24 / 146
第三章
フェニックス、飛翔す
しおりを挟む
「――こっちへ来たぜ、ダーさん、クロノ」
コニンが警告を発した。
「うむ」
「……うん、任せて……」
矢を背に受けた、灰色の巨大な影が疾走している。
突進してきたのはジャイアント・サーベルウルフという、名のとおり巨大な牙を持つ大型狼だ。
その特徴的な、上顎から生えた巨大な剣のごとき二つの牙は、そのままおそるべき破壊力を持つ武器でもある。
その牙が、巨体が、すさまじい速度でクロノトールめがけて猛進してくる。クロノは冷静に盾を前に構え、もう片手で剣をにぎりしめた。ところが――
サーベルウルフは、しなやかに跳躍した。
クロノの頭上へ、牙が落ちてくる。
すかさずクロノは、わずかに後退し、ブラックタートルシールドを上空に構えなおした。ある程度の予期がなければ、こう自然には動けない。
がきんっ、と硬質の音が響き渡る。
並みの人間ならそのまま一気に押し潰され、上にのしかかられたまま鋭い牙で惨殺されていただろう。しかし、クロノの身体能力は半端なものではない。
巨大狼の体重に圧され、体勢を崩しつつ数歩後退したものの、倒れない。
クロノトールのすさまじい筋力と、盾の防御力の両方があって成せる技であった。
組み伏せようとする巨大狼と、そうはさせじと下から抵抗するクロノ。
みしみしと、二つの強力な力が場を制せんと、ぶつかりあう。
しかし巨大狼の重さは桁が違う。じょじょにクロノの体勢が沈みはじめたときだった。
「―――シュウッ!」
吐息とともに、コニンがドローイングから神速の連続リリース。
狙いあやまたず、サーベルウルフの両眼に、連続で矢が突き刺さった。
すさまじい技量といっていい。
「ギャイイイイイイィィィン!!!」
苦悶に身をよじるサーベルウルフの真横から――
砲丸のように突進する影がある。
「ぬうううううりゃああ」
ダーが低い姿勢から駆け、一気に戦斧を水平に振りぬいた。
快音一撃。
黒い影が回転しながら宙を舞った。サーベルウルフの脚だった。
体勢を大きく崩す巨大狼。クロノはすばやく飛びのき、距離を開いた。
「――とどめじゃ、クロノ」
クロノはこくっと無言で頷くと、バスタードソードを水平に構える。陽光を受けた長い剣身が、ぬらりとした黒い光をはなっている。
そのまま突進し、サーベルウルフの口内に鋭い剣先が消えていく。
最後の抵抗を示そうとする巨大狼。
しかし、無駄であった。クロノは暴れまわるその牙を握ると、さらに体内の奥深くへと剣を突き入れる。
怪物の身体から力が抜ける。クロノは剣先を抜くと、すばやく身を離した。
ごぶっとくぐもった声にならぬ断末魔を残し、サーベルウルフは崩れ落ち、痙攣する死体となった。
エクセが、ルカとともに三人のもとへ駆け寄ってくる。
「そちらも終ったようですね」
三人の視線が、彼らの背後にそそがれる。なにかが燃えたような臭気。エクセの背後に、どんよりと焦げついた大地がある。炎の舌が周辺一体を這いまわり、蹂躙しつくしたかのようであった。
そこに何体もの、どす黒く炭化した、獣とも塊ともつかぬ物体が転がっている。
狼は、集団で群れを形成する生物であることは有名な事実である。
サーベルウルフとて例外ではない。エクセとルカは小型の――いや、通常の大きさというべきだろうか――配下のサーベルウルフを、呪文で駆逐していたのだ。
「三人とも、おつかれさまです」
エクセが秀麗な顔に笑みを浮かべて、戦い終えた三人をねぎらう。
ダーは、にやりと不気味な笑みを返し、
「ああ、お疲れじゃわい、6級の人」といった。
――その一瞬。空気が硬化した。
エクセは睫毛が長くて、開いているのかどうかすらわからない眼を、じっとダーにむけている。おそらく睨んでいるのだろう。かれはすっと杖をかまえ、
「ふふ、6級の魔力の切れ味を試してみますか?」
「わしの斧は鋭いぞ。なにせ5級じゃからな」
二人の間に電流のような殺気が流れた。
