燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ

文字の大きさ
130 / 146
第十三章

魔竜激突

しおりを挟む
「戦争を終らせるだと? たかだかドワーフ如きが、大言を吐きよるわ」

 と、言い捨てつつも、ラートドナの表情に感嘆の色が浮かんでいる。
 たかだかドワーフという、とるにたらぬ小さな亜人風情が、岩を溶かし鉄を溶かし、異世界勇者ですら窮地に追い込むドラゴン・ブレスを防いだのだから、その驚きも当然といえた。
 
「貴様、戦の真っ最中だというのに、どうやってここまでやって来た?」

「簡単なことです。あなたの部下の目は、こちらに釘付けですから」

 ダーたちの背後から声がした。エルフのエクセ=リアンだ。
 その背後には、彼らの仲間と思しき連中もいる。10万の大軍の真っ只中を突っきって、ここまで易々と接近を許してしまうとは考えられぬことであった。
 ラートドナは周囲を見渡した。エルフの言ったとおりであった。
 市壁へと目を向けていた者は誰もいない。
 魔王軍の視線はこちらへ集中している。将兵たちは異世界勇者の武器により痛めつけられ、まともに機能していないも同然であった。こんな状態では、警戒態勢もくそもない。
 その混乱と、魔竜と異世界勇者勇者の対決にすっかり気をとられていた間隙をぬい、ダーとその一行はまんまとここまで到達してきたのだ。
 
 ここに敵軍が殺到していたら、苦戦は免れなかったところである。
 まあいい。この魔竜の犠牲者が増えただけのことだ。この魔竜が活躍すればするほど、開発に携わった彼の姉の株が上がるというものだ。
 ラートドナはそう前向きに考えることにした。
 颯爽と現れ、異世界3勇者を救出したダーだったが、待っていたのは感謝の言葉ではなく、罵声にひとしいものだった。

「おいダー、助けてくれなんて頼んだ憶えはねえぜ」

「何を勝手に現れて、格好つけてるんですかね!」
 
「ちょっと、この場はワタクシたちに任せるって言ったわよね!」

「やれやれ、命の恩人に口を開けばこれじゃ。助けるんじゃなかったわい」

 ダーは苦りきった顔でつぶやいた。
 目の前には高々と暗黒の城がそびえ立っていた。
 早朝の太陽が光を投げかける。陽光を浴びて鎧のごとき竜鱗が、漆黒のきらめきとなって魔竜の全身をつつんだ。
 その堂々たる佇まい。威圧感は、さすがに戦い慣れた一行の身すら竦ませた。まがいものとはいえ、これは魔獣の頂点に立つ存在、魔竜ドラゴンなのだ。
 
 魔竜はふたたび紅き口腔を開いた。竜の吐息ドラゴンブレスだ。
 ダーは緑の珠を掲げ、玄武障壁ゲンブ・シールドを展開する。彼とその背後にいる全員の表面に、薄い緑色の膜が生じた。大気の焼ける嫌な臭いが嗅覚を刺激する。

「死傷者はおるか?」

「いや、大丈夫だよ。ありがとうダーさん!」

「ぬう、ドラゴンブレスを一度ならず二度も防ぐとは。無敵か、その結界」

 さしもの剛毅なラートドナも平静ではいられぬようであった。
 それもそうだろう。切り札ともいえる魔竜の吐息が通じぬとあれば、いかなる破壊兵器もこのドワーフには通じぬということになる。
 ラートドナは素早く頭をめぐらせた。魔竜が役に立たぬとなると、圧倒的なまでの人数差で押し切るしかないか。そう思って背後を振り返ったが、その計算はもろくも瓦解した。
 そこで彼が見たのは、大地に伏せ、二度と動かぬ兵。仰向けになり、衛生兵に治療を受けている兵などであった。そうした光景が、視界のあちこちで展開されている。
 魔王軍10万の大軍といえど、さきほどの強引ともいえる異世界勇者の突撃を受けた者は、ほぼ満身創痍の状態であり、身動きもままならぬ。
 切り札の魔竜が切り札とならぬ限り、ここにいる彼ら全員を、ラートドナが相手をせねばならない。彼が単なる蛮勇を誇る一戦士であれば、その選択も大いに望むところだ。
 だが、彼の立場は、魔王軍10万を預かる総大将なのだ。
 迂闊な行動は避けねばならない。ではどうする。
――逃げる? この俺が? 
 いや、それだけは矜持プライドが許さない。

