冒険者は覇王となりて

夜月桜

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第一章

第三話

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「おい、出せよ! 殺されてぇのか⁉」
 帰り道。
 一本逸れた人目に付きにくい場所から、そんな声が聞こえてきた。
「はぁ、馬鹿な奴らだ」
 冒険者テストでよく発生するのが、カツアゲだ。
 パーティを組んだが、目標の数に揃わなかった者が、こうして出口近くに待機して、出ていこうとする冒険者を捕らえてはそれを巻き上げる。
 もちろん不正であり、実は監視もされているために、こいつらは永久に資格を剥奪され、都市を永久追放になるのだが。
「まだ時間もあるだろうし、助けてやるか」
 おそらく、あれから五分ほどしかたっていない。まだ先着には余裕があるだろう。
 それに、目の前でこんな行為が起きているのを、俺は見過ごせない。
「おい、何やってる?」
「あぁ? なんだお前。この状況がわかんねーのか?」
「おい、こいつからも奪えばいいんじゃね? そうすりゃ、目標数じゃね?」
「本当だな。おい、奪おうぜ」
 雑魚三人組と命名してやろう。
「おいお前、耳をよこしな。さもないと、殺すぜ?」
「ふわぁ。勝手にしろよ。雑魚の分際で勝てるんならな?」
「あぁ⁉ 今なんつった⁉」
 俺の欠伸の演技と、挑発する言い草に、まんまと乗っかってきた。
「そろいも揃って同じような話し方しやがって。区別がつきやしねーよ、雑魚」
「てんめぇ⁉」
 雑魚は考えだけじゃなく、沸点も浅かったらしい。
 振るわれた大斧を軽くかわすと、がら空きの鳩尾に捻りを加えた拳を叩き込む。
「グハァッ⁉」
 クの字に折れ曲がった雑魚は、そのまま地面に顔面から倒れた。
「で、まだやるか?」
「て、てめぇ⁉」
「って、そろそろ出てきてくれ、監視役の人」
「へぇ、気が付いてたんだ?」
 俺の声に反応してやってきたのは、腕を組んだ女性だった。その胸元には、ギルド職員である事を示すバッジがされている。
「なッ、ギルドの⁉ な、なんでここに⁉」
「ま、彼が言ったように監視だ。おとなしく付いてきてもらうぞ? 貴様らは、不正を犯した。金輪際、この都市へ入ることを禁ずる」
「俺はもう行っていいですか?」
「ああ、君は期待できそうだ。これからもがんばれ」
 そう言って、彼女は雑魚三人組と、負傷している被害者を連れて行った。
「さて、行くか」
 予想以上に時間を食ってしまった。
 もう終わっている、ということはないと思うが、それでも万が一があるかもしれない。
「急ぐか」
 俺は走ってギルドを目指した。

「へぇ。ああいう人もいるのね」
 カツアゲの一部始終を見ていたのは、監視役のギルド職員とは別に、もう一人いた。
 彼女もまた、既にゴブリンの右耳は集め終わり、帰るだけだったのだが。
 低俗な方法を取る馬鹿の声が聞こえて、そちらに歩を進めていた。
 どうせ誰も助けないだろう。
 人間なんて、自分が一番。そんなものだ。
 彼女の中での人間は、その程度の評価だった。もちろん、人間である自分自身も例外ではない。
 だからこそ、彼が助けに向かった様子を見たとき、思わず足を止めて覗いてしまっていた。
 彼女の人間に対する評価とは大きく違う人間であったから、興味が沸いたのかもしれない。
「少し、興味が出たわ」
 彼の行動を思い出してか、そんな彼女の口元には笑みが浮かんでいた。

「お、来たぞ!」
 レインがギルドに戻ったとき、既に10名を超える帰還者がいた。自分の予想よりも早く、もう少し遅れていれば、万が一があったかもしれない。
 その後少しして、駆け込んできたのは二人の女だった。
 一人は品のよさそうな、どこか貴族然としたオーラを纏う女。
 そして、もう一人は先ほど俺に話しかけてきた、(自称)優秀な魔法使いの女だった。
 それぞれが持ち帰ったものを鑑定してもらう。
「うむ、ここにいる15名、不正者は無し! よって、この15名を今年の冒険者テスト合格者とする!」
 その宣言と共に、ギルドが沸いた。
 俺も、一人こっそりとガッツポーズをしてしまうくらいには、嬉しかった。
 そんな視界の片隅で。
「あ、……」
 今朝の長い金髪の綺麗な少女が、こちらに手を振っていた。
 俺も手を振り返す。
 やっぱかわいい。
冒険者になれたことにプラスして、彼女と知り合えた幸運から、自分でも顔が緩んでいるのが自覚できた。
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