あわてて他の三人がその間にはいりこみ、おそろしくレベルが低い対決は勃発未満で事なきを得た。
―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
「――さあ、英雄のご帰還じゃわい」
ダーが冒険者ギルドの扉を開くと、たちまち驚愕のざわめきが彼らを包んだ。
それもそうだろう。退治した証として、クロノが持ち帰ったサーベルウルフの牙は、そのまま大剣として用いられそうなほど巨大なものだったからだ。
その牙から推測して、本体はどれほどの大きさだったのか。その衝撃に、冒険者たちは自分たちがそれだけの相手を倒せるか否か、あちこちで討論をはじめた。
「大きい……本当に仕留めたんですね。伝説のジャイアント・サーベルウルフを……」
受付嬢のバニー、チコがぽかんとして見つめている。
「すまんがチコ、鑑定士を呼んでもらえるかの?」
そのダーの声に、チコはハッと我をとりもどすと、ごろりと床に投げ出された牙を観察する。歯根から抉り取られた牙を見て、彼女は高らかに告げる。
「鑑定士さんをおよびするまでもありません。これは途中で折れたものではなく、明らかに根元から切断したものです。本物のサーベルウルフを退治したと認めます。これでチーム『フェニックス』は難易度3級の依頼を解決したことになります」
冒険者ギルドは再び驚きの声に満ちた。
「どうなってるんだ、あの新入りどもは――?」
「ここへ来た当初、まだあいつら6級だったはずだよな」
「それがたった一ヶ月足らずで5級昇進。さらに3級の仕事を片付けちまっただと?」
「なあに、なにかズルでもしてるに違いないさ――」
どん、とダーがその声のするテーブルの上に立った。
「今なにか、おもしろい冗談が聞こえたのう?」
一瞬ぎくりとしたその剣士風の男は、開き直ってこう言い放はなった。
「じ、冗談じゃねえぞ、そんなにホイホイと難易度の高い依頼を解決できるはずがねえ。トリックがあるに違いねえんだ」
「ほほう、ズルをしてるかどうか、退治した本人に直接聞いてみるか?――クロノ」
ずんずんと、無言でダーの元へと近寄るクロノトール。
その巨体、その筋肉、そして異彩をはなつ全身の黒い装備。
本物だけが持つ圧倒的な威圧感を前にして、文句をつけた剣士はふるえあがった。
「この男がお前さんの力を疑っておるらしい。ちょっとこらしめてやりなさい」
無言で頷くクロノ。周囲の人々には、まるで意思を持たぬ殺人ゴーレムのように見えた事だろう。
剣士は青ざめつつも立ち上がった。だが、全身は小刻みに震えている。それが精一杯の抵抗だっただろう。
「ちょっと待った、この争い、預けちゃくれねえか」
そこに、ひとりの重装備の戦士が割って入った。
頬に傷のある、百戦錬磨を絵に描いたような、凄みのある男だ。
「あ、あんた『トルネード』のサブリーダー、ドルフさん!」
「俺の名前は知ってると見えるな。なら、これ以上の騒ぎは無用だ」
『トルネード』の名は、新参者であるダーたちも知っている。
数あるザラマの冒険者グループの中で、最強と目されるチームのひとつだ。
ドルフと呼ばれた頬傷の男は、くるりとダーたちに向き直ると、
「あんたらもこの場は預けてくれ、フェニックスさんよ」
「ほう、ワシらのことを知ってるのか」
「来て早々、飛ぶ鳥を落とす勢いのチーム名を知らぬ方が少ないさ。いずれ、一緒に冒険してみたいものだな」
あやういところを助けられた剣士風の男は、気が抜けたのか、へなへなと椅子に崩れ落ちた。もう文句をつける気力もあるまい。
ドルフはクロノに軽いウィンクを残し、悠然と背を向けて立ち去った。
「あいつら『トルネード』にも一目置かれているのか……」
「つまり本物ってわけだな。強いわけだ……」
ダーたちのパーティーの活躍はめざましいものがあった。その活躍に半信半疑のものも少なからずいたのは、この男の存在が示すとおりである。