「これで勝ったと思わぬことだ、亜人どもが……」

 ラートドナが選択に懊悩しているとき、実はダーも内心で冷や汗をかいている。魔竜の攻撃力は尋常ならざるものであった。ダーは魔力マナのほとんどを持っていかれてしまった。
 これを連発されては、彼の精神力が尽きるのが先であろう。
 そしてその焦りをいち早く見破ったのは、ラートドナの方であった。

「どうしたドワーフ、随分と顔色が悪いな?」

「悪かったの、ワシはいつもこんな顔じゃ」
 
「誤魔化すのが下手だな、ドワーフよ。その凄まじい防御は過度の魔力を使うものらしいな。貴様の表情の暗さが雄弁に物語っておるわい」

「なあに、このような疲労など、午前中の散歩と同様じゃ」

「ふむ、なるほど。ならばもう一度試してみるか」

 ラートドナは魔竜に再度ブレスの発射を命じた。
 爆炎が、みたびダーたちを襲った。
 ダーはすかさず玄武障壁を展開した。障壁は正確に機能し、またも死傷者は誰一人として出なかった。

「――ダ、ダーさん!!」

「おい、どうしたジジイ、大丈夫か」

 悲鳴にも似た叫びがこだました。ダーがその場で片膝をついたのだ。
 呼吸は荒く、まるで全力疾走をした直後のようだ。
 魔力枯渇の兆候であった。

「やはりそうか! これだけ完璧な障壁など、無条件で展開できるものではないと思っていた。その術、膨大な魔力を食うのだな!」

「なあに、ちょっと小腹が空いただけじゃ」

「ほう。その割には顔色が悪すぎるな。では、次は耐えられるかな!」

「くそ、ジジイだけに頼っていられるか!」

 ゴウリキが再び 空烈破弾くうれつはだんを放つが、魔竜は身じろぎもせず正面からそれを受ける。微動だにしない。他の勇者の攻撃も同様である。異世界勇者が放つ超弩級の攻撃を、魔竜は真正面から受け止めた。
 エクセの額から、つうっと透明な雫が流れ落ちた。
 これでは、かれ最大の呪文、ファイヤー・カセウェアリーも通じまい。
 何一つ攻撃が通じない相手に、勝機などあるのだろうか。
 竜はふたたび巨大な口腔を広げた。終りが近づいている。
 その瞬間だった。ダーが口を開いた。

【いい加減にするのだな。このマガイモノが……】

 その怒気を含んだ声は、正確にはダーの口から生じているものではなかった。声は、まるで地の底から響きわたるようであり、また天空の彼方からこだまするようでもあった。

【神を冒涜するとは、さすがに看過するわけにはゆかぬ……】
 
 ダー・ヤーケンウッフの身体が白光を放ち、みるみる巨大化をはじめた。
 それは彼自身が巨大化しているわけではなかった。
 何か得体のしれぬ、異形のものに変わっていっている。
 その変貌が完了したとき、そこにドワーフの姿はない。 
 変わって一匹の雄大なカタチをした蒼き龍が誕生していた。その神々しさ、完璧なまでに均整のとれた姿は対峙した魔竜とは雲泥の差であった。まがいもの。まさしく、この蒼き龍と比較して、魔族たちが生み出した魔竜はそう言わざるを得ない。

「こ、これは夢か幻か?」

 ラートドナがそう発言したのも無理はない。
 伝説上の怪物といわれたドラゴンが2体、炯々とかがやく双眸を激突させ、対峙する光景は見るものを圧倒した。幻想的な光景ですらあった。
 ふたたび、あの出所のわからぬ声が響き渡った。

【神の怒りを識るがいい】

 蒼き龍の口腔が開いた。
 それに合わせるように、黒き魔竜も口腔を開く。
 魔竜から爆炎が放たれた。
 対峙する蒼き龍が放ったのは、稲妻だった。
 その雷撃電流のすさまじさたるや。被雷物が音速を越えて破壊されたときに生じる衝撃波を受け、人々は残らず地表を転がった。
 地に横たわった人々が顔を上げたとき、彼らが見たのは、大地に横たわるひとりのドワーフと。膨大すぎる量の雷撃を受け、内部から破裂し、もはや原型をとどめていない魔竜の名残の両脚が立っていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...