4 / 32
第一章
第三話
しおりを挟む
「おい、出せよ! 殺されてぇのか⁉」
帰り道。
一本逸れた人目に付きにくい場所から、そんな声が聞こえてきた。
「はぁ、馬鹿な奴らだ」
冒険者テストでよく発生するのが、カツアゲだ。
パーティを組んだが、目標の数に揃わなかった者が、こうして出口近くに待機して、出ていこうとする冒険者を捕らえてはそれを巻き上げる。
もちろん不正であり、実は監視もされているために、こいつらは永久に資格を剥奪され、都市を永久追放になるのだが。
「まだ時間もあるだろうし、助けてやるか」
おそらく、あれから五分ほどしかたっていない。まだ先着には余裕があるだろう。
それに、目の前でこんな行為が起きているのを、俺は見過ごせない。
「おい、何やってる?」
「あぁ? なんだお前。この状況がわかんねーのか?」
「おい、こいつからも奪えばいいんじゃね? そうすりゃ、目標数じゃね?」
「本当だな。おい、奪おうぜ」
雑魚三人組と命名してやろう。
「おいお前、耳をよこしな。さもないと、殺すぜ?」
「ふわぁ。勝手にしろよ。雑魚の分際で勝てるんならな?」
「あぁ⁉ 今なんつった⁉」
俺の欠伸の演技と、挑発する言い草に、まんまと乗っかってきた。
「そろいも揃って同じような話し方しやがって。区別がつきやしねーよ、雑魚」
「てんめぇ⁉」
雑魚は考えだけじゃなく、沸点も浅かったらしい。
振るわれた大斧を軽くかわすと、がら空きの鳩尾に捻りを加えた拳を叩き込む。
「グハァッ⁉」
クの字に折れ曲がった雑魚は、そのまま地面に顔面から倒れた。
「で、まだやるか?」
「て、てめぇ⁉」
「って、そろそろ出てきてくれ、監視役の人」
「へぇ、気が付いてたんだ?」
俺の声に反応してやってきたのは、腕を組んだ女性だった。その胸元には、ギルド職員である事を示すバッジがされている。
「なッ、ギルドの⁉ な、なんでここに⁉」
「ま、彼が言ったように監視だ。おとなしく付いてきてもらうぞ? 貴様らは、不正を犯した。金輪際、この都市へ入ることを禁ずる」
「俺はもう行っていいですか?」
「ああ、君は期待できそうだ。これからもがんばれ」
そう言って、彼女は雑魚三人組と、負傷している被害者を連れて行った。
「さて、行くか」
予想以上に時間を食ってしまった。
もう終わっている、ということはないと思うが、それでも万が一があるかもしれない。
「急ぐか」
俺は走ってギルドを目指した。
「へぇ。ああいう人もいるのね」
カツアゲの一部始終を見ていたのは、監視役のギルド職員とは別に、もう一人いた。
彼女もまた、既にゴブリンの右耳は集め終わり、帰るだけだったのだが。
低俗な方法を取る馬鹿の声が聞こえて、そちらに歩を進めていた。
どうせ誰も助けないだろう。
人間なんて、自分が一番。そんなものだ。
彼女の中での人間は、その程度の評価だった。もちろん、人間である自分自身も例外ではない。
だからこそ、彼が助けに向かった様子を見たとき、思わず足を止めて覗いてしまっていた。
彼女の人間に対する評価とは大きく違う人間であったから、興味が沸いたのかもしれない。
「少し、興味が出たわ」
彼の行動を思い出してか、そんな彼女の口元には笑みが浮かんでいた。
「お、来たぞ!」
レインがギルドに戻ったとき、既に10名を超える帰還者がいた。自分の予想よりも早く、もう少し遅れていれば、万が一があったかもしれない。
その後少しして、駆け込んできたのは二人の女だった。
一人は品のよさそうな、どこか貴族然としたオーラを纏う女。
そして、もう一人は先ほど俺に話しかけてきた、(自称)優秀な魔法使いの女だった。
それぞれが持ち帰ったものを鑑定してもらう。
「うむ、ここにいる15名、不正者は無し! よって、この15名を今年の冒険者テスト合格者とする!」
その宣言と共に、ギルドが沸いた。
俺も、一人こっそりとガッツポーズをしてしまうくらいには、嬉しかった。
そんな視界の片隅で。
「あ、……」
今朝の長い金髪の綺麗な少女が、こちらに手を振っていた。
俺も手を振り返す。
やっぱかわいい。
冒険者になれたことにプラスして、彼女と知り合えた幸運から、自分でも顔が緩んでいるのが自覚できた。
帰り道。
一本逸れた人目に付きにくい場所から、そんな声が聞こえてきた。
「はぁ、馬鹿な奴らだ」
冒険者テストでよく発生するのが、カツアゲだ。
パーティを組んだが、目標の数に揃わなかった者が、こうして出口近くに待機して、出ていこうとする冒険者を捕らえてはそれを巻き上げる。
もちろん不正であり、実は監視もされているために、こいつらは永久に資格を剥奪され、都市を永久追放になるのだが。
「まだ時間もあるだろうし、助けてやるか」
おそらく、あれから五分ほどしかたっていない。まだ先着には余裕があるだろう。
それに、目の前でこんな行為が起きているのを、俺は見過ごせない。
「おい、何やってる?」
「あぁ? なんだお前。この状況がわかんねーのか?」
「おい、こいつからも奪えばいいんじゃね? そうすりゃ、目標数じゃね?」
「本当だな。おい、奪おうぜ」
雑魚三人組と命名してやろう。
「おいお前、耳をよこしな。さもないと、殺すぜ?」
「ふわぁ。勝手にしろよ。雑魚の分際で勝てるんならな?」
「あぁ⁉ 今なんつった⁉」
俺の欠伸の演技と、挑発する言い草に、まんまと乗っかってきた。
「そろいも揃って同じような話し方しやがって。区別がつきやしねーよ、雑魚」
「てんめぇ⁉」
雑魚は考えだけじゃなく、沸点も浅かったらしい。
振るわれた大斧を軽くかわすと、がら空きの鳩尾に捻りを加えた拳を叩き込む。
「グハァッ⁉」
クの字に折れ曲がった雑魚は、そのまま地面に顔面から倒れた。
「で、まだやるか?」
「て、てめぇ⁉」
「って、そろそろ出てきてくれ、監視役の人」
「へぇ、気が付いてたんだ?」
俺の声に反応してやってきたのは、腕を組んだ女性だった。その胸元には、ギルド職員である事を示すバッジがされている。
「なッ、ギルドの⁉ な、なんでここに⁉」
「ま、彼が言ったように監視だ。おとなしく付いてきてもらうぞ? 貴様らは、不正を犯した。金輪際、この都市へ入ることを禁ずる」
「俺はもう行っていいですか?」
「ああ、君は期待できそうだ。これからもがんばれ」
そう言って、彼女は雑魚三人組と、負傷している被害者を連れて行った。
「さて、行くか」
予想以上に時間を食ってしまった。
もう終わっている、ということはないと思うが、それでも万が一があるかもしれない。
「急ぐか」
俺は走ってギルドを目指した。
「へぇ。ああいう人もいるのね」
カツアゲの一部始終を見ていたのは、監視役のギルド職員とは別に、もう一人いた。
彼女もまた、既にゴブリンの右耳は集め終わり、帰るだけだったのだが。
低俗な方法を取る馬鹿の声が聞こえて、そちらに歩を進めていた。
どうせ誰も助けないだろう。
人間なんて、自分が一番。そんなものだ。
彼女の中での人間は、その程度の評価だった。もちろん、人間である自分自身も例外ではない。
だからこそ、彼が助けに向かった様子を見たとき、思わず足を止めて覗いてしまっていた。
彼女の人間に対する評価とは大きく違う人間であったから、興味が沸いたのかもしれない。
「少し、興味が出たわ」
彼の行動を思い出してか、そんな彼女の口元には笑みが浮かんでいた。
「お、来たぞ!」
レインがギルドに戻ったとき、既に10名を超える帰還者がいた。自分の予想よりも早く、もう少し遅れていれば、万が一があったかもしれない。
その後少しして、駆け込んできたのは二人の女だった。
一人は品のよさそうな、どこか貴族然としたオーラを纏う女。
そして、もう一人は先ほど俺に話しかけてきた、(自称)優秀な魔法使いの女だった。
それぞれが持ち帰ったものを鑑定してもらう。
「うむ、ここにいる15名、不正者は無し! よって、この15名を今年の冒険者テスト合格者とする!」
その宣言と共に、ギルドが沸いた。
俺も、一人こっそりとガッツポーズをしてしまうくらいには、嬉しかった。
そんな視界の片隅で。
「あ、……」
今朝の長い金髪の綺麗な少女が、こちらに手を振っていた。
俺も手を振り返す。
やっぱかわいい。
冒険者になれたことにプラスして、彼女と知り合えた幸運から、自分でも顔が緩んでいるのが自覚できた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる