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『楓:申請していただきありがとうございます』
『楓:それと、さっきは迷惑をかけてしまってごめんなさい』
ごめんなさい。その言葉を見た瞬間、晴の指は素早く動いていた。
『雨:謝らないでください!』
『雨:俺が一方的にやったことだから。。。』
『雨:とにかく、楓さんは悪くないですから!』
すぐに返事が来る。
『楓:でも、自分のせいで雨さんがギルドを抜けることになってしまいました』
『雨:気にしないでください。そもそも、もうこのゲームやめるつもりでしたから』
『楓:え、そうなんですか?』
『雨:長年やってきて、それなりに満足いくとこまで行ったし。。。正味もう飽きてたんで笑 むしろ楓さんのおかげでゲームやめる良い理由ができましたよ!』
いや、この言い方はまずいか?
晴が訂正しようとするよりも先に、パソコンがピコンと音を立てた。
『楓:晴さんって、気さくな人ですね』
『楓:今まで喋ったことがなかったので、こんなに優しい人だなんて知りませんでした』
『楓:以前から喋ってみたいとは思ってたんですけど、人見知りだから、、』
『雨:分かります笑 話しかけられたらそれなりに答えられるんすけど、自分から話しかけるってムズいですよね』
『楓:そうなんです!
だから、一緒に喋ることができて嬉しいっていうか、こうなったのも、ロクさんがあんなことを言ってくれたおかげなのかもしれないですね』
『雨:いや、それはないって!笑』
『楓:冗談ですよ^_^』
楓とは、初対面にもかかわらず妙に気が合った。
喋っていると、古くからの腐れ縁のような、もしくは自分自身と喋っているかのような、落ち着いた気分になった。
向こうもそう感じていたらしい。
『楓:晴さんってすごく喋りやすい人ですね』
『楓:すごく安心するっていうか、喋っていてとても楽しいです』
そんなことを言われたのは初めてだった。
晴はネットだと気が大きくなるタイプで、本来の自分ならば言えないようなことをつい言ってしまうのだ(もちろん、誹謗中傷はしない。ロクは例外だ)。
だから
『楓:晴さんがゲームやめるって聞いて、とても悲しいです』
そんなふうに言われ、表情をパッと明るくさせた晴は、思わずこう書いていた。
『雨:よければSNS交換しませんか』
それが、2人の出会ったきっかけだった。
DMにメッセージが届く。
『もう少しで着きそうです』
晴は再び深呼吸をして、自身の服装を見直した。
(髪型オッケー、服オッケー、靴紐は解けてない、香水は臭くない……多分)
『了解!急がなくて良いからな!』
待ち合わせ場所と服装は互いに確認済みだ。だから、あとは待つだけ。
晴は手を組み、肘を太腿に置き、敬虔な信者が神に祈るように、かたく目を閉じる。
(ああ、クソ、震えるなオレの足! 今日は楓にいかに自分がハイスペックな人間かを示しに来たんだろ!
俺は「早乙女晴」じゃない。ゲームが得意な心優しい青年、「雨」なんだ。
大丈夫、俺ならできる。
講義の単位落としまくりで友達が少ない陰の者だなんて決してバレずに、楓の尊敬する優しいネ友「雨」を演じ切ってみせる……!)
その時、晴の視界に黒い靴の先が入り込んだ。
「あのー」
男特有の低い声。
「もしかして、雨さんすか?」
晴はゴクリと唾を飲み込んだ。
(来た、楓だ……!)
意を決して顔を上げる……ん? なんだ、この華やかな香水の匂いは?
「はい、俺が雨です_____」
顔を上げたまま、晴はピタリと動作を止めた。まるでメドゥーサを見てしまったかのよう……もしくは、雪女に出会ってしまったかのように。
体がビシリと固まり、晴の周りで時が止まる。音が消える。
晴の目の前に立っていたのは、1人の青年だった。
ワックスで整えられ、青いメッシュが入った短い髪。耳につけられたアシンメトリーのピアス。指に嵌められたゴツゴツとした指輪。
身長は太陽を覆い隠すくらいに大きい。しかし筋肉質なわけではなく、細っそりとしなやかな体型をしている。かといって女らしい体つきはしていないので、一目で男だと分かる。
黒いマスクをつけ、鋭い吊り目で晴を見下ろすその姿は、普段の晴であれば絶対に関わらないタイプだ。
(ど、どちら様……?)
喉の奥から、か細い声が落ちる。
「あ、あの、もしかしてあなたは_____」
吊り目がきゅっと閉じられ、笑みの形を作る。指輪の嵌められた大きな手が、膝の上に置かれた晴の手を取った。
「うっわー!! マジモンの雨さんだ!!」
鼓膜がビリビリと震える。反応のない晴を差し置いて、楓はブンブンと握りしめた手を強く振った。
「都内住みだって知ってから、ずっと雨さんに会いたかったんすよ!!」
「お、おお……」
(な、なんだこの陽気な兄ちゃんは……)
「マジヤバいって……はぁ、ガチで今心臓バクバク言ってる」
「あ、あのぉ……」
「なんすか!!」
男の大きな声に、周囲が晴達を遠巻きに見る。男は視線に気がついていないのか、ニコニコとマスク越しにも伝わる笑みを浮かべて、晴を見下ろす。
「え、えっと」
(ここでもし「あんた本当に楓さんですか?」なんて尋ねたら俺、睨み殺されるかもしんない)
晴はぎこちなく笑みを浮かべる。
「きょ、今日はよろしくな」
「はい!!こちらこそ!!」
『楓:それと、さっきは迷惑をかけてしまってごめんなさい』
ごめんなさい。その言葉を見た瞬間、晴の指は素早く動いていた。
『雨:謝らないでください!』
『雨:俺が一方的にやったことだから。。。』
『雨:とにかく、楓さんは悪くないですから!』
すぐに返事が来る。
『楓:でも、自分のせいで雨さんがギルドを抜けることになってしまいました』
『雨:気にしないでください。そもそも、もうこのゲームやめるつもりでしたから』
『楓:え、そうなんですか?』
『雨:長年やってきて、それなりに満足いくとこまで行ったし。。。正味もう飽きてたんで笑 むしろ楓さんのおかげでゲームやめる良い理由ができましたよ!』
いや、この言い方はまずいか?
晴が訂正しようとするよりも先に、パソコンがピコンと音を立てた。
『楓:晴さんって、気さくな人ですね』
『楓:今まで喋ったことがなかったので、こんなに優しい人だなんて知りませんでした』
『楓:以前から喋ってみたいとは思ってたんですけど、人見知りだから、、』
『雨:分かります笑 話しかけられたらそれなりに答えられるんすけど、自分から話しかけるってムズいですよね』
『楓:そうなんです!
だから、一緒に喋ることができて嬉しいっていうか、こうなったのも、ロクさんがあんなことを言ってくれたおかげなのかもしれないですね』
『雨:いや、それはないって!笑』
『楓:冗談ですよ^_^』
楓とは、初対面にもかかわらず妙に気が合った。
喋っていると、古くからの腐れ縁のような、もしくは自分自身と喋っているかのような、落ち着いた気分になった。
向こうもそう感じていたらしい。
『楓:晴さんってすごく喋りやすい人ですね』
『楓:すごく安心するっていうか、喋っていてとても楽しいです』
そんなことを言われたのは初めてだった。
晴はネットだと気が大きくなるタイプで、本来の自分ならば言えないようなことをつい言ってしまうのだ(もちろん、誹謗中傷はしない。ロクは例外だ)。
だから
『楓:晴さんがゲームやめるって聞いて、とても悲しいです』
そんなふうに言われ、表情をパッと明るくさせた晴は、思わずこう書いていた。
『雨:よければSNS交換しませんか』
それが、2人の出会ったきっかけだった。
DMにメッセージが届く。
『もう少しで着きそうです』
晴は再び深呼吸をして、自身の服装を見直した。
(髪型オッケー、服オッケー、靴紐は解けてない、香水は臭くない……多分)
『了解!急がなくて良いからな!』
待ち合わせ場所と服装は互いに確認済みだ。だから、あとは待つだけ。
晴は手を組み、肘を太腿に置き、敬虔な信者が神に祈るように、かたく目を閉じる。
(ああ、クソ、震えるなオレの足! 今日は楓にいかに自分がハイスペックな人間かを示しに来たんだろ!
俺は「早乙女晴」じゃない。ゲームが得意な心優しい青年、「雨」なんだ。
大丈夫、俺ならできる。
講義の単位落としまくりで友達が少ない陰の者だなんて決してバレずに、楓の尊敬する優しいネ友「雨」を演じ切ってみせる……!)
その時、晴の視界に黒い靴の先が入り込んだ。
「あのー」
男特有の低い声。
「もしかして、雨さんすか?」
晴はゴクリと唾を飲み込んだ。
(来た、楓だ……!)
意を決して顔を上げる……ん? なんだ、この華やかな香水の匂いは?
「はい、俺が雨です_____」
顔を上げたまま、晴はピタリと動作を止めた。まるでメドゥーサを見てしまったかのよう……もしくは、雪女に出会ってしまったかのように。
体がビシリと固まり、晴の周りで時が止まる。音が消える。
晴の目の前に立っていたのは、1人の青年だった。
ワックスで整えられ、青いメッシュが入った短い髪。耳につけられたアシンメトリーのピアス。指に嵌められたゴツゴツとした指輪。
身長は太陽を覆い隠すくらいに大きい。しかし筋肉質なわけではなく、細っそりとしなやかな体型をしている。かといって女らしい体つきはしていないので、一目で男だと分かる。
黒いマスクをつけ、鋭い吊り目で晴を見下ろすその姿は、普段の晴であれば絶対に関わらないタイプだ。
(ど、どちら様……?)
喉の奥から、か細い声が落ちる。
「あ、あの、もしかしてあなたは_____」
吊り目がきゅっと閉じられ、笑みの形を作る。指輪の嵌められた大きな手が、膝の上に置かれた晴の手を取った。
「うっわー!! マジモンの雨さんだ!!」
鼓膜がビリビリと震える。反応のない晴を差し置いて、楓はブンブンと握りしめた手を強く振った。
「都内住みだって知ってから、ずっと雨さんに会いたかったんすよ!!」
「お、おお……」
(な、なんだこの陽気な兄ちゃんは……)
「マジヤバいって……はぁ、ガチで今心臓バクバク言ってる」
「あ、あのぉ……」
「なんすか!!」
男の大きな声に、周囲が晴達を遠巻きに見る。男は視線に気がついていないのか、ニコニコとマスク越しにも伝わる笑みを浮かべて、晴を見下ろす。
「え、えっと」
(ここでもし「あんた本当に楓さんですか?」なんて尋ねたら俺、睨み殺されるかもしんない)
晴はぎこちなく笑みを浮かべる。
「きょ、今日はよろしくな」
「はい!!こちらこそ!!」
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