明鏡の絵空事

うちゃたん

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第十話 豊かな都、黄乃松

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見た事のない大きな町が目の前に広がる。
道行くの人の多さ、店の数、西の国一番を誇るこの都の雰囲気に圧倒されてしまう。


ここは黄乃松きのまつ。
弾と茶々丸はこの大都だいみやこへ到着した。


古着屋に、刻みタバコ屋、花火屋なんかの店が立ち並び
大きな声を出しながら、魚や野菜、飴を歩き売りしている行商人ぎょうしょうにんも沢山といる。


「おい、弾。ここすげー町だな!色々な店がある!」茶々丸はいつも通り弾の左肩に座り、目を輝かせていた。


「この都の名物は献残屋けんざんやらしい。
献残屋は普通だと、人がいらなくなったガラクタなんかが売っている店だが、黄乃松では、めったにお目に掛かれないような品が売っているようだ」


「俺、あれが欲しい!」茶々丸は飴の歩き売りを指差した。弾の話しなど聞いていないようだ。


ペロペロと飴玉を舐める茶々丸。
弾は茶々丸に飴を買ってやった。
せっかくの都だ、少しくらい贅沢をさせてやろうと思ったのだ。


そして、弾は話しを続けた。
「この都はいわゆる金持ちがあつまる豊な町だ。あらゆる国から集まってきた商売人たちが自慢の一点物を売りに来るんだ、骨董品なんかに目がない人間にとっては宝の山だ」



目の前には、立派な着物を着た金持ちらしき人間たちが真剣な眼差しで品定めをしている様子があちこちで見られる。


「俺、あそこ行ってみたい!」茶々丸がまたも指を差した場所は、甘い香りが漂う果物屋だった。相変らず話しを聞いてないようだ。


「話しを聞いてるのか・・・。意味がわかってこそ、物の見方もより面白くなるってもんだ。食べ物以外に興味はないのか」


「ねーよ。
あ、でも!俺も着る物が欲しい!格好いい羽織物とかいいな!そろそろ冬本番だしな」



「・・・羽織物?茶々丸が・・・?ハハハハ!」弾は大笑いをした。


「なんだよ!笑うなよ!弾だって服着てるだろ!ねずみの俺はだめだって言うのか!」


「なかなか、面白そうだ。探してみるか」弾は笑いをこらえながら言った。


「もういいよ!ふん!」茶々丸は恥ずかしそうに怒った。



にぎやかな町を進んで行く。
足取り軽く、色々な店を回った。
芸術品を扱う店、薬屋、茶々丸の羽織物も探しつつ歩き回った。



「おい弾。あの絵・・・さっきの店ですごく誉められたな」茶々丸は嬉しそうに言った。


弾はとある画廊へ行き、白火の村で出会った色葉の絵を見せに行ってきた。
予想道理、色葉の絵はとても気に入られた。



「あぁ、店に飾らせてもらいたいと頼まれた。きっと金持ちたちがこぞって欲しがるだろうが、この絵は多くの人々が見るべき絵だと店の亭主も言ってくれた」


色葉の絵は、堂々と画廊に飾られる事となったのだ。


「よかったな、色無き村の天才少女か・・・。みんなに認めてもらえた!

・・・そういえば!
さっき、店で何か売っていたか?」茶々丸は話を変えた。


ある小さな店で、弾が何かを売っていたのが気になったのだ。



「あぁ、薬を売ったんだ。
薬草を見つけて、薬を作る、そして売る。これが収入源ってやつだな。なかなかいい値で売れたぞ」弾は満足そうに言った。


「ふ~ん、だから銭なんか持っているんだな!」


「茶々丸にも、良い薬草を見つけたら、小遣いをやろう。自分を養う事、自立への一歩だ」


「本当か!そりゃいい話だ!でも、今日は買ってくれ!」淡々という茶々丸。



「・・・・・ちょっ」返事が見つからない。



そしてもう一軒、ある店に入った二人。
ここは焼き物が売っている店で、見た事のないような美しい皿などが売っていた。


すると、茶々丸にぴったりな大きさのおちょこを見つけた。
透き通るような緑色のおちょこだ。
茶を飲む事が好きな茶々丸は、とても気に入った。



「俺の嗅覚で最高の薬草を見つけるって約束するからよ、おちょこ買ってくれないか?」


「ん~・・・少し値が張るな。前借!前借だぞ!」弾は厳しく言った。


「うん!」茶々丸は目を輝かせた。


ご機嫌で店を後にした。
綺麗なおちょこ、茶々丸はしばらく眺めていた。


「吸い込まれそうな、綺麗な色だ~
これで茶を飲んだらより旨くなりそうだ!」




すると。
弾は何か気になる事があったのか、突然足を止めた。


「あそこの植物屋・・・」ぽつりと言う。


道の隅で植物を売っているその店。
弾はとても気になったようだ。



「兄さん、その木が気になるかい?」店の男が弾に声をかけた。


「珍しい客だ。人にとっちゃこんな不気味な木はない。売れやしねんだ」



“だが、妖怪にとってこんな大事な木はない”


弾は心の中で返事をした。
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