彼女は答えることができなかった。その代わりに彼女は向こうのほうを指差した。その方向には少し広い空き地があって、この時は真っ暗だった。目を向けると何も無いじゃないかと私は思った。だが、違和感があった。地面に寝ている人のようなものが見えた。
私は嫌な予感がした。明かりを向けるのが怖かった。このまま、なんだ人が寝ているだけじゃないと言って、彼女と家に帰るべきだった。あるいは昼間の吉原刑事は怖いが覚悟して警察を呼ぶべきだった。だが、私はそれをせずに自転車のライトを向けてしまった。
そこにあったのは、もう二度と動くことのない友美の亡骸だった。
眩暈がした。この後十分間くらいのことを私はあまり覚えていない。意識が明確になった時には私は咲と抱き合って一緒に泣いていた。泣いた。泣きあった。泣き喚いた。人として正しい反応が起こった。私たちは二度と立ち戻ることのできない時点まで来てしまった。
友美が死んだ。私は咲が言いたかったことと友美が何をしたかったのかを悟った。友美は咲を殺そうとした。だから彼女を襲ったが、最後は咲の方が友美を殺してしまった。咲が握っていたナイフはおそらく、友美のことを刺した物だろう。
私たちはどうすることもできずに友美の前で座り込んだ。これから私たちはどうなってしまうのだろうか。私が黙り込んでいると咲は夜空の方を見上げた。私もそれにつられて見上げると星がそれなりに見えていた。咲は見上げながらようやく声をあげた。
「私、もうだめみたい」
「えっ?」
「孔雀座が見たくなっちゃった」
突飛な言葉だった。私はその言葉の意味を理解しきれずにいると彼女は覚悟を決めた目を私に向けた。
「ねえ、私と来て。私のサイゴの旅に付き合ってほしいの」
咲は私の方にナイフを突きつけた。だが、不思議と怖くはなかった。私は彼女がそこまで言うのならどこまでもついて行くしかないと思った。
「わかった」
咲はナイフを仕舞って歩きはじめた。私もその後を追いかけた。
じきに友美の亡骸は見つかってしまうだろうと思った。その時は警察が咲のことを全力で探し始めるとわかっていた。私たちに残された時間は少なかった。
「どこまで行くの?」
私は咲に聞いてみた。
「九州の端の方まで。そこなら孔雀座が少しだけ見れるらしいの」
「どうやって九州まで行くの?」
「お金的に電車で移動するしかないかなと思ってる」
「そうだね」
近畿地方にあるこの街から九州の端の方までは時間がかかる。私は長い旅なることを理解した。
私は頷いて、それから彼女の身なりを見た。彼女の服が傷だらけで彼女自身も怪我をしていることを改めて理解した。
「ねえ、まずは身なりを整えようよ」
「どうして?」
「怪我もしてるし、服もぼろぼろだし」
「じゃあ、服を買おう」
そこで私たちはひとまず開いている服屋を探した。幸い、まだ開いていた服屋があったので私たちはそこで服を買った。路地裏で私たちは服を着替えた。なるべく目立たない服装に着替え、咲の傷の手当てを済ませると私たちは最寄りの駅まで向かった。その道中でさっきまで着ていた服はゴミ箱に捨てておいた。移動しているとパトカーが何台も走っていることに気づいた。私たちは顔が見えないようにしながら道を進んだ。暗い夜道が延々と続いていた。
最寄りの駅にたどり着いた私たちは九州まで行ける道のりをスマホで調べた。調べ終えた私たちは電車のチケットを買ってスマホを捨てることにした。私たちの状況を誰にも知られないために。近くにあったゴミ箱にスマホを捨てた。ここから先はもう引き返すことのできない道のりだと覚悟した。
電車に乗り込んで出発を待っていると左隣に座っていた咲が私の左手を握りしめた。彼女の手は震えていた。
「怖いの?」
「……本当はね。でも、もう私たちにはこれしかないから」
「……そうだね」
私は彼女の手に右手を重ねた。直後、発車メロディーが鳴った。合図だ。電車の扉が閉まり動き出した。もう戻れない。そう思った。
電車は進んでいった。途中で何度か乗り換えながら目的地を目指した。移動中、咲は眠っていた。とても深く寝ていたようで、乗り換える時に起こすのが大変だった。
