居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
57 / 58

第56話

しおりを挟む
 「すまなかった」

 二人っきりになり、目が合うと同時にフランシスク様が言った。

 「えーと。フランシスク様は何も悪くありません」
 「いいや……」

 フランシスク様は、違うと首を横に振る。

 「私が、君の両親に手紙を送ったんだ。その時は、相手がウルミーシュ子爵令嬢だと知らなかった。知っていたら、違う方法を取っていた。そのせいで、君の両親が亡くなった」

 確かにプロンテヌ侯爵もそう言っていたけど、フランシスク様のせいではないわ。

 「あれは、ガストン様のせいよ! きっと、そのうち同じような事が起きていたに違いないわ! だから自分を責めないで下さい」
 「ありがとう。でも、あれは善意で行ったわけじゃないんだ」

 フランシスク様は、泣きそうな顔つきでそう言った。
 善意ではないってどういう意味かしら?

 「君は覚えていないんだろうなぁ」

 私から目線を外すと、語り出す。

 「私は姉から君の事を聞いてね。それで、父にお願いしてプロンテヌ侯爵邸で開催されたパーティーに参加したんだ」
 「パーティー?」
 「同じ年ごろの令嬢と令息が集まったパーティーだよ」
 「あぁ!」

 あれね。寂しいだろうと、開催してくれたパーティー。でも経営家科の終了間近だったのよね。楽しかった事は楽しかったけど、全員知らない人達ばかりだった。その中に、フランシスク様がいたの? 初耳だわ。

 「えーと。パーティーを開いてくれたのは覚えているけど、そこにフランシスク様が居たのは覚えていないわ。ごめんなさい」
 「いや、結局名乗らず、挨拶しただけだからね」

 だよね。セセリア様の弟だと聞いていれば、覚えているはずだもの。

 「実は、あのパーティー、君のお婿さん探しでもあったんだ」
 「えぇ!」

 そう言えば、気になった者はいたかと聞かれたっけ。あの時なんと答えたかしら?
 楽しかったけど、みんな押しが強かったから……。うーん。思い出せない。

 「私は、君の婚約者になれなかったから、約束通りにダマレドゴ嬢と婚約したんだ」
 「え? 約束?」
 「父に少し待ってもらったんだ。その……会って一目惚れして帰って来たのに、彼女と婚約したんだ」
 「え……」

 どういう事?

 「ごめん。困らせているよね」
 「え? いえ。えーと、ちょっと意味がわからなくて」
 「パーティーで君に会ってから惚れているって事。現在進行形」

 顔を真っ赤にし、目線を斜め下に落としたままフランシスク様が、意味不明の言葉を発した。
 えーと。セセリア様から私の事を聞いたフランシスク様は、密かに開催された私の婿探しパーティーに参加し、私を好きになったけど、私に選ばれなかったからユゲット嬢と婚約した?
 えー!? 何それ。
 う。顔が火照ってる。きっと、私も顔が真っ赤だ。

 「プロンテヌ侯爵がチャンスをくれたんだ。君が私を好きになったのなら、婚約を認めると。期限は、私達が卒業するまでの間。それまでに君を惚れさせられなければ、諦めろと言われたんだ」
 「………」

 何それ。私の意思の確認はなしですかぁ!
 でもユゲット嬢が言っていたのは、半分当たっていたのね。フランシスク様が私を好きだと勘が付いていた。

 「じゃ、両親が死んだ事故の責任とかではなくて、その、私を好きだからって事なのよね」

 真剣な顔つきでフランシスク様が頷く。

 「君を困らせたくはない。もし受け付けられないのなら言ってほしい。そうでなければ、チャンスがほしい」
 「う……」

 そう言われても。両親の事故の事はフランシスク様のせいだとは、微塵も思っていない。それどころか、解決に手を貸してくれた恩人だ。
 彼の事は嫌いではないけど、ガストン様と結婚すると思っていたし、両親が死んだ後は彼と婚約破棄する事しか考えてなかったわ。
 いきなりそういう目で見れといわれたも……。

 「その感謝すれど嫌う事なんてあり得ません。ただそういう目で見た事はないので……」
 「では、口説き来ていいですか?」

 うん? 口説きに来る? ここに?
 いや、そんな、すがる目で見られても困る。

 「えーと。噂にならない程度に……」
 「はい! では今日は帰ります。もし何か困った事があったら何でも相談してほしい。では、失礼します」
 「あ、はい。ありがとう」

 フランシスク様は、執務室を出て行った。
 騒がしかった執務室は、私だけとなりシーンと静まり返っている。
 ルトルン伯爵とガストン様、エルダ夫人が連行される騒ぎがあったなのど嘘みたい。
 お父様とお母様が亡くなった事故の真相が究明された。

 私は、ソファーに腰を下ろす。
 プロンテヌ侯爵が動いてくれなかったら私はどうなっていたのかしらね。
 あぁ、二人にお礼を言い忘れたわ。

 あれ?
 頬に涙が伝ている。泣きたいわけじゃないのにな。
 溢れてくる涙を拭いながら私は、執務室で一人泣くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

虐げられてきた令嬢は、冷徹魔導師に抱きしめられ世界一幸せにされています

あんちょび
恋愛
 侯爵家で虐げられ、孤独に耐える令嬢 アリシア・フローレンス。 冷たい家族や侍女、無関心な王太子に囲まれ、心は常に凍りついていた。  そんな彼女を救ったのは、冷徹で誰も笑顔を見たことがない天才魔導師レオン・ヴァルト。  公衆の前でされた婚約破棄を覆し、「アリシアは俺の女だ」と宣言され、初めて味わう愛と安心に、アリシアの心は震える。   塔での生活は、魔法の訓練、贈り物やデートと彩られ、過去の孤独とは対照的な幸福に満ちていた。  さらにアリシアは、希少属性や秘められた古代魔法の力を覚醒させ、冷徹なレオンさえも驚かせる。  共に時間を過ごしていく中で、互いを思いやり日々育まれていく二人の絆。  過去に彼女を虐げた侯爵家や王太子、嫉妬深い妹は焦燥と嫉妬に駆られ、次々と策略を巡らせるが、 二人は互いに支え合い、外部の敵や魔導師組織の陰謀にも立ち向かいながら、愛と絆を深めていく。  孤独な少女は、ついに世界一幸福な令嬢となり、冷徹魔導師に抱きしめられ溺愛される日々を手に入れる――。

断罪するのは天才悪女である私です〜継母に全てを奪われたので、二度目の人生は悪逆令嬢として自由に生きます

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*完結済み、ハッピーエンド 「今まで役に立ってくれてありがとう。もう貴方は要らないわ」  人生をかけて尽くしてきた優しい継母。  彼女の正体は『邪魔者は全て排除。常に自分が一番好かれていないと気が済まない』帝国史上、最も邪悪な女であった。  継母によって『魔女』に仕立てあげられ、処刑台へ連れて行かれることになったメアリー。  メアリーが居なくなれば、帝国の行く末はどうなってしまうのか……誰も知らずに。  牢の中で処刑の日を待つ彼女の前に、怪しげな男が現れる。 「俺が力を貸してやろうか?」  男は魔法を使って時間を巻き戻した。 「もう誰にも屈しないわ。私は悪逆令嬢になって、失った幸せを取り戻すの!」  家族を洗脳して手駒にする貴族。  罪なき人々を殺める魔道士。  そして、私を散々利用した挙句捨てたお義母様。  人々を苦しめる悪党は全て、どんな手を使ってでも悪逆令嬢である私が、断罪、断罪、断罪、断罪、断罪するのよ!  って、あれ?  友人からは頼りにされるし、お兄様は急に過保護。公爵様からも求婚されて……。  悪女ムーブしているのに、どうして回帰前より皆様に好かれているのかしら??? ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 〇約十一万文字になる予定です。 もし「続きが読みたい!」「スカッとした」「面白い!」と思って頂けたエピソードがありましたら、♥コメントで反応していただけると嬉しいです。 読者様から頂いた反応は、今後の執筆活動にて参考にさせていただきます。

