燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

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第二章

コニンの危機? その2

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 勝負はきっかり、正午から開始された。

「これよりコーニリィン・ニルフィン嬢の『将来』を賭けた闘いを開始する」

 ダーが高らかに宣言する。
 勝負方法は、いたってシンプルなものだった。
 地面に打ち込んだ木の杭の上に林檎をのせ、それを狙って交互に撃つ。
 命中するたび、自分とリンゴの距離を少しずつ開いていき、先に外した方が負け。

「――悪いけどこの勝負、オレが負けるわけないから」

「その余裕もいまのうちですよ」

 どちらもその双眸に、熱い闘志を燃やしている。
 ダーは天を仰ぎ見た。
 無窮の蒼空はあざやかに澄みわたり、風もあまりない。
 天候に左右されないとなると、偶発的な事象が起きにくい状況である。
 純粋な弓の技量が問われる対決となりそうだった。

「まずはオレからだな」

 先行はコニンである。まずは互いに、的から十歩ほど離れた距離から始める。
 普通の的と違い、リンゴの表面積は小さい。ほんの十センチ程度の的を確実に射抜くのは、弓の達人でも難しいとされている。しかも球体であり、的としては不向きである。コロコロと地面に落下してしまう危険性が高いので、動かないように固定はしている。
 矢が舞った。ぴゅんと風が不満げな声を上げた。
 リンゴのど真ん中を、当然のような顔をして射抜くコニン。

「目をつぶっても当てられるぜ」とにんまり。

 続いてアルガスも難なく命中。

「――当然ですね。もっと一気に距離を広げてもいいですよ」

 林檎からの距離は、両者とも五歩、六歩と広がっていく。
 互いに一歩も譲らないとは、まさにこのことだった。ふたりとも一回も外さない。
 驚いたことに、ふたりの的からの距離は、すでに二十歩を数えていた。
 もっと早い決着を予想していたダーたちは、意外な展開に戸惑う。

(口だけと思ったが、この若者、思ったよりやりおるわい)

 ダーは瞠目した。
 しかし、このアルガスには何か、ダーは引っかかるものを感じていた。

「シュッ!」とコニンが掛け声と共に射抜けば、

「そらっ!」とアルガスも続く。

 じょじょに的中の正確性に差がつきはじめていた。アルガスの矢が、林檎の中心から逸れはじめたのだ。かろうじて林檎の側面を捉え、両者、二十五歩目の射撃を終えた。
 そして二十六歩目の射撃のときである。先程まで感じなかった風が、肌に感じられる。
 コニンは的中させたが、ついに矢がわずかに風に流され、アルガスが失敗した。

「よし、決着あり! 勝者はコニン!」

「やったあ!!」

 高らかにダーが宣言すると、嬉しさのあまり小躍りするコニン。

「今のはアクシデントだ! やり直しを要求する!」

 納得いかないのがアルガスだ。だが、風で軌道が変わってしまうのは、野外の射撃ではよくある話である。それを計算に入れて撃ったコニンと、それで計算が狂ってしまったアルガス。何度も実戦をかいくぐってきたコニンの経験が生きたのだ。

「勝負は勝負じゃ。おぬしは負けたのだ」

「納得がいかない。もう一回です!」

 ここまで割といい勝負になってしまったのは、よくなかったとダーは思う。
 アルガスは一歩も引く気配がない。これまでほぼ大きな差は両者にはなかったのだ。風によるミス。アルガスは事故のように感じているはずである。簡単に納得はしないだろう。
 無理もないといえばそうだが、男らしくないとも思ってしまう。
 この若者が納得するかたちで事を収める手段はないか。ダーはちょいちょいとエクセを呼び、相談することにした。

「――ならば、こうしては」

 エクセの提案にダーは大いに頷いた。乱暴な手段にも思えたが、これが一番わかりやすいかもしれない。ダーは周囲を徘徊し、手頃な太さの小さな木の棒を拾いあげた。

「よし、ならばルールを変更して次の勝負に入る」

 ダーはここで、大胆な射撃方法を指示した。

「まず、射つのはアルガス、おぬしからじゃ」

 ダーはそういって、コニンをちょいちょいと大木の前に連れ出した。
 そこでリンゴをトン、とコニンの頭の上にのせる。

「落ちぬように、動くなよ」

 ダーの意図を理解したのか、ぐっと親指を立てるコニン。

「さあ、あのリンゴを射抜くのじゃ。まずは距離十歩の位置から――」

「ち、ちょっと待った!」

 アルガスからクレームが入った。

「このやり方で万が一、彼女が大怪我――いや、死んだらどうするつもりです? 私は彼女を連れ帰るために来たのであって、傷物にするつもりは毛頭ありません」

「安心せい、ここには奇跡の担い手ヒーラーがいる。多少の怪我ならすぐ治るし、もしおぬしがコニンを殺してしまったなら、それはおぬしが腕が未熟だったというだけのことじゃ。自業自得じゃな」