気がつけば、この旅を楽しんでいる自分がいた。友美が死んでしまったというのに。もしかすると私は心のどこかでこうなることを望んでいたのかもしれない。日々の何もかもを捨て去って旅に出ることを。
やがて、終電の時間になった。行けるところまで行ったがこの日は足止めとなってしまった。私たちはまともな場所に泊まれるような状況ではなかった。仕方ないので、駅の近くにあったベンチで仮眠をとることにした。冬の夜はとても寒かった。布団はないので私たちは寄り添いあった。咲の温度が伝わってきた。咲と私はこの先どうなってしまうのだろうかと思った。だが、それがどうしたと心の中で叫んでいる自分もいた。私は彼女とならどうなってしまってもいいと考えていた。次第に眠くなって私は目を閉じた。
やがて朝が来た。近くの時計を見ると時刻は朝の五時くらいだった。もうすぐ始発電車が駅に着こうとしていた。私は咲を起こした。彼女は眠たそうにしながらも歩きはじめた。私たちの長い一日の始まりだった。
始発電車に乗った私たちはしばらく無言だった。ただ車窓から朝焼けの風景を眺めていた。しばらくして彼女が私の方を向いた。
「ねえ、死んだら私たちはこんな世界に行けるのかな?」
彼女は車窓から見える田園風景を指差した。朝焼けでとても綺麗な場所だった。
「どうだろうね」
私は少し笑って答えた。私には想像がつかなかった。死後の世界がどんな場所なのか。
「どういう場所なのかわからないけどさ、綺麗な場所だと良いなって思うよ」
私は思ったことをそのまま答えた。いつか私が死んだ時、そこで待っているのは天国なのか地獄なのかはわからない。けど、綺麗な世界であることを願った。咲は私の答えを聞いてどう思ったのだろうか。本当のところはわからないが少なくとも彼女は笑ってくれた。
「そうだと良いよね。私はもう地獄行きが決まっちゃったんだろうな……」
咲は軽い口調でこう言った。
「そんなことはないでしょ」
思わず私は否定した。すると彼女は真剣な眼差しで私の目を覗いた。
「いや、むしろそうであってほしいの。私は」
この時の私には理解できなかったが、咲のこの言葉が今でも私の心に残っている。彼女はわかっていたのかもしれない。この先自分が辿らねばならない道を。
この時の私は彼女の言葉が理解しきれず、死後の世界の話から話題を逸らしてしまった。
「そういえば、昨日はどうしていつもよりもお金を持っていたの?」
「ああ、それは由香里にお見舞いを買おうと思ってさ。それで念のためいつもよりも多く持ってたの。まさかこんなことになるなんて思ってもなかったから、帰り道のお金がないけどね」
私は笑った。私へのお見舞いを用意しようとしてくれたのが嬉しかった。
「ありがとう」
私がこう言うと彼女もまた嬉しそうだった。
それからも私たちは電車を乗り継いで移動を続けた。お金が持つ限りで移動を続けた末に九州の中に入ることができた。大きな街に着いた私たちは朝ご飯を食べることにした。駅の近くにあった適当なファストフードの店で朝ご飯を食べた。私たちは前日の夜から何も食べていなかった。食べ物のありがたみが身に染みた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
私たちは朝ご飯を食べ終えて店を出た。人通りを進んでいると誰かが落としたと思われる新聞が目に入った。私はそれを拾い上げた。一面には大きくこう書いてあった。
「少女の遺体発見」
友美の亡骸が見つかってしまった。本文を流し見で読んでいくとこう書いてあった。
「……で見つかった遺体は一昨日から行方不明になっていた少女と断定」
「警察は事情を知っているとして同級生二人を捜索中」
気づいたら咲も同じ物を見ていた。やはり警察は私たちを探しはじめた。私たちは道を急がなければならなかった。警察に見つかる前に孔雀座を見に行かねば。そう思った私たちは新聞を捨てて駅の方へと走り出した。
私は咲の姿を見て、思わず聞いた。彼女はただただ泣き続けていて、答えられそうな状況になかった。それでも、咲は必死で何かを伝えようとしていた。
「私ね、とも、みを……」