しかし、最強チーム『トルネード』のサブリーダーが、いずれ一緒に冒険をしたいと申し出たのだ。彼らの実力に懐疑的であったものも、見る眼が変わろうというものだ。
『フェニックス』は、ギルドの紹介する仕事は、すべて完璧に近いかたちで解決していった。
特に怪物退治に関しては、無類の強さを誇った。それにともない、またたくまにランクも上昇。
今ではエクセ=リアンを除いた全員が5級になっている。
なおエクセはサボり期間が長すぎたため、いまだにランク6級である。そのせいでダーにいじられつづけ、多少、その秀麗な顔に翳りが見えるときもある。
「しかしオレたち、確実に強くなってるな」
実感をこめてコニンがしみじみとつぶやく。
「……うん…あんなでかいの、今まで倒せなかった……」
「これもエクセさん、ダーさんのご指導のたまものですわ」
「本当にルカはいい娘ですね。どこかの樽とは大違いです」
エクセに頭を撫でられて、素直に微笑むルカ。
そう、確かにここまでは、パーティーは順調に成長しているといっていい。
「しかし、足りんな……。まだ、足りん…」
ダーは内面の焦燥を表すように、つぶやく。
「あまり焦ってはいけません、我々は着実に強くなっています」
諭すようにエクセがダーの肩をたたく。
「……そうじゃな、おぬしの言うとおりじゃ。まずはそのことを喜んで、今日は乾杯といくか」
テーブルに酒が配られ、みんなの顔がほころぶ。
エクセだけはいつもの果実水だ。
ダーも酒がまわったか、やがて上機嫌になって、皆をねぎらった。
しかし、本心は違う。ダーは焦燥感でいっぱいだった。
(ワシは見てしまった。あの異世界勇者の力を)
どうすれば、あの領域にまで達することができるのか。
――そしてあの、ジェルポートに現れた黒い魔獣。
あのクラスの化け物が現れたとき、勝てる自信はいまだにない。
どうすればいいのか。ダーはジョッキを片手に仲間を見やり、思う。
どうすれば、この仲間たちを守ることができるだろうか。
コニンが警告を発した。
「うむ」
「……うん、任せて……」
矢を背に受けた、灰色の巨大な影が疾走している。
突進してきたのはジャイアント・サーベルウルフという、名のとおり巨大な牙を持つ大型狼だ。
その特徴的な、上顎から生えた巨大な剣のごとき二つの牙は、そのままおそるべき破壊力を持つ武器でもある。
その牙が、巨体が、すさまじい速度でクロノトールめがけて猛進してくる。クロノは冷静に盾を前に構え、もう片手で剣をにぎりしめた。ところが――
サーベルウルフは、しなやかに跳躍した。
クロノの頭上へ、牙が落ちてくる。
すかさずクロノは、わずかに後退し、ブラックタートルシールドを上空に構えなおした。ある程度の予期がなければ、こう自然には動けない。
がきんっ、と硬質の音が響き渡る。
並みの人間ならそのまま一気に押し潰され、上にのしかかられたまま鋭い牙で惨殺されていただろう。しかし、クロノの身体能力は半端なものではない。
巨大狼の体重に圧され、体勢を崩しつつ数歩後退したものの、倒れない。
クロノトールのすさまじい筋力と、盾の防御力の両方があって成せる技であった。
組み伏せようとする巨大狼と、そうはさせじと下から抵抗するクロノ。
みしみしと、二つの強力な力が場を制せんと、ぶつかりあう。
しかし巨大狼の重さは桁が違う。じょじょにクロノの体勢が沈みはじめたときだった。
「―――シュウッ!」
吐息とともに、コニンがドローイングから神速の連続リリース。
狙いあやまたず、サーベルウルフの両眼に、連続で矢が突き刺さった。
すさまじい技量といっていい。
「ギャイイイイイイィィィン!!!」
苦悶に身をよじるサーベルウルフの真横から――
砲丸のように突進する影がある。
「ぬうううううりゃああ」
ダーが低い姿勢から駆け、一気に戦斧を水平に振りぬいた。
快音一撃。
黒い影が回転しながら宙を舞った。サーベルウルフの脚だった。
体勢を大きく崩す巨大狼。クロノはすばやく飛びのき、距離を開いた。
「――とどめじゃ、クロノ」
クロノはこくっと無言で頷くと、バスタードソードを水平に構える。陽光を受けた長い剣身が、ぬらりとした黒い光をはなっている。
そのまま突進し、サーベルウルフの口内に鋭い剣先が消えていく。
最後の抵抗を示そうとする巨大狼。
しかし、無駄であった。クロノは暴れまわるその牙を握ると、さらに体内の奥深くへと剣を突き入れる。
怪物の身体から力が抜ける。クロノは剣先を抜くと、すばやく身を離した。
ごぶっとくぐもった声にならぬ断末魔を残し、サーベルウルフは崩れ落ち、痙攣する死体となった。
エクセが、ルカとともに三人のもとへ駆け寄ってくる。
「そちらも終ったようですね」
三人の視線が、彼らの背後にそそがれる。なにかが燃えたような臭気。エクセの背後に、どんよりと焦げついた大地がある。炎の舌が周辺一体を這いまわり、蹂躙しつくしたかのようであった。
そこに何体もの、どす黒く炭化した、獣とも塊ともつかぬ物体が転がっている。
狼は、集団で群れを形成する生物であることは有名な事実である。
サーベルウルフとて例外ではない。エクセとルカは小型の――いや、通常の大きさというべきだろうか――配下のサーベルウルフを、呪文で駆逐していたのだ。
「三人とも、おつかれさまです」
エクセが秀麗な顔に笑みを浮かべて、戦い終えた三人をねぎらう。
ダーは、にやりと不気味な笑みを返し、
「ああ、お疲れじゃわい、6級の人」といった。
――その一瞬。空気が硬化した。
エクセは睫毛が長くて、開いているのかどうかすらわからない眼を、じっとダーにむけている。おそらく睨んでいるのだろう。かれはすっと杖をかまえ、
「ふふ、6級の魔力の切れ味を試してみますか?」
「わしの斧は鋭いぞ。なにせ5級じゃからな」
二人の間に電流のような殺気が流れた。
あわてて他の三人がその間にはいりこみ、おそろしくレベルが低い対決は勃発未満で事なきを得た。
―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
「――さあ、英雄のご帰還じゃわい」
ダーが冒険者ギルドの扉を開くと、たちまち驚愕のざわめきが彼らを包んだ。
それもそうだろう。退治した証として、クロノが持ち帰ったサーベルウルフの牙は、そのまま大剣として用いられそうなほど巨大なものだったからだ。
その牙から推測して、本体はどれほどの大きさだったのか。その衝撃に、冒険者たちは自分たちがそれだけの相手を倒せるか否か、あちこちで討論をはじめた。
「大きい……本当に仕留めたんですね。伝説のジャイアント・サーベルウルフを……」
受付嬢のバニー、チコがぽかんとして見つめている。
「すまんがチコ、鑑定士を呼んでもらえるかの?」
そのダーの声に、チコはハッと我をとりもどすと、ごろりと床に投げ出された牙を観察する。歯根から抉り取られた牙を見て、彼女は高らかに告げる。
「鑑定士さんをおよびするまでもありません。これは途中で折れたものではなく、明らかに根元から切断したものです。本物のサーベルウルフを退治したと認めます。これでチーム『フェニックス』は難易度3級の依頼を解決したことになります」
冒険者ギルドは再び驚きの声に満ちた。
「どうなってるんだ、あの新入りどもは――?」
「ここへ来た当初、まだあいつら6級だったはずだよな」
「それがたった一ヶ月足らずで5級昇進。さらに3級の仕事を片付けちまっただと?」
「なあに、なにかズルでもしてるに違いないさ――」
どん、とダーがその声のするテーブルの上に立った。
「今なにか、おもしろい冗談が聞こえたのう?」
一瞬ぎくりとしたその剣士風の男は、開き直ってこう言い放はなった。
「じ、冗談じゃねえぞ、そんなにホイホイと難易度の高い依頼を解決できるはずがねえ。トリックがあるに違いねえんだ」
「ほほう、ズルをしてるかどうか、退治した本人に直接聞いてみるか?――クロノ」
ずんずんと、無言でダーの元へと近寄るクロノトール。
その巨体、その筋肉、そして異彩をはなつ全身の黒い装備。
本物だけが持つ圧倒的な威圧感を前にして、文句をつけた剣士はふるえあがった。
「この男がお前さんの力を疑っておるらしい。ちょっとこらしめてやりなさい」
無言で頷くクロノ。周囲の人々には、まるで意思を持たぬ殺人ゴーレムのように見えた事だろう。
剣士は青ざめつつも立ち上がった。だが、全身は小刻みに震えている。それが精一杯の抵抗だっただろう。
「ちょっと待った、この争い、預けちゃくれねえか」
そこに、ひとりの重装備の戦士が割って入った。
頬に傷のある、百戦錬磨を絵に描いたような、凄みのある男だ。
「あ、あんた『トルネード』のサブリーダー、ドルフさん!」
「俺の名前は知ってると見えるな。なら、これ以上の騒ぎは無用だ」
『トルネード』の名は、新参者であるダーたちも知っている。
数あるザラマの冒険者グループの中で、最強と目されるチームのひとつだ。
ドルフと呼ばれた頬傷の男は、くるりとダーたちに向き直ると、
「あんたらもこの場は預けてくれ、フェニックスさんよ」
「ほう、ワシらのことを知ってるのか」
「来て早々、飛ぶ鳥を落とす勢いのチーム名を知らぬ方が少ないさ。いずれ、一緒に冒険してみたいものだな」
あやういところを助けられた剣士風の男は、気が抜けたのか、へなへなと椅子に崩れ落ちた。もう文句をつける気力もあるまい。
ドルフはクロノに軽いウィンクを残し、悠然と背を向けて立ち去った。
「あいつら『トルネード』にも一目置かれているのか……」
「つまり本物ってわけだな。強いわけだ……」
ダーたちのパーティーの活躍はめざましいものがあった。その活躍に半信半疑のものも少なからずいたのは、この男の存在が示すとおりである。
しかし、最強チーム『トルネード』のサブリーダーが、いずれ一緒に冒険をしたいと申し出たのだ。彼らの実力に懐疑的であったものも、見る眼が変わろうというものだ。
『フェニックス』は、ギルドの紹介する仕事は、すべて完璧に近いかたちで解決していった。
特に怪物退治に関しては、無類の強さを誇った。それにともない、またたくまにランクも上昇。
今ではエクセ=リアンを除いた全員が5級になっている。
なおエクセはサボり期間が長すぎたため、いまだにランク6級である。そのせいでダーにいじられつづけ、多少、その秀麗な顔に翳りが見えるときもある。
「しかしオレたち、確実に強くなってるな」
実感をこめてコニンがしみじみとつぶやく。
「……うん…あんなでかいの、今まで倒せなかった……」
「これもエクセさん、ダーさんのご指導のたまものですわ」
「本当にルカはいい娘ですね。どこかの樽とは大違いです」
エクセに頭を撫でられて、素直に微笑むルカ。
そう、確かにここまでは、パーティーは順調に成長しているといっていい。
「しかし、足りんな……。まだ、足りん…」
ダーは内面の焦燥を表すように、つぶやく。
「あまり焦ってはいけません、我々は着実に強くなっています」
諭すようにエクセがダーの肩をたたく。
「……そうじゃな、おぬしの言うとおりじゃ。まずはそのことを喜んで、今日は乾杯といくか」
テーブルに酒が配られ、みんなの顔がほころぶ。
エクセだけはいつもの果実水だ。
ダーも酒がまわったか、やがて上機嫌になって、皆をねぎらった。
しかし、本心は違う。ダーは焦燥感でいっぱいだった。
(ワシは見てしまった。あの異世界勇者の力を)
どうすれば、あの領域にまで達することができるのか。
――そしてあの、ジェルポートに現れた黒い魔獣。
あのクラスの化け物が現れたとき、勝てる自信はいまだにない。
どうすればいいのか。ダーはジョッキを片手に仲間を見やり、思う。
どうすれば、この仲間たちを守ることができるだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる