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第五話
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ユリアンナは、サーシャが秘密を暴露しそうだと感づいた。ならば、バレない様に協力者が必要だ。
「色々あって、あなた達を交換したの」
6歳の子に話す内容ではないが、淡々とユリアンナは語り始めた。プラシッドとこうやって話せるのはきっと、今しかない。
「見てわかるでしょう。あなたがどれだけ恵まれた環境にいるか」
ユリアンナは、シューラを見つめ言うも、プラシッドにとって今の環境は恵まれているとは思っていなかった。
辛い魔法の訓練を受けさせられ、大好きな母親に自分の子ではないと言われたのだ。本当だろうと嘘だろうと、そんな事を言われれば傷つく。
ユリアンナは、チラッとプラシッドを見てわかっていないなと思った。
「わかってないようね。シューラを見て。爵位があると言っても男爵だと、子供に服を買ってあげるのもままならないのよ。もうあの子は忘れちゃったかもしれないけど、毎月ここに来るのを楽しみにしていたわ。何せ美味しいお菓子がたくさん食べられるからね。あなたが当たり前に与えられているものは、侯爵家だからよ。お金があるから」
恵まれた環境というのがそういう意味なのかと、ユリアンナの言葉を聞いてわかるも、ピンとこない。
他と比べる様な出会いは、ユリアンナの家族との交流ぐらいだった。
「でもそうね。あなたが私と暮らしたいと願うのなら父親に話してみてはいかが? きっとちゃんと調べてくれるわ。そうすれば私の元へ、本当の母の元へ戻ってこれる。でも期待はしないでね」
「き、期待?」
「本来ならあなたが嫡男。だけど男児が生まれたの。今戻ってきても、本当の父親に受け入れられるかわからないわ」
「え……」
意味がわからなかった。本当の子だと言っておきながら歓迎はしないと言われている気がするのだ。もう代わりはいるからお前は必要ないと。
誰からも必要とされていない。そう思うと自然と涙が出てきた。
ユリアンナは、そっとプラシッドを抱きしめる。
「愛してるわ、プラシッド。あなたには幸せになってほしいの。ヴェイルーダ家に居れば何でも手に入るのよ」
この人は嘘つきだ。プラシッドは、両親に愛されたいと思っていた。愛してくれていたと思っていたサーシャには愛想を尽かれ、父親は魔法の才能がない自分には見向きもしてくれない。
だからといって、母だと言う彼女の元へ行きたいとも思わない。
サーシャは、ユリアンナの思惑通り眠ってしまい、ユリアンナとシューラはお茶の席に招待された。
「今日はありがとう。ちょっと色々あってね。サーシャが落ち込んでいたんだ」
「いえ。突然明日来て欲しいと言われて驚きはしましたが、落ち着いたら会いたいと思っていましたので、迷惑とは思っておりませんわ」
シューラとプラシッドは、いっぱいお菓子が乗ったテーブルの席に二人で座り、おやつを食べていた。ユリアンナは、アドルフに呼ばれて少し離れた場所で話し合っている。
無言でぱくぱくと食べるシューラに驚きつつも、二人の事が気になりちらちらとプラシッドは盗み見ていた。
「そうですか。今まで妻と仲良くして頂きありがとうございます」
「え……」
そう言ってアドルフは、ユリアンナに紙袋を渡す。驚くユリアンナは、どういう事とアドルフを見た。
「手切れ金です。申し訳ありませんが、距離を置いて下さい」
「……サーシャが何か言ったのですか」
「いえ。まあいずれ知る事になるのでお伝えしますが、息子のプラシッドの婚約が決まりました」
ユリアンナは、アドルフのセリフにハッとする。
シューラとプラシッドを婚約させようとしていた事がバレていると。
「そうですか。それはおめでとうございます」
そう言って軽くお辞儀をすると、ではとアドルフが去っていく。
ユリアンナは、さっきプラシッドと話せてよかった思った。彼女にしてみれば、プラシッドが誰と婚約しようがいいのだ。だって、侯爵令息なのは変らないのだから。
「さあ、シューラ帰るわよ」
「えぇ。もっと食べたい」
「では包んでもらいましょう」
ユリアンナは恥も外聞もなく、テーブルにあったお菓子を持ち帰りたいと近くに居たメイドに伝え持って帰ろうとする姿にヴェイルーダ家に勤める者達が驚くも、アドルフに確認すれば差し上げろと言うのでそのようにした。
