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第02話 宝物に主を選ぶ意思はあるか
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「これはまたあからさまな……。愉快犯の可能性は?」
じいと見つめながらぺらぺらと裏と表、両面を観察する花菱。ちらりと横目で見れば、テオドールは思案するように顎に手を遣り。
「ないと考えている。人間であれば少なくとも、魔術師と通じる者の犯行でしょう」
「その理由は?」
「単純なことだ。あの立て看板同様に……〝秘宝展〟は魔術の掛かった幻の美術展ですから」
告げられた言葉に、花菱は先程見たばかりの立て看板を思い出す。角を曲がり踏み入れた道で、視線が吸い寄せられるような感覚が無かったといえば――嘘になる。
そして惹きつけることができるならば、その逆の事象を引き起こすことも。
「あらかじめ篩にかけられ、選ばれた者のみが招かれるのです」
「……悪意を持つ者なんざそもそもお断り、ということね」
こくり、と頷きで返すテオドール。再度テーブルに伏せ置き、スライドするようにカードが返却される。再度内ポケットへ収納されるのを見ながら、花菱はそっと白手袋を外していく。
「それに、このカードは〝秘宝展〟のバックヤードで見つかったものです」
が、響いた言葉に、ぴたり、と一瞬その動作が止まる。
「関係者による手引きの可能性がある、と?」
「考えたくはないけれど、否定はしません」
歯切れの悪い返答を飲み込むように、カプチーノに口を付けるテオドール。同様にコーヒーカップを持ち上げる、花菱の二藍の瞳が鋭く細められる。
今回の潜入依頼といい、妖精の囁きといい。堂々と行われた宣戦布告に、〝秘宝展〟関係者との接触。とんとん拍子に出てくる情報と、刻一刻と間違いなく渦中へと引き込まれていく状況に、名状しがたき何かが感じ取られてやまない。
(陰謀ではないそれを人は運命、あるいは偶然と呼ぶのだろうけれど)
コイントスで裏面を連続十回、初手でロイヤルストレートフラッシュ。福引で一等を引き当てることすら朝飯前の魔術師に、純粋な運命や純然たる偶然の存在は無いに等しい。
「貴女に声を掛けたのは、」
「……泡、ついてるよ」
「えっ? それは失礼した」
真面目に切り出した声色と対照的に付いたままだった口の端の泡は、さっと骨ばった指で拭いとられる。そして、こほん、一つ咳払いをすると。
「仕切り直して。……貴女に声を掛けたのは、この事態を未然に防ぐため。そしてもし予告状の主が現れたのなら」
「多少、荒事になっても守り通すため。ってとこ?」
「ああ。相手が魔術師であれ、人ならざる者であれ、対抗できるのは魔術師だけです。そして自身はその術を十分に持っているとは言えない」
空色の瞳がじっと、自身の手のひらに視線を落とす。魔術名家と呼ばれる血統があるのにも関わらず、魔術の才は血に依存しない。その事実に、節ばった手がゆっくりと強く握りこまれた。
「どうですか、ミス・ハナビシ。協力、していただけますか?」
澄んだ声で、テオドールが問いかける。退路を断つところまで追い込んだ状態であるにも関わらず、是非を訊ねるのは彼の性格故か。
ちらり、と花菱が隣を見れば、真っすぐとした視線とかち合う。
変わらず喧噪が満たす賑やかな店内で、恐ろしく静かな空間を作り上げること十秒ほど。
「ええ、興味が湧いたので。その顛末、見届けることにします」
「……うん。そうか、よかった。有難うございます、とても助かるよ」
ほっとした表情で、テオドールがはにかむように笑みを浮かべる。それを他所に、ホットカフェラテに徐に口を付けると、花菱は一息にごくごくと喉を鳴らして。
ふは、とカップの縁から離れた唇は、すぐさま言葉を紡ぎ出す。
「じゃ早速、見に行かせてもらいましょうか」
「見に、行く? 何を?」
「勿論、その〝魔術師の秘宝展〟の——〝秘宝〟たちを、ですよ」
そう言ってソーサーに戻された彼女のコーヒーカップは、空っぽになっていた。
『——ミス・花菱。どうして我々が今もなお、長き時間の底に埋もれた歴史の遺物たちを発見することができるのだと思うかね?』
道すがら思い出されるのは、局長応接室でのベルリッジの唐突な問いかけだった。
『発掘技術の進歩と、超音波などの探索技術が発達したから、とかですか』