「友美をどうしたの?」
彼女は泣きながら元来た道を引き返しはじめた。私は彼女の後をついて行った。
歩き続けること数分。人気の無いところで咲は立ち止まって、膝から崩れ落ちた。
「あああ!」
彼女は悲鳴に近い泣き声を出した。
「ねえ、何があったの?」
私の問いかけに彼女は答えることができなかった。その代わりに彼女は向こうのほうを指差した。その方向には少し広い空き地があって、この時は真っ暗だった。目を向けると何も無いじゃないかと私は思った。だが、違和感があった。地面に寝ている人のようなものが見えた。
私は嫌な予感がした。明かりを向けるのが怖かった。このまま、なんだ人が寝ているだけじゃないと言って、彼女と家に帰るべきだった。あるいは昼間の吉原刑事は怖いが覚悟して警察を呼ぶべきだった。だが、私はそれをせずに自転車のライトを向けてしまった。
そこにあったのは、もう二度と動くことのない友美の亡骸だった。
眩暈がした。この後十分間くらいのことを私はあまり覚えていない。意識が明確になった時には私は咲と抱き合って一緒に泣いていた。泣いた。泣きあった。泣き喚いた。人として正しい反応が起こった。私たちは二度と立ち戻ることのできない時点まで来てしまった。
友美が死んだ。私は咲が言いたかったことと友美が何をしたかったのかを悟った。友美は咲を殺そうとした。だから彼女を襲ったが、最後は咲の方が友美を殺してしまった。咲が握っていたナイフはおそらく、友美のことを刺した物だろう。
私たちはどうすることもできずに友美の前で座り込んだ。これから私たちはどうなってしまうのだろうか。私が黙り込んでいると咲は夜空の方を見上げた。私もそれにつられて見上げると星がそれなりに見えていた。咲は見上げながらようやく声をあげた。
「私、もうだめみたい」
「えっ?」
「孔雀座が見たくなっちゃった」
突飛な言葉だった。私はその言葉の意味を理解しきれずにいると彼女は覚悟を決めた目を私に向けた。
「ねえ、私と来て。私のサイゴの旅に付き合ってほしいの」
咲は私の方にナイフを突きつけた。だが、不思議と怖くはなかった。私は彼女がそこまで言うのならどこまでもついて行くしかないと思った。
「わかった」
咲はナイフを仕舞って歩きはじめた。私もその後を追いかけた。
じきに友美の亡骸は見つかってしまうだろうと思った。その時は警察が咲のことを全力で探し始めるとわかっていた。私たちに残された時間は少なかった。
「どこまで行くの?」
私は咲に聞いてみた。
「九州の端の方まで。そこなら孔雀座が少しだけ見れるらしいの」
「どうやって九州まで行くの?」
「お金的に電車で移動するしかないかなと思ってる」
「そうだね」
近畿地方にあるこの街から九州の端の方までは時間がかかる。私は長い旅なることを理解した。
私は頷いて、それから彼女の身なりを見た。彼女の服が傷だらけで彼女自身も怪我をしていることを改めて理解した。
「ねえ、まずは身なりを整えようよ」
「どうして?」
「怪我もしてるし、服もぼろぼろだし」
「じゃあ、服を買おう」
そこで私たちはひとまず開いている服屋を探した。幸い、まだ開いていた服屋があったので私たちはそこで服を買った。路地裏で私たちは服を着替えた。なるべく目立たない服装に着替え、咲の傷の手当てを済ませると私たちは最寄りの駅まで向かった。その道中でさっきまで着ていた服はゴミ箱に捨てておいた。移動しているとパトカーが何台も走っていることに気づいた。私たちは顔が見えないようにしながら道を進んだ。暗い夜道が延々と続いていた。
最寄りの駅にたどり着いた私たちは九州まで行ける道のりをスマホで調べた。調べ終えた私たちは電車のチケットを買ってスマホを捨てることにした。私たちの状況を誰にも知られないために。近くにあったゴミ箱にスマホを捨てた。ここから先はもう引き返すことのできない道のりだと覚悟した。
電車に乗り込んで出発を待っていると左隣に座っていた咲が私の左手を握りしめた。彼女の手は震えていた。
「怖いの?」
「……本当はね。でも、もう私たちにはこれしかないから」
「……そうだね」
