燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

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第五章

次なる方針(プラン)

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 さて、問題は何より、四獣神の珠の、のこりふたつの回収である。
 それは簡単な話ではなかった。
 何故かと問わば、四獣神を祭った大神殿は、大陸中に分散しているからだ。
 
 まず、ヴァルシパル王国には朱雀大神殿。
 次に魔族より滅亡したフシャスーク国に青龍大神殿。
 そして現在、戦禍の只中にある隣国、ガイアザに玄武大神殿。
 ヴァルシパルの東――このL字型をした大陸の東端に位置する国、プロメ=ティウ。ここに白虎大神殿がある。
 
 では各地へ散らばる大神殿へと直接足を運べばよいかといえば、ことはそう単純ではない。
 なにしろ、朱雀大神殿にあるはずであった朱雀の珠が、ジェルポートの公爵の手にあり、またフシャスークに保管されている筈の青龍の珠が、フルカ村の家宝として守護されていたのである。
 遠路はるばるたどりついた大神殿に置かれている珠が、本物であるという保証は、どこにもない。
 いや、むしろ、すりかえられている可能性のほうが高いだろう。

「では、どこから手をつけて行けばよいのじゃ」

 と、ダーが途方に暮れるのも仕方のない話である。
 それはエクセも考えていたようで、

「……そこはやはり冒険者ギルドのお偉いさんに尋ねたほうが、もっとも効率的かもしれませんね」

 と提案したのだった。
 他に代案もないことである。
 ダーの体力の回復を待って、『フェニックス』一団はザラマ冒険者ギルドへと赴いた。
 訪問相手は、この支部の最高責任者、ギルドマスターのサルマナフ老である。
 先に連絡を入れておいたので、受付嬢が彼らの来訪を待ち受けていた。彼女の案内で、3階の会議室の奥にある、ギルド長の部屋へと向かう。 
 ノックをすると、内部から応えがあった。
 5人が通された室内は簡素なつくりで、これといった装飾は施されていない。部屋の主の素朴な人柄を如実に反映しているかのようだ。
 ギルド長――サルマナフ老は椅子から立ち上がり、皺深い笑みで一行を迎えた。
 
「おお、ダー殿、もう身体はよろしいのですかな」

「うむ、だいぶよろしいのじゃ」

 簡単な挨拶をかわした後、エクセはさっそく本題へ入った。
 彼は包み隠さず語った。青龍の珠のこと。朱雀の珠のこと。
 ダーが四獣神に認められ、あの力を授かったことなどを。
 ここまで話して、大丈夫なのかのうとダーがつぶやいたほど赤裸々に。
 聞いているサルマナフ老は、顎の蝶番が外れたように、ぼんやりとした顔で頷くばかりだ。
 
「どうしました? わからぬところでもありましたか?」

「エクセ=リアン、昔から変わりませんね。――いえ無論、外見もですが。驚くべき話をまるで朝の挨拶のように告げる、そのふるまいが」

 感慨深そうに、サルマナフ老が言った。
 そういえば、たかだか6級冒険者のエクセの参加を、なかば強引な形でねじ込んだのが、このサルマナフ支部長だった。彼はエクセの過去の冒険者時代を知っていると考えるべきだろう。

「――そういうあなたは変わりましたね、サルマナフ・レゴン。あの頃より、だいぶ威厳が増しましたよ」

「しわくちゃになったと言ったほうがいいですな。エルフがさながら川の中央にたたずむ大岩とすれば、我々人の子は、浮き草のように翻弄され、流されてゆくだけですからな」

「ふたりは昔っからの知り合いなの?」

 目をぱちくりさせてコニンが口をはさんだ。
 老人は頷き、懐かしそうに目を細めてエクセの姿を見ている。
 それは当時、第一線で活躍していたであろう自身の残影を見ているかのようであった。周囲からの視線を感じたのか、彼は大きく咳払いをし、

「昔の話です、それに、その当時からエクセ=リアンは人気の冒険者。ついに私は組む機会はなかった」

「言ってくださればよかったのに、私はあの当時――」

「話の腰を折ってすまんがの、ワシらはこまっておるのじゃ。何ぞ珠のありかに心当たりがあれば助かるのじゃが」

「これは失礼しました。正直なところ、中身が入れ替わっているものの所在を知る術などはない、としかいいようがありません」

「まあ、そうなるじゃろうの」

「考えられる手段としては――魔術師協会の協力をあおぐことでしょう」

「そうはいいますが、ザラマの魔術師ギルドは……」

 言いにくそうに、エクセが口ごもる。

「ははは。ご指摘どおり、少々、規模が小さいですな。ですから、本拠地であるベールアシュの魔術師協会へと赴かれるのはどうでしょう?」

 ヴァルシパル王国の魔術師協会の総本山といえば、ベールアシュの町にそびえる尖塔――通称、魔法使いの塔である。大陸各地から膨大な魔法書が集められ、保管されている。
 所属する魔法使いも錚々たる実力の持ち主ばかり。もしかしたら、珠の所在を探知できる魔法使いもいるかもしれない。

「かなり頼りない情報源ですね。しかもベールアシュの位置は……」

「そうじゃ。ここザラマがヴァルシパルの最西端とするなら、ベールアシュは最東端。いってみれば隣国ガイアザを侵攻中の魔王軍から、背をむけ遠ざかることになるわけじゃ」

「うーん、それって正しい事なのかな……」

 不安げにコニンがつぶやき、ダーもムウと腕組みをしている。

「焦っても仕方ありません。ダー、いまガイアザへ向かうことは、斧を持たずに手ぶらで戦場へ向かうようなものです。もし、またヤマダと相見えることになったらどうします?」

「勝てぬな」

 どきっぱりとダーは断言した。
 一度は魔族ラートーニともども、叩きのめして追い払った。
 それはあくまで、一時的に四獣神が力を貸してくれたおかげである。
 
 そのくらいのことは、ダーもわきまえている。あのときは神々が、単なる気まぐれで力を授けてくれたに過ぎないかも知れぬし、次も助けてくれるという保証などはない。
 相手は、他の異世界勇者ですら届かない存在となったヤマダである。
 実力的には対抗すべき手段がないのが現実なのだ。

「焦ってガイアザへ向かっても、返り討ちに遭うのが関の山でしょう」

「そうじゃな。急がば回れとも言うしの……」

 ダーの言葉に、4人は頷いた。
 先のザラマ防衛戦は、かなりきわどいものだったといっていい。
 戦力アップして魔王軍との戦いに臨むのは、必要な事のように思われた。

「では、次なる目的地は、ベールアシュということにするか」

「おや、意外とあっさり了承しましたね。私はまた、もっとごねるものかと」

「ワシが? なにゆえじゃ?」

「何ゆえって、ガンジョウ山脈を手早く抜ける手段は、海路しかないのですよ」

「な、なに、それはつまり――」

「ご想像通り、船旅です」

 エクセがぎこちない微笑を浮かべた。
 ザラマへ到達するときの、船旅の過酷さを思い出したのだろう。コニンとダーは揃って青い顔を見合わせた。

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