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一章 始まりの道筋
到着後
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「まずは宿を取って飯、と言いたい所だが、先に野暮用でギルドにいかにゃならん。もうちょっと待てよ」
ぐぎゅる、と可愛げもなくなった僕のお腹。そんな僕を半笑いで見下ろしながら、スティーグはまた頭を撫でた。雑に。
3度目の正直とか思った僕の負けだね。不満を伝えようにも、彼は僕と手を繋いだまま道をどんどん進んでいく。
見える風景は人の多さも相まってくるくると変わっていく。
「ぷげっ」
とか周りばっか見てたら、石畳に躓いて辺な声を出す羽目になった。自分でいってて悲しくなるけど、僕の音ってどうしてこう可愛げもないかな!
「よそ見ばっかしてっからそうやってコケんだよ。珍しいか何かしらんが、前みろよ」
「ごめんなさい、やっぱり色々気になっちゃって」
雑踏の中、見た事のない、体験した事のない場所なんだ。ちょっとくらいの余所見は許してほしい。
「こんな所、直ぐに慣れて気にならなくなるさ。ほら、行くぞ」
こけた時に離れた手をもう一度掴み、彼の横に並ぶ。やがて、盾と剣と杖が組み合わされた看板が掲げられた建物に辿り着くと、スティーグは扉を開けてずんずんと中へ進んでいった。そして銀行の受付みたいなローテーブルにいる若い女の人の所へやってきた。おお、この人なんてなんか猫耳みたいなのついてる! 獣人とかそういう人なのかな?
「あら、スティーグ。貴方この間キールに行ったばかりじゃなかったの? それにーーモテないからってそんな子供を買うだなんて幻滅ね」
「買ってねぇよ。拾いもんだし、そんな気もねぇ。野暮用でな、ちょっと向こうで受けた薬草の納品依頼を、破棄しておきたいんだ」
「あらそ、拾い物なら親御さんのところにきちんと返しなさいね」
そう言いながらお姉さんは机の影になってる所でゴソゴソと作業を始めた。
「こんな格好させとく親に戻せってか? 本人も逃げたがってんだから、どうにかしてやるさ」
「ふーん。ま、連れ歩くならもうちょっとマシな格好させてあげることね。と、依頼は薬草の納品って相変わらずの仕事ぶりね。破棄の連絡と違約金で銀貨10枚か大銀貨1枚ね」
……やっぱり、お金かかっちゃうんだ。
「ほらよ。向こうの薬屋には悪いって伝えておいてくれ」
スティーグが腰袋からまた一掴み、銀貨を持ち出す。
「スティーグ、ごめんなさい……」
「ガキは大人の金の事なんて気にしてんじゃねぇよ。」
「そうよ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんよね? こういう男にはお金出させておけばいいの。後でちゃんとかわいくしてもらいなさいね」
「けっ、そんな事いってっから男がよりつかねぇんだろうが」
ベシッという音と共に紙束がスティーグの顔に叩きつけられる。わお、痛そう。でもあれはないよね、流石に味方できないや。
「ここ最近の依頼のリストよ。またしばらくここに居るなら必要でしょ?」
なんかすっごい笑顔なんだけど、迫力を感じるなぁ……
結構な勢いで叩きつけられて、良い音がしたせいか、周囲の視線が集まる。
「助かるぜ。そんじゃな」
そんな状況に少し慌てたのか、叩きつけられた紙束を拾ってスティーグはとっととその場を離れ出した。置いていかれないように、その後ろを追いかける。
「次は宿とその見てくれだな。さっきみたいな勘違いでもされた日にゃ、外を歩けやしねぇ」
