異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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一章 始まりの道筋

食事は大事

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「ほら、好きなもん選べ」

 席についた僕に、スティーグが一枚の木の板を渡してくる。ちらりと見ると、装飾された文字と数字が描かれている、メニューだった。

 何で分かるかって? だってそりゃあご飯食べに来て渡されるのがメニューじゃなかったらなんだって言うのさ?

「うーん…… 読め……る?」

 うん、文字は装飾文字っぽい形で読みにくいっちゃ読みにくいけど、なぜか頭にすんなりと言葉が入ってくる。しかもよくよく見ればそのメニューの文字はみたいだ。

 並んでいるのはポテトスープや焼きソーセージ、ハンバーグにニシンの塩漬け、酢キャベツとかとか。でもお金を出すのがスティーグってなると…… やっぱり遠慮が頭に走る。

「ガキが大人に遠慮してんじゃねぇよ。好きなもんでいいんだよ好きなもんで」

 そんな僕の心の中を察したのか、声をかけてくれる。ほんと言葉は悪いよね、スティーグ。

「うん、でも好きなものって言っても…… 何が良いかもさっぱりなんだ」

 だって、仕方ないじゃない?  今までってかったいパンに水みたいなスープがほとんどだったんだから。日本での食生活があるからメニューの中身もある程度想像はつくけど、実際の味なんてどれが好みかなんてわからない。

「そうかよ。んじゃ適当にこっちで決めるぞ」

 それだけ言うと板を持って奥にいる大男さんの元へ向かっていく。こうして何が出てくるかわからないってなると、昔子供のころにレストランに行ったときのわくわく感を思い出すね。あ、今も子供か。

 宿に来た時と違い宿泊客だろうか、テーブルはいろんな人でごった返している。あ、広間の端には見慣れない楽器を持った人までいる。吟遊詩人とかだろうか。

「きょろきょろしてんな。下手に目ぇ合うと喧嘩っ早い奴だっていんだからよ」

 外にいたときとはまた別のファンタジー感を味わうために当たりを見回していた僕の頭が掴まれる。乙女の頭って撫でるもので、そうやってわしづかみにするもんじゃないと思うんだけどな。

「ほれ、待つ間くらいジュース飲んでおとなしくしてろ」

 木でできたコップが僕の前に置かれる。色と香りからしてブドウジュース?  あ、でもスティーグの方からアルコールの匂いがする。

「なんだよ、こっちはやんねぇぞ」

 もちろんだ、むしろアルコール進めてきたらちょっと疑うよね。向かい合う席にスティーグが座る。

 あ、すでに息がアルコール臭い。

「エールぐらいなら飲ませてやらんわけじゃないが。いきなし飲ませて後が面倒になっても困るしな」

 気持ちよさそうにぐいーっとコップを呷る。うーん、僕だってお風呂上りの一杯くらいしたいのにな。といっても生前にも飲酒は経験ないから下手に飲んでぐでんぐでんになってごはんの味もわからなくなるのは勘弁だ。

「子供に、酒を勧めるな」

 気が付けば、僕の背後には両手にお盆を抱えた大男さんが立っていた。改めてみてもおっきいなぁ……

 そして、目のまえにお盆が置かれる。載っている料理はなんかひらぺったいカツに茶色いパン、スープと付け合わせだ。うーん香りが暴力的。 

 もはや僕の視線は料理に固定されてうごかない。きっとご飯を前に待てをされた犬ってこんな気分なのかな。

「好きに食えよ。足りなかったら言えばいい」

「いた、だきます」

 スティーグの声とその手元にお盆が置かれたことを確認すると同時に、料理に手を付ける。まずはカツだ。
 横に添えられたナイフとフォークを持って、カツに刃を入れるとバリっという音とともに衣がはがれ、身が切れる。一口噛んでみれば薄目ながらもかりっとした衣が薄くて柔らかい肉とともにうまみを引き立ててくれる。んー、たまらない!

 付け合わせにも手を伸ばしてみると、ほんのりとした酸味が肉の脂をこそげてくれるようで口の中がさっぱりする。

 次はパンだ。一口噛むと思ったよりも固くて、ちょっとぽろぽろとこぼれてしまう。味も今まで食べなれていたパンと打って変わってちょっと酸っぱい。だけど嫌な味ではなく、むしろお肉とよく合いそうな酸味だ。実際にスティーグは切ったお肉をパンに乗せて一緒に食べていたりする。真似して食べてみると柔らかいにくと固いパン。そして肉の旨味がパンに程よく寄り添って揚げ物ながらもすっきりと味わいに―― 

 って食レポをしてどうする僕!  あぁ、でもこのおいしさは感動ものだ。ファンタジーってどこか食事に期待できないイメージがあったけど、良い意味で裏切られたね。もしかしたらこの宿が特別なのかもしれないけれど、これは今後の食事にも期待ができる。それだけでも頑張る気力が沸くってもんさ。

 スープだって見た目は具沢山でごたごたしてるけど、口にしてみれば野菜の甘味とスパイスの味かな? ちょっとぴりっとする味が匙を進ませる。あの水みたいなスープに比べたら、味が密集しすぎて、うまく言い表せないや。

「おいおい、このくらいなら毎日とは言わんが適当にくわせてやっから、落ち着いて食えよ」

 どこか必死で食べていた僕にスティーグからの声が投げかけられる。でも今のこの味を必死に味わいたいんだ。

 無言で食べ続けるを僕を傍目に彼を酒を飲みながらも僕よりも早いスピードで食べ進めていく。一口一口が豪快だ。

 僕が食べ終わるころには彼は当然食べ終えて、ワインを何度かお替りしてちょっと顔が赤くなっていた。

「よーし、あとは明日だ明日。寝るぞー!」

「それやめて!  ワンピースだからずり上がっちゃうし見えちゃう!」

 僕の服の首筋を掴んで立ち上がらせるスティーグ。あぁ、もうすっごいアルコールの匂いしてるし、酔っぱらってるな。

「んー、見られてどうこうとかそういう年じゃねぇだろぅ」

「年とかどうとかじゃなくて!  やなのー!」

 必死でスティーグの手を振り払って先に階段を上る。

 まったく彼のデリカシーのなさはひどいね。この世界にデリカシーのなさ選手権があれば上位に食い込むに違いない。

 ちょっとくしゃくしゃになったワンピースを伸ばしてもとに戻すと、ベッドに身を投げ出す。

 多分中身は干し藁であろうベッドはごそごそするけども、牛小屋とは比較にならない心地よさで僕を受け止めてくれる。

 程よい満腹感によって訪れた眠気は、僕を暗く遠い心地よいところへと誘っていった。
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