私は彼女の手に右手を重ねた。直後、発車メロディーが鳴った。合図だ。電車の扉が閉まり動き出した。もう戻れない。そう思った。
電車は進んでいった。途中で何度か乗り換えながら目的地を目指した。移動中、咲は眠っていた。とても深く寝ていたようで、乗り換える時に起こすのが大変だった。
気がつけば、この旅を楽しんでいる自分がいた。友美が死んでしまったというのに。もしかすると私は心のどこかでこうなることを望んでいたのかもしれない。日々の何もかもを捨て去って旅に出ることを。
やがて、終電の時間になった。行けるところまで行ったがこの日は足止めとなってしまった。私たちはまともな場所に泊まれるような状況ではなかった。仕方ないので、駅の近くにあったベンチで仮眠をとることにした。冬の夜はとても寒かった。布団はないので私たちは寄り添いあった。咲の温度が伝わってきた。咲と私はこの先どうなってしまうのだろうかと思った。だが、それがどうしたと心の中で叫んでいる自分もいた。私は彼女とならどうなってしまってもいいと考えていた。次第に眠くなって私は目を閉じた。
やがて朝が来た。近くの時計を見ると時刻は朝の五時くらいだった。もうすぐ始発電車が駅に着こうとしていた。私は咲を起こした。彼女は眠たそうにしながらも歩きはじめた。私たちの長い一日の始まりだった。
始発電車に乗った私たちはしばらく無言だった。ただ車窓から朝焼けの風景を眺めていた。しばらくして彼女が私の方を向いた。
「ねえ、死んだら私たちはこんな世界に行けるのかな?」
彼女は車窓から見える田園風景を指差した。朝焼けでとても綺麗な場所だった。
「どうだろうね」
私は少し笑って答えた。私には想像がつかなかった。死後の世界がどんな場所なのか。
「どういう場所なのかわからないけどさ、綺麗な場所だと良いなって思うよ」
私は思ったことをそのまま答えた。いつか私が死んだ時、そこで待っているのは天国なのか地獄なのかはわからない。けど、綺麗な世界であることを願った。咲は私の答えを聞いてどう思ったのだろうか。本当のところはわからないが少なくとも彼女は笑ってくれた。
「そうだと良いよね。私はもう地獄行きが決まっちゃったんだろうな……」
咲は軽い口調でこう言った。
「そんなことはないでしょ」
思わず私は否定した。すると彼女は真剣な眼差しで私の目を覗いた。
「いや、むしろそうであってほしいの。私は」
この時の私には理解できなかったが、咲のこの言葉が今でも私の心に残っている。彼女はわかっていたのかもしれない。この先自分が辿らねばならない道を。
この時の私は彼女の言葉が理解しきれず、死後の世界の話から話題を逸らしてしまった。
「そういえば、昨日はどうしていつもよりもお金を持っていたの?」
「ああ、それは由香里にお見舞いを買おうと思ってさ。それで念のためいつもよりも多く持ってたの。まさかこんなことになるなんて思ってもなかったから、帰り道のお金がないけどね」
私は笑った。私へのお見舞いを用意しようとしてくれたのが嬉しかった。
「ありがとう」
私がこう言うと彼女もまた嬉しそうだった。
それからも私たちは電車を乗り継いで移動を続けた。お金が持つ限りで移動を続けた末に九州の中に入ることができた。大きな街に着いた私たちは朝ご飯を食べることにした。駅の近くにあった適当なファストフードの店で朝ご飯を食べた。私たちは前日の夜から何も食べていなかった。食べ物のありがたみが身に染みた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
私たちは朝ご飯を食べ終えて店を出た。人通りを進んでいると誰かが落としたと思われる新聞が目に入った。私はそれを拾い上げた。一面には大きくこう書いてあった。
「少女の遺体発見」
友美の亡骸が見つかってしまった。本文を流し見で読んでいくとこう書いてあった。
「……で見つかった遺体は一昨日から行方不明になっていた少女と断定」
「警察は事情を知っているとして同級生二人を捜索中」
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