外に出ると、追いついた僕の姿を上から下まで確かめるように見てくる。うん、確実に知り合いとかに見られたら困るだろうね。でもそこでまたお金を使わせるなんてーー
「さっきの、あー、変な耳の女。ラウラってんだがそいつも言ってたろ。男にゃ金を出させときゃいいのさ」
また、乱雑に頭を撫でてくる。もうその手には諦めの境地だよ。でもどこか、心地よくも感じちゃうな。
何度目か、彼の手を掴んで横に並んで歩く。牛小屋の中と違って色とりどりの世界はやっぱり新鮮だ。
道を何度か曲がって次にたどり着いたのは、鶏らしき絵が描かれた看板のお店だった。ここでも彼は扉を開けるとさっさと進んでしまう。
「モーリッツ! 部屋あるか? ベッド二つで一部屋だ」
その店の奥、テーブルを拭いていたすっごい大男、本当大男だよ、だって僕が見上げなきゃいけないスティーグが見上げなきゃいけないんだから。僕が顔を見ようとしたら遠くから見るか首を痛めるかになりそう、にスティーグが気安く話しかける。
「ーー2階。右手、奥から3番目。」
寡黙、なのかな。その言葉だけ発すると大男はまた机拭きに集中する。
「ああそれと、湯をもってきてくれ。」
その姿にそれだけ声をかけると、さっさとスティーグは階段へ向かってしまった。見失わないように追いかけて階段を登るとザ・宿屋な廊下が広がっていた。言われた通り右手の奥から3番目の扉をあけると、シンプルな部屋にベッドが二つ。それだけの部屋だった。
「よし、俺ぁちょっと買い物してくっから。もう少ししたらあの大男が湯を持ってくる、身体洗って待ってろよ」
ええ、なになに。そのシャワー浴びてこいよ、みたいな。わーお、乙女のピンチ? ちょっと身体庇っちゃう。
「おう、今おめぇの考えてる事がよーくわかる。んなわけあるかド阿呆。大体その盾みてぇな体に興味なんぞあるか!」
ぐぎゅーっと頭を手で押さえつけられる。冗談なのにね。でもこうしたやり取りって何か楽しいな。
「いいか、あの大男はノックしかしねぇ。それ以外は全部無視しとけよ、わかったな」
それだけ言うとスティーグはベッドに背負ってた荷物やマントを放り投げると、身軽な格好で外に出て行った。
「あ、身体洗った後どうしとけばいいんだろ」
まさか素っ裸でいるわけにもいかないし、このボロ切れをもう一回身につけるのは…… ちょっと嫌だ。
汚れた服のままベッドに座るのもなんだし、という事で僕は部屋の隅っこに座り込むと、そこでドアがノックされるのを待った。
ぐぎゅる、と可愛げもなくなった僕のお腹。そんな僕を半笑いで見下ろしながら、スティーグはまた頭を撫でた。雑に。
3度目の正直とか思った僕の負けだね。不満を伝えようにも、彼は僕と手を繋いだまま道をどんどん進んでいく。
見える風景は人の多さも相まってくるくると変わっていく。
「ぷげっ」
とか周りばっか見てたら、石畳に躓いて辺な声を出す羽目になった。自分でいってて悲しくなるけど、僕の音ってどうしてこう可愛げもないかな!
「よそ見ばっかしてっからそうやってコケんだよ。珍しいか何かしらんが、前みろよ」
「ごめんなさい、やっぱり色々気になっちゃって」
雑踏の中、見た事のない、体験した事のない場所なんだ。ちょっとくらいの余所見は許してほしい。
「こんな所、直ぐに慣れて気にならなくなるさ。ほら、行くぞ」
こけた時に離れた手をもう一度掴み、彼の横に並ぶ。やがて、盾と剣と杖が組み合わされた看板が掲げられた建物に辿り着くと、スティーグは扉を開けてずんずんと中へ進んでいった。そして銀行の受付みたいなローテーブルにいる若い女の人の所へやってきた。おお、この人なんてなんか猫耳みたいなのついてる! 獣人とかそういう人なのかな?