彼女にしてみれば、もう来ることもないのだ。頂ける物は頂いていくだけだ。
「ではプラシッド令息。親友のサーシャを宜しくお願いね。また会える日を楽しみにしているわ」
そうほほ笑んで、ユリアンナは去っていく。残されたプラシッドに一抹の不安が残った。
見てしまったのだ。アドルフがユリアンナに紙袋を手渡すのを。あの行為が何を示すのかわからないが、彼にもしかして本当にと思わせるのには十分な出来事だった。
その後目を覚ましたサーシャは、シューラに大切な事を伝えていないと泣きわめいた。おかしくなってしまったと誰もが思い、サーシャは別邸で休養させる事となる。
母のサーシャと離れるのは寂しいと訴えるプラシッドだが、お前がちゃんとすれば、サーシャは元気になると言われ一緒にいる事をあきらめるしかなかった。
そしてプラシッドは、婚約者となる王女クラリサと宮殿で運命の出会いを果たす。自分より2歳年下なので4歳だが、そう思えないほどしっかりした子供だった。聞けば、5歳になっていないのにすでに生活魔法は使いこなせるという。
プラシッドは、自分だけが他の人より早く魔法の訓練をさせられていたわけではなかった事に驚く。その時に気が付いた。特別というモノは存在するのだと。
ユリアンナが言っていた事もなんとなくわかった。クラリサは、自分より上等だと思われる衣服を身に着けていたのだ。シューラとは雲泥の差。
プラシッドは、その日から本気で思い悩む。母親がユリアンナなのかと。その答えが出ないまま月日は流れていく。
9歳になりあと一年で、魔力測定の歳だ。しかし魔力量に関しては、すでに答えは出たようなものだった。婚約者で2歳年下のクラリサの方が、出来がいい。
生活魔法を使い、魔力量を増やす訓練もしているというのに、一向にプラシッドの魔力量は増えた気がしない。
まるでヴェイルーダ家の血は何も受け継がなかったと、物語っているようだ。
しかしプラシッドは、認めたくなかった。いや認めたとしても、ユリアンナが言っていた恵まれた環境を今更捨てる事などできやしない。
魔力がどうだと言われようと、この地位をすてるよりましだ。
気がかりなのは、サーシャの事。気がかりと言っても、彼女が本当の事を語るのではないかという事だ。今はそれが一番恐ろしい。
彼の中でのサーシャの立場は、正反対になっていたのだった。
「色々あって、あなた達を交換したの」
6歳の子に話す内容ではないが、淡々とユリアンナは語り始めた。プラシッドとこうやって話せるのはきっと、今しかない。
「見てわかるでしょう。あなたがどれだけ恵まれた環境にいるか」
ユリアンナは、シューラを見つめ言うも、プラシッドにとって今の環境は恵まれているとは思っていなかった。
辛い魔法の訓練を受けさせられ、大好きな母親に自分の子ではないと言われたのだ。本当だろうと嘘だろうと、そんな事を言われれば傷つく。
ユリアンナは、チラッとプラシッドを見てわかっていないなと思った。
「わかってないようね。シューラを見て。爵位があると言っても男爵だと、子供に服を買ってあげるのもままならないのよ。もうあの子は忘れちゃったかもしれないけど、毎月ここに来るのを楽しみにしていたわ。何せ美味しいお菓子がたくさん食べられるからね。あなたが当たり前に与えられているものは、侯爵家だからよ。お金があるから」
恵まれた環境というのがそういう意味なのかと、ユリアンナの言葉を聞いてわかるも、ピンとこない。
他と比べる様な出会いは、ユリアンナの家族との交流ぐらいだった。
「でもそうね。あなたが私と暮らしたいと願うのなら父親に話してみてはいかが? きっとちゃんと調べてくれるわ。そうすれば私の元へ、本当の母の元へ戻ってこれる。でも期待はしないでね」
「き、期待?」
「本来ならあなたが嫡男。だけど男児が生まれたの。今戻ってきても、本当の父親に受け入れられるかわからないわ」
「え……」
意味がわからなかった。本当の子だと言っておきながら歓迎はしないと言われている気がするのだ。もう代わりはいるからお前は必要ないと。
誰からも必要とされていない。そう思うと自然と涙が出てきた。
ユリアンナは、そっとプラシッドを抱きしめる。
「愛してるわ、プラシッド。あなたには幸せになってほしいの。ヴェイルーダ家に居れば何でも手に入るのよ」
この人は嘘つきだ。プラシッドは、両親に愛されたいと思っていた。愛してくれていたと思っていたサーシャには愛想を尽かれ、父親は魔法の才能がない自分には見向きもしてくれない。
