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第4章 姿を現した魔術師

第30話

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 「助太刀してきます」

 ウリッセは、そう名乗りを上げた。

 「いや、俺達が行く! 相手は剣を持っているからな。すまないがウリッセさん。浮遊の術をお願いします。アージェ、行くぞ!」
 「はい!」

 オルソがアージェに声を掛けると、剣を手に持ち返事を返した。
 二人はフワッと浮かび上がる。

 「お気を付けて!」
 「すみません! お願いします」

 オルソとアージェは、頷いて二人の側に向かう。
 フランクは剣がないので、一緒に待機だ。
 だが魔術師は二人を確認すると、ヘリムを襲うのをやめて、剣を持ったまま凄いスピードで離れて行く!

 「逃げ出した!?」

 まさかの行為にアージェは驚くもオルソは安堵する。
 三人は、リーフ達のいる地上に戻った。
 そこに、消火活動を終えたダミアンも合流する。

 「すみません。ダミアンさん。結局一人でさせてしまって……」
 「いや、問題ない」

 軽く頭を下げ、ウリッセが謝った。

 「それよりあの魔術師は、剣を持っていなかったか?」
 「すみません。私のです……」
 「奪われたのか!?」
 「はい……」

 ダミアンに問われ、フランクは頭を下げる。

 「で、彼は何者だ」

 ダミアンが、ヘリムを見て聞いた。
 ウリッセがポツリと呟く。

 「魔獣とか言っていたような……」
 「あ!」

 アージェが、しまったという顔つきをするも、それを聞きダミアンは、フランクを見た。いつも下げている剣がある場所だ。

 「まさか本当に彼は魔獣か? だったらあの魔術師は剣の事を知っていた事になる!」

 ダミアンもそこに気が付いた。
 全員がそれに頷く。
 
 「事は急を要するな。私は直接陛下にお会いして、事を伝える。オルソ、後は頼んだぞ」
 「すまない。宜しく頼む」

 ダミアンは、後の事は託し、城に向かって飛び立った。

 「くっそ!」

 フランクは、ジッと自分の開いた右手を見つめ、ギュッと握り叫んだ!
 彼は、あまり感情を普段出さない。余程悔しかったのだろう。
 アージェ達は、なんと声をかけていいかわからなかった。

 「さてどうしたものか……」

 オルソが、ボソッと子供たちが乗る馬車を見て言った。
 馬車は六人乗りだ。
 子供達を含めると、合計八人だった。
 御者を引いても一人多い。

 「あ。僕、飛んで帰りましょうか?」
 「何を言ってます!」

 リーフが一人で帰ると言うと、アージェが止めた。

 「では私が、ナディアを抱っこ……」
 「いえ。それには及びません。私とリーフさんが運転席に乗ります」

 ウリッセが娘のナディアを抱っこすると言うのに、アージェはリーフと一緒に運転席に乗るからいいと断った。
 リーフは、運転などした事が無い。

 「そうか。では頼む」

 しかもあっさりとオルソは、承諾してしまう。

 「え……」

 茫然とするリーフだが、皆が次々と馬車に乗り込む。

 「何をしてます。私達は前ですよ」
 「あの、僕は運転出来ませんが……」
 「させる訳ないでしょう? 話があるのです」

 そうだったのかと、リーフはアージェの横に座った。
 馬車はゆっくりと出発する。

 「申し訳ありませんでした」

 暫くすると、アージェがそう言った。

 「私はただ、あなたが使った紹介状の事を調べたかっただけだったのです。任された仕事もあり、あなたにお願いしました。まさか召喚師だったとは……」
 「はぁ……。あの、僕、本当にマスターなのでしょうか?」
 「ヘリムさんが、魔獣である事は確かです」

 リーフは、首を傾げる。
 本人が思い込んでいるとしても、どうして人間の姿になったのに、魔獣だとアージェ達が確信しているのかわからなかった。

 「あの……ヘリムは魔術師って事はないんですか? 弱かったんですよね?」

 アージェは、魔術師と対戦しているヘリムを見て、そう言っていた。

 「人間には変化へんげは無理なのです。状態変化が出来るのは、その耐性がある魔獣のみ。見た目は人間ですが、魔獣でしょう。人間では、耐えられないのです」

 そういう事だったのかと、リーフはやっと魔獣だと疑いもせず思っている理由がわかった。
 だがそうなると、リーフがヘリムのマスターになった可能性が高い。
 そう思うと、リーフは溜息が出た。

 「もしかしたらあなたの封印は、中止になるかもしれません。理由があって、あの魔術師を生け捕りにしないといけないのです。確かにヘリムさんは、思っていたよりは弱く感じました。ですが彼に対抗できる希望です。なのであなたには、そのままマスターでいて欲しいのです」

 理由とはきっと、シリルに関する事だろう。
 アージェは、まだチェチーリアとリーファーが、あの魔術師の元にいると思っているに違いない。
 ここで自分がリーファーだと名乗り出れば、それは解決する。

 (……いや、解決しない!)

 そもそもチェチーリアが、身を隠したのは村が襲われたからだ!
 リーフの親達がどこにいるか、リーフは知らない。
 二年前、オルソがチェチーリアに火事の事を聞いていた。
 でもリーフの親の事は、オルソと二人で話した時に何も言われなかった。という事は、オルソもどこにいるか知らない事になる。
 それを知っているは、あの魔術師だけだろう。

 リーフは、ギュッと両手を握る。

 「わかりました」

 余計な事は言わず、リーフはそう言って頷いた。

 「ありがとう」

 アージェ達はまず、ウリッセ達を送り届け、騎士団の館に向かう。
 そこで連絡を受け待っていたゴーチェは、このまま城に向かう様に指示し、彼を乗せ馬車は城に向かった。
 城に着いた頃には既に日は沈み、辺りは真っ暗だ。
 そこから見渡せる庭園の街グラディナと星空が綺麗に瞬いていた。
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