「あら、スティーグ。貴方この間キールに行ったばかりじゃなかったの? それにーーモテないからってそんな子供を買うだなんて幻滅ね」
「買ってねぇよ。拾いもんだし、そんな気もねぇ。野暮用でな、ちょっと向こうで受けた薬草の納品依頼を、破棄しておきたいんだ」
「あらそ、拾い物なら親御さんのところにきちんと返しなさいね」
そう言いながらお姉さんは机の影になってる所でゴソゴソと作業を始めた。
「こんな格好させとく親に戻せってか? 本人も逃げたがってんだから、どうにかしてやるさ」
「ふーん。ま、連れ歩くならもうちょっとマシな格好させてあげることね。と、依頼は薬草の納品って相変わらずの仕事ぶりね。破棄の連絡と違約金で銀貨10枚か大銀貨1枚ね」
……やっぱり、お金かかっちゃうんだ。
「ほらよ。向こうの薬屋には悪いって伝えておいてくれ」
スティーグが腰袋からまた一掴み、銀貨を持ち出す。
「スティーグ、ごめんなさい……」
「ガキは大人の金の事なんて気にしてんじゃねぇよ。」
「そうよ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんよね? こういう男にはお金出させておけばいいの。後でちゃんとかわいくしてもらいなさいね」
「けっ、そんな事いってっから男がよりつかねぇんだろうが」
ベシッという音と共に紙束がスティーグの顔に叩きつけられる。わお、痛そう。でもあれはないよね、流石に味方できないや。
「ここ最近の依頼のリストよ。またしばらくここに居るなら必要でしょ?」
なんかすっごい笑顔なんだけど、迫力を感じるなぁ……
結構な勢いで叩きつけられて、良い音がしたせいか、周囲の視線が集まる。
「助かるぜ。そんじゃな」
そんな状況に少し慌てたのか、叩きつけられた紙束を拾ってスティーグはとっととその場を離れ出した。置いていかれないように、その後ろを追いかける。
「次は宿とその見てくれだな。さっきみたいな勘違いでもされた日にゃ、外を歩けやしねぇ」
外に出ると、追いついた僕の姿を上から下まで確かめるように見てくる。うん、確実に知り合いとかに見られたら困るだろうね。でもそこでまたお金を使わせるなんてーー
「さっきの、あー、変な耳の女。ラウラってんだがそいつも言ってたろ。男にゃ金を出させときゃいいのさ」
また、乱雑に頭を撫でてくる。もうその手には諦めの境地だよ。でもどこか、心地よくも感じちゃうな。
何度目か、彼の手を掴んで横に並んで歩く。牛小屋の中と違って色とりどりの世界はやっぱり新鮮だ。
道を何度か曲がって次にたどり着いたのは、鶏らしき絵が描かれた看板のお店だった。ここでも彼は扉を開けるとさっさと進んでしまう。
「モーリッツ! 部屋あるか? ベッド二つで一部屋だ」
その店の奥、テーブルを拭いていたすっごい大男、本当大男だよ、だって僕が見上げなきゃいけないスティーグが見上げなきゃいけないんだから。僕が顔を見ようとしたら遠くから見るか首を痛めるかになりそう、にスティーグが気安く話しかける。
「ーー2階。右手、奥から3番目。」
寡黙、なのかな。その言葉だけ発すると大男はまた机拭きに集中する。
「ああそれと、湯をもってきてくれ。」
その姿にそれだけ声をかけると、さっさとスティーグは階段へ向かってしまった。見失わないように追いかけて階段を登るとザ・宿屋な廊下が広がっていた。言われた通り右手の奥から3番目の扉をあけると、シンプルな部屋にベッドが二つ。それだけの部屋だった。
「よし、俺ぁちょっと買い物してくっから。もう少ししたらあの大男が湯を持ってくる、身体洗って待ってろよ」
ええ、なになに。そのシャワー浴びてこいよ、みたいな。わーお、乙女のピンチ? ちょっと身体庇っちゃう。
「おう、今おめぇの考えてる事がよーくわかる。んなわけあるかド阿呆。大体その盾みてぇな体に興味なんぞあるか!」
ぐぎゅーっと頭を手で押さえつけられる。冗談なのにね。でもこうしたやり取りって何か楽しいな。
「いいか、あの大男はノックしかしねぇ。それ以外は全部無視しとけよ、わかったな」
それだけ言うとスティーグはベッドに背負ってた荷物やマントを放り投げると、身軽な格好で外に出て行った。
「あ、身体洗った後どうしとけばいいんだろ」
まさか素っ裸でいるわけにもいかないし、このボロ切れをもう一回身につけるのは…… ちょっと嫌だ。
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