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第71話~美味しい実りのキミ

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 「あ、そうだ! この魔法陣に関しての文献があったんだ!」

 ライマルさんが、思い出したよう突然叫ぶと、待っていてと言って実りの鳥を連れて家の中へ入って行きました。すぐに戻って来たライマルさんは、何やら紙を持ってます。
 それをユージさんは受け取り、広げました。
 読めない文字で書かれていましたが、そこには魔法陣が書かれていました。そして、小さな魔法陣の中に鳥の絵が描かれています!

 「これってもしかして……」

 紙と魔法陣を見比べて、ユージさんは頷く。

 「ライマルさん。その実りの鳥をこの円の中に置いて頂いていいですか?」

 「え!? 逃げられてしまいますよ!」

 「逃げたら捕まえますので、お願いします」

 ユージさんが、小さい魔法陣の一つを指差して言うと、渋々ライマルさんは言われた通り、抱っこしていた実りの鳥を置いた。
 そうしたらサーッと小さな魔法陣に、光が上に駆け上がったのです!
 魔法陣が発動した合図です。

 「わぁ! ユージさん凄い!」

 「どうなったのだ?」

 ライマルさんは、不思議そうに実りの鳥を見ている。
 実りの鳥は、騒ぐ事無くその場所に留まっているからです。

 「えっと。小さい魔法陣が起動したんです。取りあえず、餌を五つの残りの円に置いてもらっていいですか?」

 「あ、なるほど!」

 ユージさんの言葉に私は納得しました!
 この小さな魔法陣の発動条件は、この実りの鳥に違いありません! 小さな魔法陣に餌で呼び寄せて、発動させようという作戦のようです!
 ライマルさんは、言われた通りに餌を五か所に置きました。
 暫くすると、どこからともなく、鳴き声が聞こえ始めました!

 「コケ・コ・コ・コッ!」

 餌目掛けて実りの鳥は、もうスピードで現れました!
 そして各々、餌にありつきます。
 そうするとどうでしょう! 大人しくその場に留まって居ます!
 あれ? とどまったけど光が上がらない?

 「何で発動しないの?」

 「もしかして」

 ユージさんは、何かを思いついたようで、実りの鳥に近づきますが、ユージさんが近づいても逃げません。そして、羽根に魔力を注ぎ込んで行きます。すると、魔法陣に下から上に光が駆け上がりました!
 発動条件は、実りの鳥の羽根の魔法陣も関係していたようです。
 こうしてすべての実りの鳥の羽根の魔法陣に魔力を注ぎ込むと、大きい魔法陣にも下から上に光が駆け上がりました!

 「発動した!」

 「ふう。何とかなったね」

 「ありがとう。ユージさん!」

 ユージさんは、にっこり頷きました。

 「いやぁ、流石、錬金術師様! 実りの園が復活しました!」

 よく見ると透明なネットが張られています! あれがあると実りの鳥は、外には出られないようですが、その中で自由に歩き回っています。でも、人は通れるみたい。
 ライマルさんは、気にせずネットの中に普通に入って行きました。素通りです。

 「凄い仕組みだね」

 「うん」

 ユージさんが言う言葉に、私も頷きました。
 どうなるか知らなかったけど、上手くいってよかったです。

 「さあ、お二人共『実りのキミ』を召し上がって行って下さい」

 家のドアまで来たライマルさんは、私達に振り返ってそう言いました。お言葉に甘えて頂く事にします。
 お家は、丸太で出来たお家で、何かカッコいいです!
 中も木のテーブルにイス。そのイスに並んで座りました。

 「さあ、召し上がれ」

 暫くしてライマルさんが持って来たのは、ゆで卵をスライスしたものでした。スプーンで食べるらしく、横に添えてあります。
 実りの『キミ』とは、そう言う意味だったのね! 玉子の黄身!

 「近くの湯が沸く所で温めたものです」

 ライマルさんの言葉に私達は驚いて、顔を見合わせました。
 どうやら近くに、温泉が湧いているようです。これは温泉卵をスライスしたものだったのです!

 「「頂きます」」

 私達は声を揃えて言うと、スプーンで黄身をすくいパクッと一口。
 げっほげっほ!!
 私達はむせ返りました!

 「お口に合いませんでしたか!?」

 二人同時にむせ返った為、ライマルさんは慌ててそう言いましたが、私は違うと、首を横に振ります。

 「いえ、塩加減がちょうどよくとても美味しいです。ちょっと喉にひっついただけです」

 ユージさんが、そう答えてくれました。
 味は、ユージさんが言った通り、ちょうどいい塩加減で美味しいのですが、喉を通った途端、あの魔石が入った水を飲んだ時と同じく、喉がカーっと熱くなったのです!

 「近くの温泉は、魔石入りのようだね」

 「うん。でもどうしようか……」

 ユージさんの言葉に頷いて、私は聞いた。
 水ならごくごくと我慢して飲めますが、黄身はどうしてもむせそうです。

 「すみません。お水頂いていいですか?」

 「そんなにくっつきます?」

 ユージさんのオーダーに、ライマルさんが驚きます。

 「す、すみません。美味しいので頂きたいのですが、普段食べないもので……」

 「わかりました。お持ちします」

 その後、水を飲みながら美味しく頂きました。

 「これお土産です!」

 そう言ってライマルさんから頂いたのは、温泉卵二個。

 「ありがとうございます。後で頂きます」

 「ありがとう。ごちそうさまでした」

 ユージさんと私はお礼をいい、手を振るライマルさんに見送られその場を後にします。

「コケ・コ・コ・コッ!」

 実りの鳥も「またね」と言っているようです。
ここは、実りの養鶏場ようけいじょうと名付けました。
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