『ふむ。人として妥当な答えではあるね』
二人が挟むローテーブルの上には、二人分のティーカップとクッキーの盛り合わせ。もはや恒例と化した仕事場でのティーブレイクに苦情を入れた覚えはあるが、花菱は脳内早送りで割愛した。
(確か、その後に続いた言葉は……)
『しかし、これについて魔術師的見解に基づいて述べるならば、これらの発掘は“見つけてほしい”という遺物からの働きかけによるものだという』
そう告げたベルリッジは、するりと嵌めていた両手の白手袋を外す。懐から携帯型のジェル状アルコールを取り出して消毒する。
『必要かね』
『是非とも』
花菱が手を差し出せば、どろっと垂らされたジェル。ひんやりとしたそれを手になじませている間に、ベルリッジはその皺深く節だった指で盛り付けられたクッキーの一つを摘み上げて。そして反対の手はといえば、指を伸ばし皿のようにする。
同様に手を差し出すように促され、不思議そうに眺めていた花菱も片手を皿のようにして差し出した。
『曰く、我々人間は常々、所有物を選択する権利を持っているという錯覚へと陥っている』
アーモンドチョコクッキーだ、欲しいかね。
そう尋ねるベルリッジに、いまだ意図をつかめないまま花菱はおずおずと頷きで返した。すると彼女の掌の上へと摘まんだままのクッキーを動かしていく。が、それからすぐ自身の掌の方へ引き戻し、かと思えば花菱の方へとゆらゆら揺らし動かす。
『しかしながら実際のところ、我々は所有する品々に選ばれたからこそ、持ち得ることを許されているにすぎない』
それが数舜続いたのち、アーモンドチョコのクッキーはどうやら花菱を選んだらしい。そっと手のひらへと落ちた焦げ茶色の重みを、二藍の瞳はじっと見つめた。
『……〝私が選んでいるのではない、私はただ選ばれただけである〟、ですか』
『クロードリヒの〝魔術的視点における所有論〟だね。その上、だ。物が所有者を選び取る力というのは心を込め作られたもの、長い時間を経て残る物ほど強くなると考えられている』
『そりゃ九十九年を経て神が憑くなら、数世紀で何を宿すか分かったものじゃないですよ』
もう片方の手で摘まみ、ひょいっと口へ放り込んだクッキー。サクッとした歯触りにアーモンドの食感、そしてチョコレート生地の甘さが口に広がる良い逸品だったな、と思い返す。
『さて、この話を聞いてもらった上で立ち戻り、〝秘宝展〟についてだ』
優雅に足を組み、膝の上で指を組んだベルリッジは、重苦しそうに言葉を紡いでいく。いつになくその表情が険しかったのを、花菱はよく覚えていた。
『展示されるだろう〝秘宝〟は、選ばれれば常人などひとたまりもない魔性の品々だ。宝くじが人生を狂わせるように、ね。この点において、展示物は呪いの品と紙一重といえるだろうよ』
『……しかしミスタ・ベルリッジ。“秘宝展”なんてものを執り行えば、観覧に来た客を〝秘宝〟たちが選んでしまうんじゃないんですか?』
『その可能性は無きにしも非ずだ。しかしそうした状態を疑似的に作り上げ、守り抜くことこそ。エルンディア家が開催する“秘宝展”の目的なのだよ』
すっと手を伸ばし、ソーサーごと持ち上げられたティーカップ。穏やかに一口、嚥下した後でベルリッジは告げる。
『他ならぬ〝宝〟として大切にされていると、感じさせるために——』
「——この扉を進んでいけば、〝秘宝展〟の展示場に着きます」
出逢ったときと同じように佇む立て看板を前にテオドールはそう告げる。手を繋ぐことなく辿り着けたのは、信頼の証だろう。
「そういえば、一つ聞きたいんだけど」
「うん、何だろうか?」
「あのカードの存在を知っている人は他に居る?」
宣戦布告ともいえる文面が書かれた、いかにもなカード。シックな色合いをまとったあの存在を、彼は他の関係者に話しているとは思えない。少なくとも、花菱が同じ立場であれば内部犯行の可能性がある以上、開示することはない。
「いや、自身だけだ。……どうすべきか判然とせず、現状は隠匿している」
「そっか。妥当な判断だと私も思うよ」
(ここまでは予想通り、か)
無意識に顎へと手を遣る花菱。
現段階における彼女は、関係者でありながらのテオドール以外とは面識のない半部外者的な立ち位置に存在する。カードの発見を含める経緯からは、関係者全てを疑いの目で見る必要のある状況。
(これを、逆に利用することはできないか?)
そこで思いつく。
「さっきのカード、借りてもいい?」
「嗚呼。構わないけれど、何をするつもりだ?」
「いっそのこと、見てみようかと思ってさ。このカードの存在を知った反応を」
存在を知らないのであれば、知らしめて見せれば良いと。
「もし本当に関係者の中にカードの主が居るのであれば、何らかの反応を示す……」
「そういうこと。それに、私は君以外にとってはただの来場者に見える」
「不意を突くということですか。それに何事もなければ、考えるべき可能性の一つを消すことができると」
考えこむように宙を見つめていたテオドールの瞳が花菱に見定めると、いくつかの瞬きの後、目を細める。
「ふむ。試す価値はありそうだ」
差し出される先程のカード。それを無言で花菱が摘まめば、小さく頷いてカードから離される手。
「それでは、よろしくお願いします。自身は裏口から戻りますから」
「一旦解散ね。それじゃ」
軽く手を上げて挨拶すれば、同じように片手を上げてから背を向けて遠ざかっていくテオドール。それを横目に視線を向けるは、来るもの拒まずといった開けっ広げな扉。
すっとカードを袖口に仕舞うと。
「さて、行きますかっと」
花菱はその入り口へと、身体を向き直らせた。
じいと見つめながらぺらぺらと裏と表、両面を観察する花菱。ちらりと横目で見れば、テオドールは思案するように顎に手を遣り。
「ないと考えている。人間であれば少なくとも、魔術師と通じる者の犯行でしょう」
「その理由は?」
「単純なことだ。あの立て看板同様に……〝秘宝展〟は魔術の掛かった幻の美術展ですから」
告げられた言葉に、花菱は先程見たばかりの立て看板を思い出す。角を曲がり踏み入れた道で、視線が吸い寄せられるような感覚が無かったといえば――嘘になる。
そして惹きつけることができるならば、その逆の事象を引き起こすことも。
「あらかじめ篩にかけられ、選ばれた者のみが招かれるのです」
「……悪意を持つ者なんざそもそもお断り、ということね」
こくり、と頷きで返すテオドール。再度テーブルに伏せ置き、スライドするようにカードが返却される。再度内ポケットへ収納されるのを見ながら、花菱はそっと白手袋を外していく。
「それに、このカードは〝秘宝展〟のバックヤードで見つかったものです」
が、響いた言葉に、ぴたり、と一瞬その動作が止まる。
「関係者による手引きの可能性がある、と?」
「考えたくはないけれど、否定はしません」
歯切れの悪い返答を飲み込むように、カプチーノに口を付けるテオドール。同様にコーヒーカップを持ち上げる、花菱の二藍の瞳が鋭く細められる。
今回の潜入依頼といい、妖精の囁きといい。堂々と行われた宣戦布告に、〝秘宝展〟関係者との接触。とんとん拍子に出てくる情報と、刻一刻と間違いなく渦中へと引き込まれていく状況に、名状しがたき何かが感じ取られてやまない。
(陰謀ではないそれを人は運命、あるいは偶然と呼ぶのだろうけれど)
コイントスで裏面を連続十回、初手でロイヤルストレートフラッシュ。福引で一等を引き当てることすら朝飯前の魔術師に、純粋な運命や純然たる偶然の存在は無いに等しい。
「貴女に声を掛けたのは、」
「……泡、ついてるよ」
「えっ? それは失礼した」
真面目に切り出した声色と対照的に付いたままだった口の端の泡は、さっと骨ばった指で拭いとられる。そして、こほん、一つ咳払いをすると。
「仕切り直して。……貴女に声を掛けたのは、この事態を未然に防ぐため。そしてもし予告状の主が現れたのなら」
「多少、荒事になっても守り通すため。ってとこ?」
「ああ。相手が魔術師であれ、人ならざる者であれ、対抗できるのは魔術師だけです。そして自身はその術を十分に持っているとは言えない」
空色の瞳がじっと、自身の手のひらに視線を落とす。魔術名家と呼ばれる血統があるのにも関わらず、魔術の才は血に依存しない。その事実に、節ばった手がゆっくりと強く握りこまれた。
「どうですか、ミス・ハナビシ。協力、していただけますか?」
澄んだ声で、テオドールが問いかける。退路を断つところまで追い込んだ状態であるにも関わらず、是非を訊ねるのは彼の性格故か。
ちらり、と花菱が隣を見れば、真っすぐとした視線とかち合う。
変わらず喧噪が満たす賑やかな店内で、恐ろしく静かな空間を作り上げること十秒ほど。
「ええ、興味が湧いたので。その顛末、見届けることにします」
「……うん。そうか、よかった。有難うございます、とても助かるよ」
ほっとした表情で、テオドールがはにかむように笑みを浮かべる。それを他所に、ホットカフェラテに徐に口を付けると、花菱は一息にごくごくと喉を鳴らして。
ふは、とカップの縁から離れた唇は、すぐさま言葉を紡ぎ出す。
「じゃ早速、見に行かせてもらいましょうか」
「見に、行く? 何を?」
「勿論、その〝魔術師の秘宝展〟の——〝秘宝〟たちを、ですよ」
そう言ってソーサーに戻された彼女のコーヒーカップは、空っぽになっていた。
『——ミス・花菱。どうして我々が今もなお、長き時間の底に埋もれた歴史の遺物たちを発見することができるのだと思うかね?』
道すがら思い出されるのは、局長応接室でのベルリッジの唐突な問いかけだった。
『発掘技術の進歩と、超音波などの探索技術が発達したから、とかですか』
『ふむ。人として妥当な答えではあるね』
二人が挟むローテーブルの上には、二人分のティーカップとクッキーの盛り合わせ。もはや恒例と化した仕事場でのティーブレイクに苦情を入れた覚えはあるが、花菱は脳内早送りで割愛した。
(確か、その後に続いた言葉は……)
『しかし、これについて魔術師的見解に基づいて述べるならば、これらの発掘は“見つけてほしい”という遺物からの働きかけによるものだという』
そう告げたベルリッジは、するりと嵌めていた両手の白手袋を外す。懐から携帯型のジェル状アルコールを取り出して消毒する。
『必要かね』
『是非とも』
花菱が手を差し出せば、どろっと垂らされたジェル。ひんやりとしたそれを手になじませている間に、ベルリッジはその皺深く節だった指で盛り付けられたクッキーの一つを摘み上げて。そして反対の手はといえば、指を伸ばし皿のようにする。
同様に手を差し出すように促され、不思議そうに眺めていた花菱も片手を皿のようにして差し出した。
『曰く、我々人間は常々、所有物を選択する権利を持っているという錯覚へと陥っている』
アーモンドチョコクッキーだ、欲しいかね。
そう尋ねるベルリッジに、いまだ意図をつかめないまま花菱はおずおずと頷きで返した。すると彼女の掌の上へと摘まんだままのクッキーを動かしていく。が、それからすぐ自身の掌の方へ引き戻し、かと思えば花菱の方へとゆらゆら揺らし動かす。
『しかしながら実際のところ、我々は所有する品々に選ばれたからこそ、持ち得ることを許されているにすぎない』
それが数舜続いたのち、アーモンドチョコのクッキーはどうやら花菱を選んだらしい。そっと手のひらへと落ちた焦げ茶色の重みを、二藍の瞳はじっと見つめた。
『……〝私が選んでいるのではない、私はただ選ばれただけである〟、ですか』
『クロードリヒの〝魔術的視点における所有論〟だね。その上、だ。物が所有者を選び取る力というのは心を込め作られたもの、長い時間を経て残る物ほど強くなると考えられている』
『そりゃ九十九年を経て神が憑くなら、数世紀で何を宿すか分かったものじゃないですよ』
もう片方の手で摘まみ、ひょいっと口へ放り込んだクッキー。サクッとした歯触りにアーモンドの食感、そしてチョコレート生地の甘さが口に広がる良い逸品だったな、と思い返す。
『さて、この話を聞いてもらった上で立ち戻り、〝秘宝展〟についてだ』
優雅に足を組み、膝の上で指を組んだベルリッジは、重苦しそうに言葉を紡いでいく。いつになくその表情が険しかったのを、花菱はよく覚えていた。
『展示されるだろう〝秘宝〟は、選ばれれば常人などひとたまりもない魔性の品々だ。宝くじが人生を狂わせるように、ね。この点において、展示物は呪いの品と紙一重といえるだろうよ』
『……しかしミスタ・ベルリッジ。“秘宝展”なんてものを執り行えば、観覧に来た客を〝秘宝〟たちが選んでしまうんじゃないんですか?』
『その可能性は無きにしも非ずだ。しかしそうした状態を疑似的に作り上げ、守り抜くことこそ。エルンディア家が開催する“秘宝展”の目的なのだよ』
すっと手を伸ばし、ソーサーごと持ち上げられたティーカップ。穏やかに一口、嚥下した後でベルリッジは告げる。
『他ならぬ〝宝〟として大切にされていると、感じさせるために——』
「——この扉を進んでいけば、〝秘宝展〟の展示場に着きます」
出逢ったときと同じように佇む立て看板を前にテオドールはそう告げる。手を繋ぐことなく辿り着けたのは、信頼の証だろう。
「そういえば、一つ聞きたいんだけど」
「うん、何だろうか?」
「あのカードの存在を知っている人は他に居る?」
宣戦布告ともいえる文面が書かれた、いかにもなカード。シックな色合いをまとったあの存在を、彼は他の関係者に話しているとは思えない。少なくとも、花菱が同じ立場であれば内部犯行の可能性がある以上、開示することはない。
「いや、自身だけだ。……どうすべきか判然とせず、現状は隠匿している」
「そっか。妥当な判断だと私も思うよ」
(ここまでは予想通り、か)
無意識に顎へと手を遣る花菱。
現段階における彼女は、関係者でありながらのテオドール以外とは面識のない半部外者的な立ち位置に存在する。カードの発見を含める経緯からは、関係者全てを疑いの目で見る必要のある状況。
(これを、逆に利用することはできないか?)
そこで思いつく。
「さっきのカード、借りてもいい?」
「嗚呼。構わないけれど、何をするつもりだ?」
「いっそのこと、見てみようかと思ってさ。このカードの存在を知った反応を」
存在を知らないのであれば、知らしめて見せれば良いと。
「もし本当に関係者の中にカードの主が居るのであれば、何らかの反応を示す……」
「そういうこと。それに、私は君以外にとってはただの来場者に見える」
「不意を突くということですか。それに何事もなければ、考えるべき可能性の一つを消すことができると」
考えこむように宙を見つめていたテオドールの瞳が花菱に見定めると、いくつかの瞬きの後、目を細める。
「ふむ。試す価値はありそうだ」
差し出される先程のカード。それを無言で花菱が摘まめば、小さく頷いてカードから離される手。
「それでは、よろしくお願いします。自身は裏口から戻りますから」
「一旦解散ね。それじゃ」
軽く手を上げて挨拶すれば、同じように片手を上げてから背を向けて遠ざかっていくテオドール。それを横目に視線を向けるは、来るもの拒まずといった開けっ広げな扉。
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