姉の厄介さは叔母譲りでしたが、嘘のようにあっさりと私の人生からいなくなりました

珠宮さくら
恋愛
イヴォンヌ・ロカンクールは、自分宛てに届いたものを勝手に開けてしまう姉に悩まされていた。 それも、イヴォンヌの婚約者からの贈り物で、それを阻止しようとする使用人たちが悪戦苦闘しているのを心配して、諦めるしかなくなっていた。 それが日常となってしまい、イヴォンヌの心が疲弊していく一方となっていたところで、そこから目まぐるしく変化していくとは思いもしなかった。

死にかけ令嬢の逆転

ぽんぽこ狸
恋愛
 難しい顔をしたお医者様に今年も余命一年と宣告され、私はその言葉にも慣れてしまい何も思わずに、彼を見送る。  部屋に戻ってきた侍女には、昨年も、一昨年も余命一年と判断されて死にかけているのにどうしてまだ生きているのかと問われて返す言葉も見つからない。  しかしそれでも、私は必死に生きていて将来を誓っている婚約者のアレクシスもいるし、仕事もしている。  だからこそ生きられるだけ生きなければと気持ちを切り替えた。  けれどもそんな矢先、アレクシスから呼び出され、私の体を理由に婚約破棄を言い渡される。すでに新しい相手は決まっているらしく、それは美しく健康な王女リオノーラだった。  彼女に勝てる要素が一つもない私はそのまま追い出され、実家からも見捨てられ、どうしようもない状況に心が折れかけていると、見覚えのある男性が現れ「私を手助けしたい」と言ったのだった。  こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

婚約者と親友に裏切られた伯爵令嬢は侯爵令息に溺愛される

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のマーガレットは、最近婚約者の伯爵令息、ジェファーソンの様子がおかしい事を気にして、親友のマリンに日々相談していた。マリンはいつも自分に寄り添ってくれる大切な親友だと思っていたマーガレット。 でも… マリンとジェファーソンが密かに愛し合っている場面を目撃してしまう。親友と婚約者に裏切られ、マーガレットは酷くショックを受ける。 不貞を働く男とは結婚できない、婚約破棄を望むマーガレットだったが、2人の不貞の証拠を持っていなかったマーガレットの言う事を、誰も信じてくれない。 それどころか、彼らの嘘を信じた両親からは怒られ、クラスメイトからは無視され、次第に追い込まれていく。 そんな中、マリンの婚約者、ローインの誕生日パーティーが開かれることに。必ず参加する様にと言われたマーガレットは、重い足取りで会場に向かったのだが…

【完結】猫を被ってる妹に悪役令嬢を押し付けられたお陰で人生180度変わりました。

本田ゆき
恋愛
「お姉様、可愛い妹のお願いです。」 そう妹のユーリに乗せられ、私はまんまと悪役令嬢として世に名前を覚えられ、終いには屋敷を追放されてしまった。 しかし、自由の身になった私に怖いものなんて何もない! もともと好きでもない男と結婚なんてしたくなかったし堅苦しい屋敷も好きでなかった私にとってそれは幸運なことだった!? ※小説家になろうとカクヨムでも掲載しています。 3月20日 HOTランキング8位!? 何だか沢山の人に見て頂いたみたいでありがとうございます!! 感想あんまり返せてないですがちゃんと読んでます! ありがとうございます! 3月21日 HOTランキング5位人気ランキング4位…… イッタイ ナニガ オコッテンダ…… ありがとうございます!!

処理中です...