だからといって、母だと言う彼女の元へ行きたいとも思わない。
サーシャは、ユリアンナの思惑通り眠ってしまい、ユリアンナとシューラはお茶の席に招待された。
「今日はありがとう。ちょっと色々あってね。サーシャが落ち込んでいたんだ」
「いえ。突然明日来て欲しいと言われて驚きはしましたが、落ち着いたら会いたいと思っていましたので、迷惑とは思っておりませんわ」
シューラとプラシッドは、いっぱいお菓子が乗ったテーブルの席に二人で座り、おやつを食べていた。ユリアンナは、アドルフに呼ばれて少し離れた場所で話し合っている。
無言でぱくぱくと食べるシューラに驚きつつも、二人の事が気になりちらちらとプラシッドは盗み見ていた。
「そうですか。今まで妻と仲良くして頂きありがとうございます」
「え……」
そう言ってアドルフは、ユリアンナに紙袋を渡す。驚くユリアンナは、どういう事とアドルフを見た。
「手切れ金です。申し訳ありませんが、距離を置いて下さい」
「……サーシャが何か言ったのですか」
「いえ。まあいずれ知る事になるのでお伝えしますが、息子のプラシッドの婚約が決まりました」
ユリアンナは、アドルフのセリフにハッとする。
シューラとプラシッドを婚約させようとしていた事がバレていると。
「そうですか。それはおめでとうございます」
そう言って軽くお辞儀をすると、ではとアドルフが去っていく。
ユリアンナは、さっきプラシッドと話せてよかった思った。彼女にしてみれば、プラシッドが誰と婚約しようがいいのだ。だって、侯爵令息なのは変らないのだから。
「さあ、シューラ帰るわよ」
「えぇ。もっと食べたい」
「では包んでもらいましょう」
ユリアンナは恥も外聞もなく、テーブルにあったお菓子を持ち帰りたいと近くに居たメイドに伝え持って帰ろうとする姿にヴェイルーダ家に勤める者達が驚くも、アドルフに確認すれば差し上げろと言うのでそのようにした。
彼女にしてみれば、もう来ることもないのだ。頂ける物は頂いていくだけだ。
「ではプラシッド令息。親友のサーシャを宜しくお願いね。また会える日を楽しみにしているわ」
そうほほ笑んで、ユリアンナは去っていく。残されたプラシッドに一抹の不安が残った。
見てしまったのだ。アドルフがユリアンナに紙袋を手渡すのを。あの行為が何を示すのかわからないが、彼にもしかして本当にと思わせるのには十分な出来事だった。
その後目を覚ましたサーシャは、シューラに大切な事を伝えていないと泣きわめいた。おかしくなってしまったと誰もが思い、サーシャは別邸で休養させる事となる。
母のサーシャと離れるのは寂しいと訴えるプラシッドだが、お前がちゃんとすれば、サーシャは元気になると言われ一緒にいる事をあきらめるしかなかった。
そしてプラシッドは、婚約者となる王女クラリサと宮殿で運命の出会いを果たす。自分より2歳年下なので4歳だが、そう思えないほどしっかりした子供だった。聞けば、5歳になっていないのにすでに生活魔法は使いこなせるという。
プラシッドは、自分だけが他の人より早く魔法の訓練をさせられていたわけではなかった事に驚く。その時に気が付いた。特別というモノは存在するのだと。
ユリアンナが言っていた事もなんとなくわかった。クラリサは、自分より上等だと思われる衣服を身に着けていたのだ。シューラとは雲泥の差。
プラシッドは、その日から本気で思い悩む。母親がユリアンナなのかと。その答えが出ないまま月日は流れていく。
9歳になりあと一年で、魔力測定の歳だ。しかし魔力量に関しては、すでに答えは出たようなものだった。婚約者で2歳年下のクラリサの方が、出来がいい。
生活魔法を使い、魔力量を増やす訓練もしているというのに、一向にプラシッドの魔力量は増えた気がしない。
まるでヴェイルーダ家の血は何も受け継がなかったと、物語っているようだ。
しかしプラシッドは、認めたくなかった。いや認めたとしても、ユリアンナが言っていた恵まれた環境を今更捨てる事などできやしない。
魔力がどうだと言われようと、この地位をすてるよりましだ。
気がかりなのは、サーシャの事。気がかりと言っても、彼女が本当の事を語るのではないかという事だ。今はそれが一番恐ろしい。
彼の中でのサーシャの立場は、正反対になっていたのだった。
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