燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ

文字の大きさ
97 / 146
第十章

寒村での攻防 その2

しおりを挟む
「ハイローよ、おぬしは何を隠しておる。本当の敵は、なんじゃ?」

 ダーの声音は、詰問調にかわっている。それも当然である。
 ギルドへはできるだけ正確に、敵の数と種類、そして被害などを報告して依頼を行わなければならない。もし曖昧な報告をおこなえば、討伐におもむいた冒険者が直接、被害をこうむるのだ。
 結果、悲惨な末路をたどった冒険者など枚挙にいとまがない。

「最初から疑っていたのかい、おいらの話を」

「最初は疑問じゃったが、それが確信にかわったのは、コニンの報告があってからじゃ」

「それじゃ、さっき出て行ったのは――?」

「ああ、さっきの話を確認してもらうためじゃ。3人の若い、使える男がここにはおった。おぬしがそういったのは、ワシは本当じゃと思った。問題はそのあとじゃ。そこでコニンに指で合図して、村の様子を確認してもらった」

 そこでコニンは用をたすふりをして、村を探索した。なにしろ小さい寒村だ。
 彼女はすぐにそれを見つけた。冴え冴えと青い光輝をはなつ月光のもと、村の片隅にひっそりと、三つの小さな墓石が並んでいるのを確認したのだ。

「村の3人は逃げたのではない。殺されたのじゃろ。問題の怪物に」

 ハイローは白髪をがくりとうなだれた。白状したも同然だった。

「でもそれは……」

 いいかけて、ルカは絶句した。
 これは明らかに、依頼主の冒険者ギルドに対するダブルクロスである。ギルドが領主のもとへと注進におよべば、ハイローの逮捕もありうるのだ。 

「これは明確な詐欺行為じゃ。領主より処罰が下されるであろう。おぬし、何が狙いよ」

「……それは……」

 轟音はますます大きさを増している。
 笛の音はけたたましく、敵の襲来を告げている。

「話は後にして、急ぎましょう! もう敵は目の前にいるのです」

 めずらしくエクセから切迫した声が発せられた。
 確かに呑気に問答をしている場合ではない。

「あとで詳しい話を聞かせてもらうぞ、ハイローよ!」

 ダーは傍らに立てかけていた戦斧をひっつかむと、村の門の方角へと足を向けた。
 一同も各々の得物をかかえ、その後を追う。
 そこで「あっ!」と一同は声を漏らした。
 
 それまで、どうにか敵の侵入を固く拒んできた柵は、ついに崩壊のときを迎えていた。めきめきと悲鳴をあげてへし折られた柵から、次々と敵が村内へなだれこんできた。
 敵の正体は、彼らにもお馴染みの怪物、ゴズマであった。
 肥大化した熊そのものの外観をしているが、毛皮が鎧のように硬い厄介な化け物だ。さらに吼え声を発すると、それを聞きつけた仲間が次々と集まってくるという習性をもつ。
 今、彼らの目の前に出没しただけで、五頭はいるだろうか。
 
「つ、ついにやぶられちまった!」

 狼狽する村の守備隊に対し、冒険者5人の反応は迅速の一語につきた。

「ファイア・バード!!」

 エクセの空中魔方陣から、火炎に包まれた鳥が飛翔した。
 
「しゅっ!」

 コニンの銀色の弓から放物線を描いた鏃がゴズマの眼球をつらぬき、悲鳴をあげさせる。
 遠距離攻撃で、すでに2体のゴズマが手負いとなった。
 それでも突進してくる三頭に対し、迎撃に躍り出た2つの影がある。
 ひとつはドワーフであり、もうひとつは巨体の女戦士であった。

「ぬうううん!!」

 ダーの重い斧の一撃は、硬いゴズマの装甲をたやすく貫く。ドワーフならではの、膂力にものを言わせた斬撃といっていい。低い姿勢から無二無三つっこむと、足を、胴を、ずたずたに斬りさいていく。
 クロノトールの剣技はさらに鮮やかだった。
 右上から脳天めがけて振り下ろされるゴズマの熊手を、ブラックバスタードソードを持ちあげて上段で受ける。そのまま電光のように手首をひるがえすと、ゴズマの腕は下方へすべり落ちていく。
 クロノの剣はすべて連動している。その体勢から剣尖が撥ねあがり、ゴズマは脳天からバッと赤い花を咲かせ、村の大地に眠った。