 むっとするアルガスに、コニンは怒鳴った。

「いつまでも女々しく言ってるなよ、アルガス! こっちはとっくに覚悟を決めてるんだ。闘う気がないなら、とっとと帰れよ」

 怒鳴ったせいでリンゴがゆれる。コニンはあわてて手で位置を直す。
 女々しいと言われて引き下がれないと思ったか、きっとアルガスはコニンを見返して、

「わかりました。ケガをさせず、勝ちましょう」

 腹が決まったか、アルガスはゆっくりと彼女から十歩の位置に立った。
 セットからドローイング――弓を構える。
 わずかに緊張のせいか、ふるえて見えるな、とダーは思った。
 そしてリリース。
 案の定、矢はわずかに逸れ、リンゴの横をかすめた。

「次はオレの番だな」

 屈託なく笑うコニン、いつもどおりの顔だ。リラックスしている。
 これから自分が失敗する絵など、想像もしてないに違いない。
――そして、射った。
 確信があったのか、矢の行方も見ずに、こっちに拳を突きつけている。
 果たして、リンゴは地に落ちていた――

 正確に、ど真ん中を射抜かれて。

「ウム、この勝負、コニンの勝――」

「ま、待った。こんなのは認められない! もう一回だ、もう一回やらせてくれ! そもそもこの勝負方法はそちら側が言い出したことで、私は事前に一切知らされていなかった。一方的に私が不利な状況での勝負を強いられたのは明かだ。この勝負は対等な条件ではなかったといいたい!」

(長い! 女々しい! もう株を下げまくりじゃなこの男は)

 しかし、この男が諦めてくれないと、勝負は終わらないのだ。
 ダーは申し訳なさげにコニンを見た。

「コニン、もう一回よいか?」

「オレは何回でもいいぜ。オレが負けるわけがない」

 かくして泣きの一回が開始されたのだが――
 アルガスは今度は震えることなく、しっかりと構えた。
 しかしダーには気になる点が見えた。

(む、引き手の肘が、今までより下がって見えるのう)

 そしてアルガスのリリース。
 だが、その矢は空中で弾き返された。

「なっ、なにを!?」

 怒りに燃える目で、アルガスはダーを観た。
 ダーが手にした棒を放ち、空中で矢を叩き落したのだ。

「不正だ! 当るからといって、邪魔をするとは――」

「邪魔ではない。おぬしがコニンを殺すのを止めただけじゃ」

「そんな世迷言を――」

「世迷言ではありません。あの軌道では、どのみちあなたの矢はリンゴに当りませんよ」

 エクセ=リアンが助け舟を出した。
 そして、リンゴを持って、ダーの元に駆けつけたコニンも、

「オッサン、助かったよ。あの軌道からして、俺は一瞬、死を覚悟したから。うん……覚悟はしたけど、やっぱりあんな場で死ぬのは嫌なもんだな」

 苦笑いで頭をかく。しかしダーは真剣な目をして、

「当り前じゃ。こんなところで、大切なお前さんという存在を失ってたまるか」

「たたた、たいせつな――?」

 わずかにコニンが赤面する。

「こんな茶番認められない。このような卑怯な徒に、私が負けるわけがないのだ」

 アルガスは怒りに燃える目で、ダーを睨みつける。
 負けず嫌いはダーも同じだが、それでもこの若者の抱えているものとは質が違う。ダーは、なんとなく自己のなかで漠然と抱えていたものを理解した。やはりこの若者に、コニンを任せることはできない。

「のうコニン、あの青年は――」

「なっ、なんだオッサン、なんでもないぞ!」

 なにやらコニンのようすが変だ。急にもじもじして、こちらを見ようとしない。
 その一瞬で、コニンの変化を察したものがいた。
 ルカだった。彼女は一瞬でコニンの近くへ駆け寄ってくる。
 そしてルカは、そそくさとコニンの耳元に口を当てるや、

「……いいですか、今から私のいう言葉を、彼に向かって言ってください……」

 なにやらボソボソと二人は小声で言い合っていたが、突然、

「そ、そんなこと言えるか!」

 と赤面しながらコニンが叫んだ。
 しかしルカが強引に説き伏せたと見え、不承不承うなづいているコニン。
 なにが始まるのか、他のメンバーも、当然アルガスも理解できない。
 やがて意を決したか、決然と立ったコニンは、きっとアルガスを睨む。

「い、いいか、一度しかいわないからよくきけ」

「なんでしょうか?」

「ああアルガス、オレ――ワタシには、他にすきなひとがいるんだ」

 アルガスはきょとんと首をかしげた。そして周囲を見渡し――

「誰のことです。他といっても、ここには三人の美女と、オイボレ一体しかいないじゃないですか」

「そのオイボレ……いや、オッサン、いや、このドワーフがオレの好きな人なんだ!」
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