 残った一頭は、不利をさとったか、早々に逃げの体勢へと入った。 
 いずれも、ハイローが反応できぬ瞬間に起こった出来事である。 
 他の村人も同様であった。ただ呆然と口を半開きにして、ことのなりゆきを見守っているだけである。
 
「おい、何をしておる。門の方を見にいかぬか」

 ダーの声で、ようやくわれに返った彼らは、あわてて轟音響く門へと足を向けた。
 すくなくともここに、彼らの活躍する場はなかった。

「――門がもう、もたない!!」

 見張りをしていた老人たちが、絶望の声をあげながら村の中央へと逃げていく。
 悲鳴をあげつつも、かろうじて耐え忍んできた門がついに決壊したのは、その瞬間であった。門をかんぬきごと吹き飛ばし、身を低くして門をくぐりぬけた巨体は、ゴズマであってゴズマではなかった。

「なんじゃ、こいつは……」

 さしものダーも絶句せざるを得ない。
 でかい。第一印象は単純きわまる、それであった。
 突然変異か、あるいは魔族の手による 合成獣キメラであろうか。どうもダーには前者のように思われた。というのも、この巨大ゴズマには、魔王軍特有の、生命に対する冒涜ともいうべき、不気味な特色が欠けていた。
 その雄大な体躯から発せられる圧倒的な 雰囲気プレッシャーは、幾多の激戦をのりこえて身についたものであろう。
 額に刻まれたX字の傷は、その歴戦のなか刻まれた勲章に違いない。

「――こいつはキング・ゴズマとでも名づけるか。生半可な相手ではなさそうじゃ」

 耳をつんざくような、すさまじい咆哮がとどろいた。
 キングゴズマが四つんばいの姿勢から、後肢を踏んばって立ち上がり、天空へと吼えた。心臓を鷲づかみするかのような、強烈な声であった。
 立ち上がったキングゴズマは、まさに神話に登場する巨人のような、規格外の大きさである。その炯々と燃える瞳は、地上にはいつくばった小さな生命を見下ろして、嘲笑うかのようである。
 ダーは地を蹴り、地摺り旋風斧の姿勢に入ろうとするが、何かを感じたか、すぐに背後へと飛び退った。その判断は正しかった。
 彼のいた空間を、巨大な熊手が切り裂いた。
 もし半瞬、判断が遅ければ、ダーは首を吹き飛ばされ、低い身長をさらに低くされていたことだろう。
 大きい上に俊敏さも尋常ではない。

 コニンが銀色の弓から矢を投じた。
 やや遅れてファイア・バードが飛翔する。
 
 怪物は、矢を鉄兜のように頑丈な額で受けた。
 ファイヤバードに対しては、防御姿勢すらとらない。正面から火炎に包まれた鳥は命中するが、キングゴズマは一切、痛痒を感じていないようだ。

「さすがに少々、傷つきますね……」

 とエクセがぼやく。次の瞬間だった。

「いかん、下がれ!」

 異様な光を放つ怪物の虹彩を見てなにかを感じたか、ダーが叫んだ。
 怪物の巨大な前肢が、ふたりを叩き潰すべくふりおろされ、地を揺るがした。
 その攻撃を受けたのは、エクセとコニンではなく、ダーとクロノであった。すかさず彼らを守ろうと、その前に立ちはだかったのだ。
 剣と斧でその攻撃を受けるが、受けきれるものではない。
 ダーは後方へ弾き飛ばされ、ごろごろと砲弾のように転がされた。後方に退いたエクセが、かろうじてそれを止める。
 重い足腰のクロノでさえ、大きく後方へと弾かれ、思わず尻餅をついてしまった。連撃から逃れるため、すかさず横へ回転して体勢を立て直す。
 
 それでも何とか攻撃を耐え切れたのは、ルカが防御の奇跡を唱えてくれたお陰である。その援護が遅れていれば、彼らふたりも無傷ではいられなかっただろう。
 怪物は王者の風格さえ漂わせて、ゆったりと彼ら一同を睥睨している。
 どこからでもかかってこいと言わんばかりの、傲然たる構えであった。

「いちかばちか、こいつを試すしかないようじゃの……」

 ダーは掌にきらめく、玄武の珠をしっかと握り締めた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...